師匠不幸者と閑話休題サラ・フォン・アルエ
龍王は国王と非公式で階段を行い、アンジェリーヌの意思を尊重して過去のことは水に流す事になった。テオファヌは若干納得してない様にも感じたが、アンジェリーヌが説得した事で、当時の関係者が生きていないと言う事もあり不承不承納得する事になった。『王国と事を構えるという事は、私と違えるという事になります。それはお互いのためにならないでしょう?ヤニクの意志にも反しますし』というレアの言葉に納得したというのもある。
公式の謁見は1週間後となるため、その間はレアの屋敷で過ごす事になった。アンジェリーヌと王都デートを楽しむと言っていた。もちろんお目付役としてモーリスを付けている。
ヤニクの弟子達はロドリグの所に連れて行った。ヤニクの事を話すと、最後まで話を聞き腕を組みながらため息を吐く。
「俺より先に逝っちまうとはな。あの師匠不幸者が……」
そう言って、ヤニクの弟子達を見回す。
「俺はあいつと違って優しくはないぞ。国王のお抱えである以上は妥協はできん」
「覚悟はできております」
マクシムはキリッとして言う。魔導具に関しては厳しかったヤニクの弟子であり、神獣龍王のお抱え魔導具師の弟子でもあったのだから、その覚悟は問題ないだろう。
「ふん。良い目をしている。これなら大丈夫だろう。この1ヶ月で鍛えて、国代表の魔導具師と言っても恥じない奴らにしてやろう」
「「「「「よろしくお願いします!」」」」」
これで大丈夫だろう。邪神騒動も落ち着いたし、本格的に王都の開発に着手する事になっている。優秀な人材はどれだけいても困らない。……そう。『本当に優秀ならば』困らないのだ。
「どうしてこの俺が開発工事に参加させてもらえないんだ!」
どこにでも勘違い野郎はいる者だ。今日アンリの所に突撃してきたのは在野の魔導具師。もちろんある程度の魔導具は作れているのだが、帝都の再開発に参加できるほどの実力は持っていない。普通なら女帝であるアンリに謁見することすら叶わないのだが、この男は少々事情が違う。
「エティエンヌ〜。そんな大声を出さなくても聞こえてるわ〜」
「ではどうして俺を責任者にしなかったのですか!姉上!」
そう、この男はアンリの弟、エティエンヌ・フォン・アルエ皇弟なのだ。アルエ帝国は長子継承のため、末の弟であるエティエンヌ継承権が低かった。それでも『無才』であるアンリを女帝に据える事には色々問題もあったのだが、剣術の腕が帝国騎士団長より上であるという時点で反対意見は封殺されてしまった。皇妹のアリスも魔法使いとしてはかなりの実力だが、アンリの足元にも及ばない。それでも騎士団の中堅騎士程の実力はあるのだが。アンリが規格外なだけである。
「貴方を責任者にするわけにいかないでしょ〜。お抱えの魔導具師がいるのだし、彼を差し置いて貴方を任命するわけがないわよ〜」
「アリス姉様には責任者を任せたではないですか!」
「あの子は私の女帝代理だもの〜。当たり前でしょう〜?それに〜、再開発の責任者ではなく〜、報告書を受け取ってただけよ〜?責任者はロイクだもの〜」
水中の作業は地上での作業とは違った技術が必要だ。人魚の魔導具師であるロイクはとても優秀で、小柄で子供の様な子だが、魔導具を設計し制作させれば帝国一と言われる実力者なのだ。おどおどしていて引っ込み思案だが実力だけは本物なため、周囲の魔導具師に利用されるだけ利用されて手柄を奪われていたのをアンリが知って引き立てたのだ。実はその『利用するだけ利用していた魔導具師』というのがエティエンヌなのだ。先帝は息子の事が可愛いのもあり、アンリとも相談の結果として処分は保留とした。その代わりにロイクをアンリが女帝になった時にお抱え魔導具師に引き立てたのだ。当然エティエンヌに利用される事はなくなり、次々と画期的な魔導具を制作し、アルエ帝国の生活水準を飛躍的に向上させたのだ。その中にはアンリが400年前の魔導具を再現させた物もあったが、それを再現するだけの技術力が彼には備わっていたのだ。
