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「そういえばその強さといい、アリシアさんの身の上について聞いたことありませんでしたね」
「うん、ようやく少し興味を持ってくれて嬉しいかな。ずーっと聞いてくれないからさ」
「必要か必要ではないかと聞かれれば、必ずしも必要ではないですし」
ドラゴンのない日、訪れたアリシアさんにふと尋ねてみた。必要ない情報ではあるが、少しは知っておいて損はないだろう。
「そんな複雑な話でもないよ。普通の家に生まれたものの、両親は早くに死んじゃった。それで師匠に拾われて、5歳の頃から戦闘技能を仕込まれてたっけ。その結晶が今のプラチナってこと」
「アリシアさんの師匠……。どんな人ですか?」
「うん、一言で表すならダメ人間だね」
「ダメ人間ですか……」
ダメ人間、まさかそのままの言葉で聞くことになろうとは。一体どんな人だ。
「そりゃあ私を見ればわかるように、強さにかけては折り紙付きだったよ? でもその他全てが壊滅的だったの。掃除はできないし洗濯もまともにしない、食事なんてひどいものだったからさ。私が引き取られてからは鍛えてもらう、お金の面倒を見てもらう代わりに、そういった諸々をやってたんだよね」
「しかし、アリシアさんは今こっちに出てきてますよね。師匠はどうなっているんですか?」
「ゴミ屋敷に逆戻りしてるんじゃないかな」
どうやらアリシアさんの師匠兼育て親もキワモノらしい。それでもこんなに良い子……じゃないけど、根は良い子に育ってる辺り、鍛え方は間違っていないのだろう。
「一応出てくるにあたって免許皆伝は言い渡されてるけど、あくまでそれは技術だけ。戦力としては師匠の足元にも及ばないんだよね。半ば世捨て人みたいな人だから、何かあった際に協力を仰ぐのは難しいけど」
「難しい方ですね。いずれご挨拶に伺いたいところです」
「いやっ、やめたほうがいいよ……」
何やら少し焦りがうかがえる、何を隠していることやら。
まあアリシアさんから師匠さんの家を聞かないことには尋ねることもできない。またいずれ聞いてみることにしよう。