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ある辺境のギルド職員について  作者: レスカ
魔王とギルド職員
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 まさかこんな田舎の地で魔王に出くわすなど、誰が想像しただろうか。


「くっ、劣勢は覆せないか」


「俺とここまで戦えるとはな、褒めてやろう」


 普通の依頼の帰り道、突如として地面に黒い影が現れてそこから生えてきた。

 なぜこんな場所にいるのかはわからないが、奴が発するオーラが逃げても無意味だと物語っていた。

 奴は剣も魔法も強力な上、グロテスクな肉の球体が奴の周囲を回りながら、レーザーを撃ってくるのが厄介なことこの上ない。両方に対応する中じりじりと追い込まれる上、精神力も削られていく。


「隙ありだ」


 集中を欠いていたのか、同時に自分の左腕が外れたのを瞬時に理解した。

 その直後、魔王が横合いから来た何かに吹き飛ばされた。


「貴様何者だああああああぁぁぁぁ……」


「ロイドさん、撤退するよ! 逃げられる?」


 その何かは最近拠点にしていた、メイズにいる中で一番強いというアリシアだった。

 その手にはかなりの長さの剣が。いや、およそ普通の剣とは言えないような武器が握られていた。


「お前は、なぜここに?」


「その様子だと限界でしょ! 時間は稼ぐから今のうちに!」


「ああ、悪い……!」


 状況は劣勢も劣勢、片腕が飛んだ今その申し出を断る理由はなかった。これが他の冒険者だったなら躊躇しただろうが、近しい実力を把握できている者ならば別だ。

 だが彼の言う通り撤退するべきではあるが、ポーションをかけられたが効果を発揮する間もなく、消耗の激しさから遠くまで逃げることは不可能と判断し、近くの岩場に隠れて気配を消した。

 ドクドクととめどなく体液の流れ出る傷口に止血処理だけ行い、時間を稼ぐとあの場を引き受けた彼の様子をそっと窺う。

 場合によってはまたあの場へ戻るかもしれない。


「貴様何者だ」


「さっき相手してた彼の仲間とだけ。彼よりは弱いから安心してくれていいよ……」


 ダメージ目的ではないとはいえ、自分を吹き飛ばした相手に警戒しているのだろうか、戻ってきた魔王とすぐに戦闘にはなっていなかった。まだ推移を観察する必要はあるが、ここから支援できるとしたら何かあるだろうか……。


「そっちこそ、見たとこ普通の魔族じゃなさそうだけど」


「先の一撃を認め質問に答えてやろう。オレこそ新たな魔王である! 普通の魔族と同列にしてもらっては困るな!」


「……ええと、その新しい魔王様がなぜこんな何もない辺鄙な地にいらっしゃるので?」


「今は各地の下見だ、次にどこから攻め落とすかのな!」


 どうやら今すぐに、メイズ近辺から侵攻が始まるわけではないようだ。だが下見ということは調査が進めば狙われる可能性も出てくる。調査の妨害についても考える必要があるか。


「なるほど。じゃあ今日はお互い見なかったことにできない?」


「そうして貴様を逃がすのは簡単だが、どうせチクるのだろう」


「まあわかってはいたけど、お互い信用できないよね……」


 僅かな可能性にかけた交渉も潰えた直後、肉の球体からレーザーが発せられるがアリシアがそれを上回る速さで動き回り、球体を全て両断していた。球体もかなりの速さで狙うのは困難なはずだが……。

 そしてアリシアがそのまま剣を構え、その剣からは業火とも言うべき炎が撒き散らされ、奴に襲い掛かった。円形の魔力シールドで届くことはなかったものの、慣性を無視して急に進路を変えたアリシアに破壊されていた。


「無茶苦茶をするな!」


「こちとら全力を出さないと殺されちゃうからね、本気で抵抗するよ!」


 そのまま剣で切り合っているが、追い込まれていた自分とは異なり明らかに渡り合えていた。その手数に剣技の冴え、自分よりも上の実力を見せていた。これはどういうことだ……。

 しかし、よく見ればメインの剣は食らっていないがアリシアが傷ついている。奴は不可視の刃まで持ち出してきているのか。

 拮抗していた攻防はどちらもが反対へ弾かれ、終わりを迎えたと思えば魔族の姿が掻き消え、アリシアの飛ばされる後方に現れるも、それを予想していたのかしっかりと振り向きざまに、背後からの攻撃を防いでいた。


「読まれただと!?」


「悪いけどこの場は、最初から退かせてもらうつもりだったから」


 その言葉を最後に、アリシアは空高く飛び上がり、


「おまけのアークフレイム!!」


 炎を浴びせてそのままどこかへ飛び去っていった。

 残された魔法を浴びた魔王の方はといえば……。


「ぐおおお!! 俺の魔力抵抗を破るか!! 人間風情が!!」


 火だるまとなって絶叫しており、アリシアを追うどころではない様子。

 冷気の魔法で消火を終えたころにはその姿は無残なものとなっており、だが今の自分ではまだ仕留められるほど弱ってはいない。その身を焼いた炎こそ鎮火したものの、その目には憎悪の炎が燃えていた。


「この辺りは候補にできないな……。他の地を検討するとして、一旦傷を癒さねば。許さんぞ、あの人間め」


 そう呟きを残して地面の影へとその姿を消した。

 あの状況からなんとか助かったのか……。

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