調査という名の開拓
準備には1ヶ月を要した。陛下との打ち合わせを経て、王国騎士団第一軍を騎士団長含めて半分、オクレール公爵騎士団第一軍を全軍、アベラール騎士団半分と冒険者ギルドから召集した冒険者・傭兵を100名。そこに話を聞いたらしいエルフ王から第二軍改め第一軍の半分と龍の谷から援軍100名が派兵された。
「壮観ね〜」
「俺達も他人のこと言えないがな」
ケンもアンリもそれぞれ帝国騎士団一軍を全軍率いていた。当然の規模ではある。
「さて。それでは全軍出撃しましょうか!」
「「「「「おお!!」」」」」
レアは先頭で出撃を宣言する。今回のレアの装備は魔法使い用のマントの下に軽めの胸当てと肘・膝にプロテクターを着けている。ケンとアンリは剣士用の装備をしている。完全に前衛をする気満々だ。
「2人共、国家元首である自覚、ある?」
レアは進軍しながら言う。
「良いじゃねーか」
「そうよ〜。魔法はレアに任せるわ〜」
「全く……」
レアは索敵しながら歩を進める。そして森の中に精霊達を放つ事で迷子防止と地図の作成を行う。小屋から精霊を連れてきて、風魔法と土魔法で精霊にエンチャント。そうする事で精霊魔法を広範囲に行使できるのだ。今回は風魔法と土魔法をエンチャントする事で地理の把握、その情報を受け取り地図を制作していた。
「本当に森しかないな」
「思ったよりも魔獣も少ないわよね〜」
「安全なのは良いんだけど、騎士達がダレるわね」
ここまで何もないのはかえって不審なのだが、実際何もないから困る。
少し進むと霧が発生してくる。そして変に静かな事に気がつく。ハッとして振り返ると、騎士達がいない。
「……やっちゃったわね」
「あら〜。逸れちゃった〜?」
「俺達3人を引き剥がしたって感じだな」
ここでパニックになったり焦らない辺りがこの3人の素晴らしさだ。
「あっちにはセバスチャンもいるし、騎士達は問題ないでしょう。私達がどうせ戻してもらえないでしょうし、進みましょうか」
「そうだな。立ち止まっていても解決にはならないし、進んだ方が何か分かりそうだ」
「何かの気配もするものね〜」
先程から進行方向から獣の匂いがしているのだ。このまま立ち止まっているのはかえって危険と判断して進軍する。
すると霧の奥から何かの影が見えてくる。現れたのは美しい都だった。真ん中に大きな城。その周囲には街が築かれ、水の上の孤島のようになっている。
「モンサンミッシェル〜?」
「ぽいな」
「海かどうかはともかく、モンサンミッシェルばりの水上都市ね」
水が左右に分かれている所を見ると、招かれている様にも感じる。しかも手厚い歓迎をされているのは遠くから見ても分かる。水がはけた剥き出しの海底を多くのモンスターが走ってくる。
「おお!大歓迎だな!」
「猿に〜兎に〜オーガもオークもいるわね〜」
「まあ、ドラゴンがいないだけ良いかしらね」
レアはロングソードの双剣を抜く。レアの魔力が双剣に流し込まれ、激しいオーラを放っている。
「死ぬんじゃないわよ?」
「当然」
「まだ死ねないわ〜」
3人は一斉にモンスターに切り掛かった。
「クッソ!多すぎだ!」
「陛下は!陛下は見つかったか!?」
「索敵には引っ掛かりません!」
騎士達は突然現れた大量のモンスターや魔獣に翻弄されていた。突然姿を消したレアを筆頭とした3人。慌てているところにモンスターと魔獣の大量発生。慌てふためく騎士達をセバスチャンが指揮を取る。
「落ち着きなさい!我らが主人と一緒なのです!皇帝陛下も女帝陛下も腕の立つ方々です!我々が心配するのもおこがましい方々です!むしろ我々がこの窮地を脱する方が優先ですよ!」
冷静な指揮官ほど心強いものはない。ここに集まる騎士達は、帝国騎士を除いた全員が日頃レアの訓練を受けている精鋭だ。レアの参謀も兼ねているセバスチャンの優秀さは誰もが知るところだ。
しかし帝国騎士からしてみたら『たかが執事風情が』という思いを抱えている。その考えは徐々に戦況を悪くしていく。
「うわっ!」
「クソっ!」
「怪我人は後方に!回復魔導師もいる!もう少しだ!」
「うるせー!テメーの目は節穴か!これの何処が『もう少し』なんだ!」
「そうだ!陛下を危険な目に遭わせやがって!」
「何が賢者辺境伯だ!ふざけやがって!」
「あ、バカ……っ!」
騎士達は知っている。レアをバカにする発言を耳にした時のセバスチャンの恐ろしさを。帝国騎士達は初めて目の当たりにした。魔族たるセバスチャンの恐ろしさを。
「……もう良いです」
「セ、セバスチャン殿!」
「落ち着いてください!ここでそれを放つのは……!」
恐れるのも当然だ。何しろ今まで襲ってきていたモンスターや魔獣が恐れに足を止め、我先に逃げようとするものまで現れる程の殺気を放出しているのだから。
「全く、帝国騎士は使えませんね。こんな程度のモンスターに遅れを取るのですから」
そういって騎士達の頭上に音もなく浮かぶと、両手には禍々しい魔力を集める。全員の顔が引き攣った。
「け、結界展開!!」
「爆風に備えろ!全力だ!」
騎士達総出で結界を張る。そして……
「滅びろ」
低く唸る様な声で言うと同時に地上に2発の黒炎が放たれた。黒炎はとんでもない爆音と爆風を辺りに撒き散らした。
「……ふむ。この爆風を防ぎきるとは、訓練の成果が出ていますね」
「は、はは……有り難い、言葉ですが……」
「全力の結界が歪んだ……」
「歪んだだけなら良いじゃねーか……俺の、壊れたぜ……?」
「一瞬も保たなかったな……」
結界が持ち堪えたのはレアの訓練を受けた騎士のもの。帝国騎士達の結界は一瞬も保たなかった。
「誇って良いですよ。多少手加減はしたとはいえ、あの威力でしたからね。私も少々加減を誤りましたからね」
「あれで手加減……」
「……ふむ。どうやら幻影を使っていたモンスターも巻き込んでいた様ですね」
目の前には時空の歪みがあった。恐らくここに3人は入ったのだろう。
「では、参りましょうか」
「……はい」
今回、騎士達の総団長を任されている騎士団長は諦めたように返事をする。この人を怒らせた方が悪い。報告書が少々面倒くさくなったが、そんな事は些細な事だ。
それよりも今はレア達と合流する事が先決である。セバスチャンを筆頭に一行は時空の歪みに突入していった。
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