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「ほんっっとうに申し訳ありませんでした!!」
「ええ、部下は不満をぶちまけるサンドバッグではありません。本当に反省してください」
あのあと一晩中身体を噛み付かれ、容赦なく叩かれた結果、全身歯型と腫れができていた。消えるものは消えたが、歯型は結構残ってる。なんだこの凶暴生物は。
一応笑顔でいるが、内心は呆れ一色に染まっている。酔ったってそうはならんやろと、いやなっとるやろがいと。なんだこいつは。
「へレーナさんの奇行のせいでミスリル囲い込みとか、もう正直どうでもよくなりました。帰りますよ」
「はい……」
人目を気にせず騒ぎ立て、挙句暴力的に襲われるという。しかも割と噛む力が強かったのがほんと。恨みでも買ってたっけ、内心嫌われてたりするか? など記憶を辿ってしまう程度には、あれだった。
こういう一面が発掘されないとも限らないと考えると、リュミとのお付き合いを決めずに戻ってもらったのは、多分正解だったのだろう。
「まあ、これからもアリシアさんに頑張ってもらいましょう」
「……」
一応最終手段ではあるが、王都のミスリルにいくつかツテはある。どうしようも無くなったら出すが、正直使いたくないので最終手段である。アリシアさんも一人で大丈夫って言ってたし、申し訳ないが、当面はソロで続けてもらおう。
ギルドに戻り受付に着いたあとで、匂いを嗅ぎつけたかのように現れるアリシアさん。一日ぶりである。
「昨日はせっかくドラゴンやって来たのに、どこいってたの?」
「ギルドの仕事です。ちょっとストレイまで行ってました」
「へー。あれ、これ噛まれた跡? いくつもあるけど」
「へレーナさんに本気でめちゃくちゃ噛まれました」
「何したの?」
「何もしてません。八つ当たりされました」
「おっけい。コロスっ」
「ステイ! 一応私からも言うだけ言いましたから、やるにしても釘を刺す程度にしておいてください」
「わかった、楔打ち込んでくるね!」
「えっと、話聞いてました?」
それ以降、へレーナさんがアリシアさんを避けるようになったのはまた別の話。