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さて、メイズに来てからある程度経過したが、やはり唯一の男性窓口はガラガラである。
その代わりと言ってはなんだが、空いてる時間でギルドを彩る飾りを作っていたり、内職をしていたりもする。メイズ式に慣れてくると対応もすぐ終わるため、余裕が生まれているのだろう。
と、今日も来たようだ。
「今日もかっこいいおにーさん、素敵な依頼をくださいな!」
「こんにちは、アリシアさん。何か希望はありますか?」
「報酬がおにーさんの依頼とかないかなー」
「ないので、ジャンブルドラゴンの討伐出しときますね、目的地はジャンブル高原です。特徴的な角、あるいは首を証明として、持ち帰ってきてください」
アリシアさん。彼は少し変わっていて、依頼選びを全てこちらに任せてくる。プラチナであるせいか、厄介なのはこちらに流れてくるようになっている、あと普段は何故か頻繁に湧く竜狩りをしてもらっている。
「はいはーい、おまかせー。ところでさ、こんなに頑張ってるのに、いってらっしゃいのキスもないの?」
「キスはないですが、クッキーならあります。軽食としてどうぞ」
「やった! ありがとねー」
「ご武運をー」
クッキーの詰め合わせを片手に、上機嫌でもう片方の手を振りながら出ていくアリシアさん。こんな具合に飲みや誘いは躱している。
「まーたやってるよ」「いつまで持つのかねぇ」などと他の冒険者に囁かれているが、余程のことがない限りここを辞めるつもりは毛頭ない。
一時はどうなるかと思ったが、確か男の娘と言うんだったか。プラチナさんことアリシアさんを除けば、ただ暇なだけの快適職場である。
生活については王都と比べて少し不便ではあるが、それを補ってなお余りある職場環境。既に根を張ることすら考えている。
と、続いてヘレーナさんも来た。二日目以来か。
「キリハさん。少し経ちましたがどうですか、メイズ支部は」
「はい、慣れてきましたし本部と比べても、特に不自由はありません。うまくやっていけそうです」
「それはよかったです。ところであの地雷については……」
「プラチナさんについては、極力触らないようにしてます。お誘いには乗らず、話題を逸らし、なんやかんや丸め込んでいます」
「まだ毒牙にかかっていないのは、喜ばしいことです」
「うーん、素直に喜べない」
毒牙にかかることを前提として、話しているせいだろう。