モーリスside
ギルドの中庭は登録の時に行う試験や冒険者同士の模擬戦などを行っている。
今日は我が主人が復活してこのギルドに足を運んで下さった素晴らしき記念日。そして我が主人の初陣だ。
試合会場には恐れ多くも戦いに挑む愚かな冒険者が総勢10人。そしてそれと対峙する様に向かい合う我が主人。ああ……我が主人は纏うオーラまで美しい……!
「おい、ギルマス。半殺しの許可まで出していいのかよ?」
アルバンが心配そうに言っている。まあ気持ちは分からなくもないがな。
「我が主人の実力を考えれば半殺しでも御の字だ。注意しなければ殺していたであろうからな」
「マジか……」
試合が始まる。10人の冒険者がまとめて主人に襲いかかる。主人は別に気にしないだろうが、『無才』相手に10人一気に襲いかかるのはコイツらのプライド的に良いのだろうか。まあ、それでも主人の相手にはならないのだから良いだろうか。主人は愛用のロングソードを振るう。あれはミスリルとヒヒイロカネ、それに魔石を混ぜて作った魔剣だ。今は作れる生産職も鍛冶師もいないだろうな。
何しろ主人がその身を挺して魔王を打ち破った後、愚かな王太子が暴走し主人の遺志を受け継ぐ生産職も鍛冶師も皆殺しにしたのだから。しかもその後、尊い職業である『魔導具術師』を『無才』だと宰相共が風潮して歩く始末。私にはそれを覆す力はなく、弟子であるアニエス嬢も何とか保護しようとセバスチャン殿が奔走した様だがそれも叶わず……。何とももどかしい400年であった。
「ところで、アルバン達は主人のお抱えになったのだな」
「お抱え?」
クロエは首を傾げる。
「まだ冒険者ギルドができる前、冒険者達は個人でモンスターを倒して、実績を積んで貴族のお抱え冒険者になったんだ。お抱えになった冒険者にはその貴族の家紋が刻まれる。君達の手に刻まれた家紋は、主人が貴族になった時に国王から受け取ったものだ」
「そういえば、そんな話しがあったっけな。実績っつっても自己申告だから、お抱えになるために嘘の実績を申告する質の悪い冒険者もいた。だから冒険者ギルドが出来たって話しだったっけな」
「そうだ。そして今ではお抱えになる冒険者は少なくなり、ギルドで貴族からの依頼を請け負う様になったんだ。ここ最近はお抱え冒険者なんて国王以外は見ないな」
「貴族から見ても、その都度依頼をした方が都合がいいものね」
「某は未だお抱えになれずにいる。お前達が羨ましいぞ」
「半分は人質としてだけどなぁ」
「賢者様のお抱えなんて400年前にはあり得ない事だった。何しろご本人が高位の魔法使いなのだからな」
「「そりゃそうだ」」
目の前で起きている事を目の当たりにしたら、それも納得出来るだろう。主人はいとも容易く冒険者達を薙ぎ倒していく。剣を振るい、左手の中指に装備した指輪で魔法を放つ。冒険者達は動揺している。曰く『なんで魔法が使えるんだ?!』『杖も持ってないのに!』だそうだ。
そうだよな。コイツらは知らないよな。魔力媒体は杖だけではない。アクセサリーも防具も、全てが魔力媒体になりうるのだ。しかし、この無知は国の政策でもたらされたものだ。それを防げなかった某にも責任はある。
舞い踊る様な剣さばき。美しい魔法の数々。翻弄しながらも、すぐに倒すのではなく弄ぶだけの余裕もある。頭は悪いが決して弱い冒険者ではない。実力は確かだ。そんな実力者がこんな簡単に……
「ああ、何と素晴らしい!賢者様が400年の永き眠りからお目覚めになったのだ!」
モーリスは死屍累々を積み上げたレアを目の前にし悦に浸っている。他の者達は、そもそもどうして『魔導具術師』が杖なしで魔法を使っているのかが分からず混乱している。
「別に魔力媒体は杖だけじゃないわよ?私はこの指輪と剣が魔力媒体よ」
試合を終えた主人は観戦者や、試合をした冒険者達に話す。観客席で見学していた者達はザワザワしている。そんなモノで魔法が?という考えが透けて見える。
「今は木でできた杖しか生産できないほど技術が衰退してしまった様だからね。知らない事を責めるつもりはないわ。国の政策が原因だし、貴方達は被害者といっていいと思う」
主人は客席を見渡す。その目には慈悲を感じる。
「この中に『魔導具術師』がいたら、魔力媒体を作ってあげるから家にいらっしゃい。魔法使いで魔力媒体を変えたい子がいたら、その子も来るといいわ。強くなりたいと望む子は大歓迎よ」
主人は昔から何一つ変わらない。強い者はもちろん好きだが、それ以上に向上心のある者が好きだった。弟子がアニエス嬢1人だったのも、決して出し惜しみをしていたわけではない。自分の技術と知識を受け入れる覚悟と器がある者を探したから。要は性格重視だったのだ。
「モーリス。結果は?」
「合格以外にあるとでも?」
「よかったわ。じゃあ、登録しましょうか」
「はい。では、こちらへどうぞ」
手を差し出すと、ふっと微笑んでその手を預けてくださる。ああ、あれほど豪快にロングソードを振るっていらっしゃる御手とは思えないほど華奢で美しい。この世界はまた繁栄するだろう。400年前のように美しく。
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