桃源郷アルカディア
騎士達は自分の目か頭が可笑しくなったのではないかと心配した。しかし現実は非情なのである。
「ご主人様」
「あら、セバスチャン。どうやら合流できたみたいね」
「はい。遅くなりまして、申し訳ございません」
「良いのよ。こっちも今終わったばかりだし」
レアは肉塊となったモンスターの屍の頂に立ちセバスチャンと話している。ケンとアンリも似たようなものだ。
「ったく。手応えのねー奴らだな。もう終わりか」
「つまんないわよね~」
「貴方達が手応えを感じるモンスターなんて出てきたら国が滅びるわよ」
呑気な会話に誰もが何も言えなくなっていた。
「そっちはどうだったの?」
「大量のモンスターが現れました。流石に多すぎでしたので、私も『少々』手伝いました」
「……誰よ。セバスチャンを出撃させたのは」
「いやぁ……多分、レアをけなした奴がいたんだろう」
「しかも〜ウチかケンさんの所の騎士が~何か言ったのね~。ごめんなさいね~」
「確かにレアの訓練を受けた騎士はそんな事にならねーか。悪いな、レア」
「別に良いわよ。ちょっと報告書が面倒になるだけよ」
レアは苦笑いをして、城の方を振り返った。
「さて、と。水はアンリが押さえてるから、今のうちに上陸してしまいましょうか。ウチの騎士団半分と帝国騎士団半分で上陸。残りはここで待機で良いかしら?」
「まあ、無難だろうな」
「私の騎士達は~総員待機でも良いわよ~?水の中の方が戦力になるし~」
「ん~……じゃあ、そうしましょう。ならばケンさんの騎士は全軍出撃にしましょうか」
「だな。さて、親玉はどんな奴かねー」
「ふふふ~。ケンさん、楽しそうね~」
「楽しいのは良いけど、『破壊神』は自重してよね」
「分かってるよ」
何処かピクニックに行く様な様子に騎士達は複雑そうな顔をする。
「相変わらずな方々ですね」
「あれが通常運転ですか?」
「400年前から噂になっていた場所ですからね。根っからの冒険者気質なご主人様達にとっては遊びでしょうね」
「……そうですか」
騎士団長は諦めた様だ。さっさと騎士団を編成して上陸に向かう。
城下町は恐ろしい程静かだった。様々な店も立ち並んでいるが、まるでゴーストタウンの様になっている。
「みんな避難したのかしら~」
「だろうな。相手からしたら敵襲だもんな」
「むしろこっちがずっと嫌がらせを受けてたんだけどね」
よく見ると魔導具の店も魔石の店もあるし、王都で流行りにのファッションやスイーツも売られている。
「あれ~?これ、うちから輸出してるやつじゃない~?」
「こちには我が国の主力商品が並んでるな」
「王国の商品もある所を見ると、商品を買い付けてこっちで売ってるのでしょうね。手堅い商品が多いし、やり手の人間がいるって事でしょうね」
「獣人の仕業~?」
「いや……」
呑気に話しながら歩いているが、現在も襲撃を受けている。足元や周囲に罠が張り巡らされているのだ。それを会話しながらレアが索敵して解除している。それに気がついているのはセバスチャンだけだろう。
街の中は坂道や階段が多く、広くはないが狭くも無い道が続いている。進軍には問題ない程度の広さで、石畳の美しい道だった。
「技術は高いわね」
「綺麗に整備していて壊れもないし、建物も綺麗だな」
「これは『同郷』かな〜?」
「いるかもしれないね。だとすると、色々と腑に落ちないのよね」
そんな話をしていると、少し離れた場所から見える城から獣人達が並んで出てきた。ぼぼ狐の獣人。ちょこちょこと他の獣人がいる様だが、殆どが狐の獣人で全員が少なくとも2本の尾を持っている。最前列にいる狐獣人は8本の尾を持っている。
「バルバストル王国辺境伯レア・フォン・アベラール様。バルテレミー帝国皇帝アルノー・フォン・バルテレミー陛下。水の国アルエ帝国女帝サラ・フォン・アルエ陛下。ようこそお越し下さいました。我らが王、コランティーヌ陛下がお待ちでございます」
8本の尾を持つ男が言う。どうやらこちらの情報は把握している様だ。
城の中は東洋と西洋が融合した様なインテリアだ。赤を中心とした美しい内装で、綺麗に掃除されている。ただ建物そのものは洋風の城なため、何だかちぐはぐに感じる。またこちらの世界の知識だけでは作れない物もある。何しろ和紙はこの世界には存在しておらず、ただの紙さえ所謂藁半紙くらいの質なのだ。こんなに真っ白な紙は存在しない。他にも街を歩いていて気になったのだが、建物の素材が城が近くなるにつれて石造りからコンクリート建築になっていた。当然だが、鉄筋コンクリートの技術など存在していない。強いて言えば、最近、土木作業員の経験があるケンの活躍によってテラコッタが製造されて建築に利用され始めたくらいだ。流石にコンクリートや鉄筋コンクリート建築は革新的過ぎるため自重していた技術だ。
「中華な感じ〜?」
「透かしに和紙張ってる感じとか、コンクリート建築とか。完全に『同郷』がいるわね」
「んで?レアが感じている『違和感』ってのは?」
「まず、ここがリオネルの領地近くにあったという事。ここは一応王国領土であり、元はといえ宰相の領地。手付かずの森の中の資源調査をしていないわけがない」
