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長いの基準は今回くらいなので、他と比べたら長いのうちには入りませんで。
「さて、本日からメイズ支部の職員として働いてもらいますが、はっきり言います。メイズ支部では男性は長続きしません」
「え、……初っ端から何を言っているんですか?」
翌日、ギルドが開く前に準備を整えていると、ヘレーナさんが声をかけてきた。それにしたって、第一声が長続きしないとはいったい……。
「本部がどうかは知りませんが、ここメイズ支部では女性冒険者が少ないため、男性職員の需要が少ないんですよ。今までの男性職員は暇すぎて、辞めるなり、配置換えを申請するなりして、出ていってしまっています」
「暇すぎてって、別に給金出るならいいのではないですか」
「そこは人それぞれですが、この他に特級地雷とも言うべき扱いにかなり困っている、とある冒険者が原因でもあります」
「特級地雷てなにさ……」
「実際に会えばわかります、それにげんなりしたって理由がかなりを占めていたりもしまして。まあ実際に見るのが早いです」
「はあ」
「個人的には、ギルド運営側の力仕事の際に面倒なので、男性職員には残ってもらいたいのですが、キリハさんはどうでしょうかね」
言うだけ言って、ヘレーナさんは持ち場に戻ってしまった。いきなり不穏である。
対応してもらうなら、異性の方がいいというのはわかる。自分もむさ苦しいオッサンより、美人な女性店員に接客してもらいたいと思えば普通なのだから。それに冒険者は腕っ節が求められ、田舎ともなれば女性が少ないのも頷ける。
その面は仕方ないとして、気になるのは地雷とも称した冒険者である。果たしてなんなのか。
「はい、討伐証明部位の確認終わりました。こちら報酬です、お疲れ様でした」
実際かなり暇であった。端の受付で座っているが、既に昼下がりだというのに、対応人数はまだ5人ちょっとである。
人気の女性受付は長蛇の列だったりもするのだが、それでもこちらにほとんど流れてこないのは、他に空いている女性受付もあるからである。などと考えていれば、対応した女性冒険者から声をかけられた。
「ところであんたは初めて見るんだが、別支部からのヘルプかい?」
「いえ、昨日からこちらへ異動となりまして、本日が対応初日です。ただ、男性職員が私しかいないこと、美人女性の他の列ががらがらなことであったり、本部とはえらい違いますね」
「前は本部にいたって、なにやらかしたのさ」
「様々な事情の元、不正を告発しただけです。不思議ですね」
「ああ、上層部の腹ん中は黒いねえ……。まあそういうことなら歓迎するよ、あたしはサラってんだ。何か困ったことがあれば相談に来な」
サラと名乗った冒険者は、若いながらもシルバーの中堅冒険者であった。将来が期待できそうだ。
冒険者のランクは6段階に分けられており、下からアイアン、ブロンズ、シルバー、ゴールド、プラチナ、ミスリルとなっており、首から下げているプレートで判断できる。
大半は全盛期でもシルバーで止まりのため、早くからその域に達している場合、先にあるゴールドやプラチナが見えてくる。
ちなみにミスリルに関しては、大半は転生者用ランクである。稀に別世界や前世の記憶を持って生まれる者がおり、それらは大抵プラチナでも歯が立たないほど強いのが通例である。転生者以外であっても、ミスリルになれないこともないが、中でも割合はかなり少ない。
しかしうーん、やりがいが無いというのも、すごい頷ける。もうそろそろ閉まる時間だが、1日の対応人数が10人にも満たないってどういうことだ。個人的には忙しかった本部からの異動のため、ありがたいくらいでもあるが。
そんな中、駆け込んできた女性冒険者が自分の受付へとやってきた。
「間に合ったー、ギリギリセーフ。これ討伐証明だけど……、おにーさん見ない顔だねぇ。私アリシアっていうの。ねぇ、仕事終わったあとでいいからさ、飲みに行かない?」
「はじめまして、昨日から異動してきましたキリハと申します。以後お見知りおきを。流石にまだ、飲みに行くほどメイズに慣れていませんので、改めてお誘いいただければと」
お誘いはやんわり断りつつ、討伐証明を確認すれば竜の鱗であった。ぱらぱらと討伐確認のファイルをめくりつつ、ちらと女性を見れば昼頃に来たサラよりも若く、恐らく16歳くらいだろうか。女性というよりは少女である。
だが首から下げているのは、プラチナのプレートであった。ミスリルならまだわかるが、プラチナとはこれいかに。
「えー、いいじゃん。不慣れなら色々と案内してあげるからさー、その足で飲みにいこ?」
「いえ、他に来たばかりなので仕事もありますから」
断ったものの飲みへのお誘いは続き、なにやらべたべたと手を触ってくる。何だこのプラチナは、プラチナとはとても思えないが、討伐証明がその力は物語っている。証明部位の確認は終えた、一旦は報酬を渡して追い払おう。そしてヘレーナさんに、この謎のプラチナについて聞かねば。
「こちらスケイルドラゴンの報酬です。アリシアさんはお若いのに、素晴らしい腕をお持ちですね。これからも頑張ってください」
「素晴らしいだなんてやだなー、もう。褒めたって飲みのお誘いしか出てこないよー? だから飲みいこー?奢るからさー」
一向に退く気配がない。と、困っていたところにヘレーナさんが。
「キリハさん、この後で追加講習あるでしょう? あとは私がやっておきますから、行っててください」
「ヘレーナさん、すいません。ではあとお願いしますね」
「あ、ちょ、待っ」
ヘレーナさんと入れ替わるように、奥の部屋へと逃げ込む。
プラチナに抵抗なんて出来るわけないため、あのままだと拉致すらされそうだったが、助け舟を出してくれたおかげでなんとか助かった。その少し後で、ヘレーナさんも部屋に入ってきた。
「ありがとうございます、助かりました」
「いえ、地雷が相手では仕方ないですから」
「そうです、あのプラチ……地雷ってまさか」
「はい、あれが男性職員を追い払う大きな理由。プラチナの特級地雷です」
朝話していた地雷とは、彼女のことだったか。プラチナで地雷とは、何か事情を抱えているのだろうか。
「異様に押しが強い以外には、特に問題はなさそうでしたが。どの辺が地雷なのでしょうか」
「アレは男性です」
「えっ、明らかに女性では」
「男性です、そして若い男性職員を飲みに誘っては、酔わせて襲っています」
「えっ」
「一応良心がほんの少し残っているのか、逃げた場合に追いかけることはないため、幸い食われた職員はいません」
「……物理的に?」
「性的にです。物理的だったら、既に討伐されていてもおかしくありません」
つまりそういうことらしい。気に入った男性職員は、あのプラチナから性的な目で見られ、ホイホイと飲みについて行ったが最後、襲われかけてここから逃げ出すというわけだ。
なんだこの、……なんだこれ。地雷っていうから、もっと厄介なものと思ってたけど。
「もっと厄介なものだと思っていた。なんて考えているなら、それは捨てた方がいいですよ。貴重な戦力である彼を引き止めるためだけに、定期的に男性職員を呼んでいるという側面もあります。つまり貴方はこの先、半分彼の専属みたいな扱いにもなります」
「なるほど、それはそれは……」
なんとなく、今までの職員が逃げていったのがわかった。今後は注意して当たるとしよう。
キリハは24歳でひとつお願いします。
アリシアは18歳で。