デジタルとアナログの齟齬
屋敷に帰ってきた。セバスチャンがアニエスの世話をする。
「アニエス嬢。救出できず、申し訳ありませんでした。ご無事で何よりです」
「いえ……」
アニエスはまだ少し泣いている。道中の馬車でもレアに宥められながらずっと泣いていた。少しだけ聞いたが、アルフレッドは何らかの呪いを受けていたのではないかと思われるそうだ。それに気がついた時にはアレクサンドルに魔導具を没収されていたらしい。なす術なく、アニエスの魔力をアルフレッドに流し込んで呪いを中和する事しか出来なかったそうだ。その呪いをかけていたのが誰なのかはついに分からなかったらしい。
色々気になる事も多いが、これ以上はアニエスの精神的にも良くないため聞くのはやめた。
「セバスチャン。アニエスは魔力の消耗も激しいし体力も……。休ませるから、面倒をお願いね」
「かしこまりました」
「それと、今日からアルバン達がここで暮らすから。それもお願いね」
「承知しました」
「荷物は騎士達が運んでくれるから大丈夫ね」
「ええ。色々とありがとうございます」
アルバンは頭を下げる。レアの奴隷になったせいだろうか。若干空気がピリついている。
「敬語じゃなくていいわよ」
「いえ。伝説の賢者様ですし、一応奴隷ですし」
「ああ、あれ?嘘よ、あんなの」
「「「「「へ?」」」」」
「呪縛紋なんて使わないわよ。あんな命弄ぶだけのものなんて」
「ではこの紋は……」
「私の家紋を浮かばせただけ」
全員唖然である。あの緊張感は何だったのか。
「事の重大さを感じてもらうためにね。国王は気がついたと思うわよ?宰相も気がついたかもね。貴族の家紋の把握は王族の義務みたいなものだし、宰相だって把握していておかしくはないもの。
……さて、今日はもう疲れたでしょう?部屋にはセバスチャンが案内してくれるから」
私はそう言って地下の作業場に入った。ここではレアの興味を満足させるための研究所も兼ねている為、弟子であるアニエスさえ入室はしない。唯一セバスチャンだけは掃除やレアの世話をするために出入りしている。
「さてと」
とにかく試したい事が沢山ある。ゲームの世界がリアルになったのだから、魔導具制作においても試さなければならない。
ゲームでは魔導具の錬成は、素材を選択して作りたい物をセレクト。『錬成』をポチれば完成だった。これがこの世界ではどうなっているのか……
素材を準備して、錬金の魔法陣の上に置く。魔法陣を起動すると、この素材で作れるものが表示される。セレクト画面はゲームの表示と似ている。作りたいものを選択すると、あとは錬金術におまかせ。魔力を調節する必要はあるが、成形などは自動で行われる。細かい所はイメージ次第で変えられるみたい。
「へぇ。ゲームより少しアナログ要素はあるけど、結構面白いかも」
素材の用意は別に面倒ではないし、セレクト画面は出るし錬成は魔法で出来る。ゲームでは一瞬で終わった錬金を時間をかけて行うのも、錬成される過程をながめられて面白い。デザインもオリジナルで出来るから新鮮で良い。……これは色々試さねば!
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