「まあそうよね〜」
「そして未だに闇ギルドの本部が見つかっていないのも気になるわ。この2つの違和感がつながっているのだとしたら、その答えは……」
「桃源郷 アルカディアが闇ギルドの本部になっている、と思うのが当然よな」
静かで穏やかな声が聞こえる。声の聞こえた方に視線を向けると、そこには9本の尾を持つ狐獣人がいた。豪華な紫の着物を着た彼女がこの国の王、コランティーヌか。
「陛下!危険ですから直接顔を出すのはいけませんとあれ程……!」
「ふん。案ずるまでもない。それに……」
コランティーヌは足音も立てずに案内の執事の横に立つ。
「彼らが自重しておるから良いものの、本気を出したらこの国精鋭など足元にも及ばぬであろうな。お前も確かに強いが、レア殿の前では赤子も同じ。リオネル殿も太刀打ち出来ぬ相手ぞ?朕とて勝てた事がない。朕が隠れていたら、犠牲が増えるだけであろうよ」
そう言ってコランティーヌはレアを見る。
「あら〜、もしかして~『紅葉』さん~?」
「ご無沙汰いたしておりました。狐獣人の『紅葉』と申します」
「アンリと仲良かった子、だったかしら?」
「うん!私が初めて王国に来た時からの護衛兼友達〜!」
「そう言えば、可愛い8本の尾の狐獣人がいたっけな」
「あら、バルテレミー皇帝はお上手ですね」
コランティーヌは鈴が転がる様なコロコロとした声で笑う。
談話室に案内されると、案内の執事以外は人払いされた。レア達の方もセバスチャン以外は別室にいる。
「はぁ……アンリちゃんもいるし、普段のままで良いわよね?」
「構わないわよ〜」
「私達もあまり畏ったのは苦手だし」
「楽な喋り方で良いさ」
「そうさせてもらうわ!もう国家元首なんて面倒なのよねー」
長椅子に全身を預けてすっかりリラックスムードだ。
『紅葉』。最初期ではなかったものの、早い段階で登録した上位プレイヤーの一角を担っていた子だ。確か狐獣人の冒険者で、平民の拳闘士だったはず。人間と違って獣人には『特性』というのが存在していて、それが確か『幻影術』だったはず。幻を見せて、それで敵を翻弄するという特性だ。妖艶な雰囲気を感じるのはそんな特性の片鱗なのだろうが、セバスチャンを含めた4人には効かないため本当にそうなのかは確信できない。
「では、答え合わせをしましょうか」
「そうね。ここをリオネル元宰相は知っていたの?」
「ええ。この城の地下にギルド本部を作って根城にしてるわ」
「使用人は?」
「何人か紛れ込んでいるわ。街にもね。今は地下の闇ギルドに全員避難してるわ。人質に取られている、とも言えるかしらね」
「本部のギルドマスターは?」
「私の夫よ。押し付けられてね。子供はまだいないけど、そろそろ誤魔化すのも限界なのよねー」
つまり国の民を人質に闇ギルドの本部と構成員の就職先を斡旋させたというわけだ。今はギルド本部で作戦会議を行っているらしい。
「皆さんの力を正確に把握しているみたいね。人質となっている民を一箇所に纏めずに、複数カ所に分けて隔離しているみたいなのよ」
「流石にギルド本部だな。一筋縄じゃいかないか」
「そうでしょうね〜。支部のギルドマスターだったリオネルでさえ〜、王国の貴族になるっていう策に出てたんだからね〜」
「何カ所に分かれているかわかる?」
レアの問いにコランティーヌは首を横に振る。
「私には教えてくれなかったわ。当然でしょうけど」
「そうでしょうね」
レアはふぅとため息を吐き目を閉じる。膨大な魔力を城の敷地内に広げ、それを地面に染み渡らせる。地下にはアリの巣が四角くなった様なものが作られている。獣人は魔力が多くはない。神獣の系譜に連なる存在とはいえ、そこは一般的な獣人と同じ様な性質になっている様だ。つまり、そんな魔力の弱い獣人が固まっている場所を特定したら……
「最深部。一際大きな魔力が一つあって、その手前に一組。その上のフロアに3組、さらにその上に3組、その上に5組ね」
「見事に分かれてるな」
「上から救出していたら後手に回りそうね~」
「そうなの。私も全盛期の力を取り戻している訳じゃなくてね」
転生組はどうしても力を取り戻すのに時間がかかる。当然だろう。
だがそこは全盛期の力そのままに転移してきたレアがいる。上からの救出が困難なら最下層から行けば良いのだ。
「ケンさん、アンリ。戦闘準備はできてる?」
「もちろん~」
「問題ない」
「じゃあ早速行くわよ」
「え、え……?」
置いてけぼりのコランティーヌを無視して、レアは庭に出た。地面の様子を確認して一つ頷く。
「ここからなら大丈夫ね」
そして地面に手をついてしばし。地鳴りがして庭に大穴が空いた。ぽっかりと空いた穴を見てコランティーヌと執事の口もぽっかりと開く。
「さあ、行くわよ!」
「おう!」
「は~い!」
「ちょっ……!まっ……!」
3人は何の躊躇いもなく穴の中に入っていった。先の見えない縦穴に。
予約投稿です。いいね、コメント、誤字脱字報告などありましたらお願いします。いいね・コメントは作者が喜びます。




