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別の日、リードが満面の笑みで歩いてきて、カウンターにばさりと紙束を置いた。いやな予感がする。
「その通り。俺たちがここに来たのは魔王対策の一環だが、ついでにな」
「はあ」
「王都のギルドでお前に世話になってた冒険者の署名を募ってな、面白いほどに集まったんだコレが」
「なるほど」
置かれた紙束に軽く目を通す。
いや、確かにそうは言ったが。こっちの前に上に掛け合えとは言ったが。
まさか突破してくるとか思わなかったんだが……。
「リュミを回収してからの話だが、一応新しく配属された職員に適応しようと頑張ったんだがな。今もあまりうまくいってなくて、それでもなんとか冒険者側で協力体制を敷いて頑張ってたんだ。署名をちまちま集めながら渋る幹部連中に訴えて、ドラゴンだったり魔王のあれこれでメイズも王都もガタガタしてるときた。んで、ようやく今回ちょっと落ち着いて来れたわけだ」
「しかし、あの上の構成員をどうにかできるわけがありません……」
「わざわざこんなものを持ってきてる時点で、お前なら言わずともわかるだろう?」
「くっ……」
「それは写しだからお前が持ってていいぞ」
そう言い残してリードは悠々と歩き去った。
嫌な汗が背筋を伝う。
まさかこんな予想外かつ中途半端なタイミングで、王都に戻されるなど誰が想像したか。まだ本部から指令は来ていないが、そのうち来るということか。
と、そこにアリシアさんが通りかかった。
「キリハさん、それなに?」
「私を王都に引き戻すべく、王都の冒険者から集められた署名だそうで」
「なるほど。でもキリハさんはここにいるけど」
「まだ指令は下ってないんですが、遠からずここを離れることになりそうです」
「へー。ちょっと待っててね……」
そう言ってアリシアさんはギルドを後にした。
何か手でもあるのだろうか。




