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ロイドさんは逃がした、不意打ちが完璧以上に決まって少し時間も作れた。
戻ってくる前に残りも仕込んでしまおう。
「マジックエンハンス」
「アークスプリント」
「エアプレート」
「フリーズエンハンス」
さて、一通り終わったところで魔族も戻ってきたみたいだし、隙を探しますか。
都合よく魔族側もこちらの情報が欲しいらしく、誰何から始まった。
「貴様何者だ」
「さっき相手してた彼の仲間とだけ。彼よりは弱いから安心してくれていいよ……」
ブラフでもないのだが、強さを誤認させるにあたって、目を逸らし頬をぽりぽりと仕草も加える。
これに対峙するは訝しむような表情の魔族、何を感じ取っただろうか。
「そっちこそ、見たとこ普通の魔族じゃなさそうだけど」
「ダメージこそないが、先の一撃を認め質問に答えてやろう。オレこそ新たな魔王である! 普通の魔族と同列にしてもらっては困るな!」
見るからに邪悪な鎧を纏い、ツノやら何やらでゴテゴテしたそれは、なんと先日魔族を指揮して王都を襲った新魔王らしい。
嘘をつく理由もない、やばいって大当たり引いちゃってるよ……。メイズ呪われすぎ、終わってる……。
「ええと、その新しい魔王様がなぜこんな何もない辺鄙な地にいらっしゃるので?」
「今は各地の下見だ、次にどこから攻め落とすかのな!」
つまりそういうことらしい。
やはり一度退いたもののどこかしらに軍勢は隠してあって、再侵攻はそう遠くないとのこと。
ロイドさんがこれと遭遇したのは偶然っぽい。
「なるほど。じゃあ今日はお互い見なかったことにできない?」
「そうして貴様を逃がすのは簡単だが、どうせチクるのだろう」
「まあわかってはいたけど、お互い信用できないよね……」
返事の代わりと言わんばかりに、魔王の周囲を旋回するビットからレーザーが飛んできたので重力球で自らを弾いて避ける。
地味ながらロイドさんの腕を持って行った一撃なので、間違っても食らってはいけない。
勢いのままにエアプレートを蹴りつけ反転、剣をうねらせてビットをまとめて両断し、そのまま宙から魔法を降らせる。
「食らえ、全力全開スプレッドフレイム!」
「スプレッド……貴様なんだその火力は! 初級魔法じゃないだろう!」
文句を言いつつも絨毯爆撃が魔力シールドで防がれているあたり、あれからすれば火力は大したことないのだろう。やはり小細工は通じないか。
拡散した炎が目くらましになっている間に重力球を解放、魔王へと追撃をかけるべく真下に進路を変えてシールドを剣でたたき割る。
「無茶苦茶をするな!」
「こちとら全力を出さないと殺されちゃうからね、本気で抵抗するよ!」
状況は悪くないが魔王の名は伊達ではないようで、肉薄したところあちらも剣を抜いて、目にもとまらぬ斬撃を繰り出してきた。それ対してこちらも剣で打ち合う。確かにその技術には目を見張るものがある。が、正直対処できないほどではない。先にビットを潰した分楽になっているのだろうか。
「しかし、そんな古い魔法で本気とは笑わせる」
「生憎こういうのしか教わってなくてね!」
抵抗するとは言ったがワンチャン様子見くらいで、まともに相手をするつもりはない。本気になられる前に逃げよう。
剣戟の最中、いきなり魔族と自分の間に重力球を生成し、互いを引き離すように弾き飛ばす。もちろん追ってくることも予想して、飛ばされた勢いを利用して向かう方向へ剣を振りぬけば、やはりそこにいたヤツと再びかち合い、鍔迫り合いになる。
「読まれただと!?」
「悪いけどこの場は、最初から退かせてもらうつもりだったから」
ふっと力を抜いてまた逆方向へ吹き飛ばされつつも、そのままエアプレートを複数枚蹴って上空へ再び上がり、ストックしていた重力球を全て開放。
「おまけのアークフレイム!!」
目くらましに魔力を惜しまず注いだ最大火力の魔法をぶつけてやり、そのままメイズとは別の方向へと高速で飛ばされて離脱した。




