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「あ、キリハさん。外にいるなんて珍しいね」
「今日の依頼はギルドではなく、メイズからの討伐依頼になります、あれを」
やはり朝早くから現れた、小さな救世主を促した先には、巨大な竜。濃密なオーラを纏っており、今まで来ていた竜とは一線を画してそうな、格が違うのがなんとなくわかる。一応ギルドの冒険者総出で、遠巻きに囲んでいるが腰も引けている。強くてゴールド共じゃ、竜に対しては塵芥に等しい。
『我はトワイライトドラゴンロード!! 我が配下達が、随分と世話になったようだな!!』
その咆哮はビリビリと空気を震わせ、立っているのもやっとであった。つまりあれだ、これは今までメイズに出没していた、ドラゴンの親玉らしい。
『我は無駄な争いは好まぬ、我が配下を尽く打ち倒した者よ。我が前に来い!! 我が軍門に下るのならば歓迎しよう。だが断るのなら、この街を破壊し尽くすだけだぁ!!』
どうやら仲間を倒されて怒っているか、あるいは興味を持っているのだろうか。ともかくこの事態を収拾できるのは、アリシアさんをおいて他にない。となると、当然こちらも巻き込まれるわけで。
「ですって。とりあえず前へ」
「えー、怖い!! 一緒に来て?」
「随分と余裕ですね……」
このやばそうなのを目の前にしても、一切動じていない。それどころか、ふざける余裕すら。それともアリシアさんにしてみれば、大差なかったりするのかしらん。それに今までは任せ切りだったのだ、たまには労うとしよう。そう覚悟を決めて、アリシアさんの左手を握る。
「まあなんだかんだ、アリシアさんの傍が一番安全ですし。一緒に行きましょう」
「そう来なくっちゃね!」
「プランはありますか?」
「アドリブでよろしく!」
「ええ……」
ノープランらしいが仕方ない。あんまり待たせるのもあれなので、足並みを揃えてドラゴンの前へ。
……いや、やっぱ安全じゃなくても後ろにいたい。恐怖とは別になにあれ、近づくほどに威圧とオーラで息苦しくなってきた。毒物でも押し込まれてるような感覚……ちょ、まってまって。身体が拒否反応を、汗が、吐きそう、あっ倒れる、意識が飛んじゃう。
やっぱり、すぐに飛んじゃう一般人なんだなあって……。
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「キリハさん!?」
成り行きでキリハさんと手を繋いで、ドラゴンの前に出てみれば、突如キリハさんの顔色は真っ青で目は虚ろになり、異常なまでの発汗と痙攣しながら倒れ込みそうになる。
咄嗟に支えたものの、楽しんでいる余裕など微塵もなかった。自分であればあの程度問題ないが、キリハさんは別だった。とにかく、酷い体調であることは間違いない。ど、どうにかしないと……!
「そこのゴールドの中にヒーラーの人はいますか!?」
「わ、私がヒーラーです」
呼び掛けに、おずおずと進みでる女性が一人。よかった! 朝早かったから微妙だったけど、いるだけ御の字! キリハさんを運ばないと。
『強者はいないのか!! ならばこの街を破壊し尽くすだけだぁ!!』
「ひいっ!!」
ああっ、威圧でヒーラーさんが腰を抜かして漏らしてる!! できる限り冷静にやってもらいたかったのに、あんのくそトカゲなんてことを!!
すぐにキリハさんをヒーラーの人の横まで運び、小さく告げる。
「最低限生かしてね。生きてさえいれば、報酬は金貨二百枚だからね」
涙を浮かべて怯えながらも、ヒーラーの人がこくこくと頷くのを確認したあとで、すぐにくそトカゲに飛びかかり、右目を切りつける流れのまま、剣を解放して首に巻き付け、遠くへ投げ飛ばす。これ以上、あれを近くには置いておけない。
「おのれ!! よくもキリハさんを!! そうだよ、私があの雑魚どもを片付けた輩だよ!! 覚悟しろ!!」
『ぬあああああ!! 不意打ちとは卑怯な!!』
投げ飛ばしたままに啖呵を切って突貫、地面を転がる奴の死角になった右側から、横っ腹の鱗に剣を滑り込ませて、力任せにいくつか削り取る。
『貴様っ! 我の高貴な鱗を!!』
「コロスっ!!」
これが体勢を立て直すよりも先に、肉の剥き出しになった箇所を、これでもかと言うほどに切りつけ、その上で剣を深く打ち込み、剣を通して全力の魔法も中に注いでやる。
「ブリザード!! ライトニング!! ライトニング!!ストームライトニング!!」
『うがあああああ!! ま、まて、それ以上は!!』
「スプレッドフレイム!!」
『うおあああああああああああ!!!!』
本気も本気の魔法を連発してやれば、それらは内部から身体を破壊し、最後は身体中の穴という穴から炎を吹いて、奴は息絶えた。
そんなことよりキリハさん! 容態の確認のため、すぐにヒーラーの元へ戻る。
「ヒーラーの方、キリハさんどうなってる!?」
「一応、応急処置は済ませました。しかし、まだ余談を許さない状態です」
「治せないの……?」
「この場で私にも治せたらよかったんですけど、技量と必要な治癒魔法も足りてませんで、すみません。あとは治療院に運ぶしかありません」
「うあああ死なないでぇ」
「は、運んでる間も可能な限りは、お力になりますから。今は負担をかけずに移動しましょう」
そうだ、喚いている場合ではない。せっかくここまでしてくれるのだ、動かねばなるまい。脚と脇に腕を入れて姫抱きにして、ヒーラーの人と移動を開始する。
ちょくちょく回復をかけてくれているおかげか、ある程度はダメージが少なくなっていそうか。
「せっかくなので、この機会に聞いてもいいですか」
「なにかな」
「なんでこの方というよりかは、男性のギルド員に執着してるんですか?」
「執着ねぇ」
理由は至ってシンプルである。
「下手に冒険者相手だと喧嘩とかした時に、殺し合いレベルに発展しそうだし、そうなったら大抵の相手は惨殺しちゃう自信があるからかな」
「ええ……」
「その点ギルド員さんであれば、むさい男より爽やかでかっこいい人多いし、こっちが下手に出ることになるので安心。あと家事してくれそうってとこかな」
「意外とわかりやすい理由ですね、しかしアプローチ方法に問題はあると思います」
「うっ」
「冒険者ゆえ難しいにしても、時間をかけて距離を詰めていくのが一番の近道だと思います。あなたの場合は狙いが異性ではないですし」
「ですよね……」
色々と話している間に治癒院に着いたので、事情を伝えてキリハさんを任せて、ヒーラーの人に金貨を渡して解散とした。どうかキリハさんが助かりますように……。




