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「キリハさん、今日は何かな?」
「そうですね、大半の簡単なとこはやってあるので……」
あれから数日経過したが、まだミスリルは残っているようで、早めに出ようとパラパラと依頼を見繕っていたのだが。
「お、ようやく見つかった。キリハ、ここに飛ばされたって聞いたけど、お前今までどこ行ってたんだよ」
「ここ数日来てもいなかったから、びっくりしたじゃない」
声をかけてきたのは噂のミスリルパーティ。だが想像していたような追っ手ではなく、本部で面識のあるパーティというだけであった。逃げ回る必要はなかったようで、正直ほっとしている。
「最近は少し席を外していまして」
「いや、ギルド職員って基本的には詰めてるもんだろ、そんな暇なんてあるのか?」
「それが暇なんですよ、本部と違ってメイズ支部は平和そのものです。こっちに飛ばされたことに、今では感謝しているフシすらありますね。それはそうと、わざわざこちらに来るなんて、何かありましたか?」
「いや、割と急な異動だったから。様子を見に来るついでに、戻ってもらえたらと思ってな」
「戻る気はありませんよ」
最初こそ乗り気ではなかったが、こちらの職場を知ってしまった以上、あのクソ忙しい本部に戻る気は起きない。
っと、アリシアさんが横から袖をくいくいしてくるが、いつの間にカウンターの中に入ってるのか。
「知り合い?」
「本部でやってた頃の顔見知りです。中でも花形の『浅きレクイエム』というパーティで、かなりブイブイ言わせていました。リード、リュミ、リブラ、レイア、カエ、ヒロキの6人組ですね。今来てる2人はリードとリュミです」
「強いの?」
「ミスリルですからね。見たことはありませんが、それはもうそれはもう」
適当に紹介もしたし、今回は内容が内容である。早いとこトンズラさせてもらうとしよう。
「まあせっかくですから、ゆっくりしていってください。私はこれで」
「まってくれ、そこをなんとかならないか」
「……引き継ぎはちゃんと済ませたはずです、何か問題でも?」
「後任なんだが、問題はない。問題はないんだが、色々と融通が効かなくてな……。前は上手いことやってたキリハに慣れきってる連中が、かなりの数悲鳴を上げている状態なんだよ」
「あるべき姿に戻っただけですよ、喜ばしい変化ですね」
本部でやってた頃は、『あと少しどうにかならないか?』が依頼の達成期日にしろ、支払いにしろ、かなりの数いた。
それらをギルドも依頼主も全て合わせて丸め込んでいては、精神が崩壊すると思ったため、ある程度は条件付きで許容していたのだ。もちろんブラックリストも作りつつだが。
「頼む、この通りだ」
「頭を上げてください。そもそも私の意思とは関係なしに、上の意向でここに左遷されてきたのですから。まずは本部のマスターなり、幹部やらに掛け合ってきてください。話はそれからです」
「わかった、まずはそっちと話をつけてくる。連絡役としてリュミ
を置いていくから、進んだらそっちに連絡するな」
「はあ、まあほどほどにしてくださいね」
個人的には行きたくないのだ、むしろ失敗しろとすら思っている。
そうしてリードが去っていったあと、リュミとアリシアさんが残った。逃げる必要もなくなったわけだが、さてどうしよう。
「ということで、リュミさんはあくまで連絡役みたいですし、一報あるまでは好きにしていてください」
「りょーかい。だけどせっかく久々に会ったんだし、暇なら少し話そ?王都と比べてこっちはどう?不自由とかない?」
「不自由という程のものはありませんね、強いて挙げるなら一つ一つの店が遠いくらいです。それもこの職場環境の快適さの前には、ないも同然です」
「そ? じゃあ王都戻ろ?」
「不自由という程のものはありませんけど??」
「遠いんでしょ?」
「職場環境が勝ります」
何やらリュミの様子がおかしい、元々少し挙動不審さはあったため、気にするほどでも無いかもしれないが、会話が噛み合っていない。あとなんか目も怖い、どこを見て……。
アリシアさんがギュッとしがみついて来る、見ていたのは彼のことか。
「私何かしました……?」
「いや、何も。こらこらリュミさん、ミスリルが睨んじゃめーでしょ。ミスリル以外はストレスで胃に穴空いちゃうから」
「だってキリハさんにしがみついてる」
「あなたが睨んでるからでしょう、これでも彼はメイズの主戦力なんです。何かはわかりませんが、私も謝りますから。穴が開く前に止めてあげてください」
「むぅ、キリハさんがそう言うなら」
フィっと顔を逸らして、睨むのを止めた。よかった。よし、この際まだ溜まってる依頼も消化してしまおう。
「本部の依頼と比べればいくらか落ちますが、面倒な依頼がありまして、折角なので片付けていってもらえると助かります」
「わかった、もらってくね」
リュミに面倒事を押し付けて出ていってもらう。アリシアさんと仲が悪いのは、因縁でもあるのだろうか。
「リュミさんとの間に何かありましたか?」
「いや、初対面だったけど……」
「ふーむ、一体何でしょうね」
謎は深まるばかりである。