一方のエティエンヌは、皇弟である事もあり誰かに師事するという事ができなかった。それ自体は彼の責任ではないのだが、問題は向上心も高くはなかった。自分より技術が上の魔導具師がいると、そのものを抱え込み魔導具を作らせて、あたかも自分が作ったかの様に手柄を奪い取ってしまうのだ。それで潰された魔導具師がかなりの人数いた様で、その保証に先帝は頭を抱えていたのだ。補佐をしていたアンリも例外ではなく、優秀な魔導具師をエティエンヌの元から救出する事に尽力していた。エティエンヌ本人に自覚がなく、『俺は皇弟なのだから、抱え込んだ魔導具師の制作した物は俺の物であり、俺が制作したと言って良い!』という超絶理論を展開していた。『母上!見てください!僕が作ったんですよ!』と言って持ってきた魔導具のほぼ全てが彼の作った物ではなかったという事実に、先帝は密かに涙していたのを知っているのはアンリだけだ。
「はぁ……。とりあえず、この決定は覆りません」
「姉上!」
「この決定は朕の決定ぞ。異論は認めぬ」
それは天子の言葉。いつもの緩い言葉ではなく、圧倒的なまでの風格を纏う絶対的君主の威圧。流石のエティエンヌも何も言えなかった。
「良いな、エティエンヌ」
「っ……。は、い」
この答えを聞いてアンリは自室に向かった。ストールをメイドに渡してアンリはベッドに倒れ込む。
「は〜……」
「陛下。せめてドレスを変えましょう。皺が付いてしまいます」
「もう無理〜……1ミリも動けない〜……」
「……お気持ちは分かりますが」
「あのおバカ〜!何で分からないかな〜!」
側付きメイドの苦言も何のその。手足をバタバタさせてベッドの上で暴れるアンリ。そこに線の細い美丈夫が入ってきた。側には数名の女性達を侍らせている。
「おや、ご乱心かい?」
「リュカ〜……」
アンリは身体を起こして男を見やる。この男はリュカ・フォン・アルエ。アンリの夫だ。公爵家の3男で、女癖の悪い男として有名だ。政治の仕事においては優秀なためアンリの夫になったが、皇配としては優秀でも夫として男としてはどうしようもないド屑なのだ。何しろ愛妾達の存在を隠そうともしていない。今もアンリの前にも関わらずリュカに凭れ掛かる様に甘える愛妾にメイドは眉根を寄せているが、アンリは諦めた顔でリュカを見ていた。
「また増えたの〜?」
「そうだよ。可愛い子だろう?」
「程々にしておいてよね〜。私は良いけど、周囲の目もあるんだから〜」
「ははは!大丈夫だよ。僕に意見する奴なんていないさ」
そう言う問題ではないのだが、何を言っても詮無い話なのである。
「聞いたよ。またエティエンヌが何か言っていたらしいね」
「そうなのよ〜!あの子ももう少しどうにかならないかしら〜」
「責任者をやりたがっていたのだろう?やらせたら良いじゃないか」
「それでトラブルの連続になった事が両手で収まらない程起きた事があるのよ〜?またトラブル対応で仕事増やしたくな〜い!」
「相変わらずやんちゃなんだな」
『やんちゃ』では済まされないと思うのだが……この部屋でそう思っているのはアンリとメイドだけなのかもしれない。
「それじゃあ、僕は行くよ。子猫ちゃんと南の庭でデートの約束をしているからね」
そう言ってリュカは部屋を出て行った。静かになった部屋にはアンリとメイドだけ。アンリはため息を吐いてベッドに寝転ぶ。
「服の用意をして頂戴〜」
「もう出来ておりますよ」
「ありがと〜」
「お夕飯は如何なさいますか?」
「ん〜……今日は北にしましょ〜」
「かしこまりました」
その日によって夕食を取る場所が変わるのだ。それは皇族達の食事場所が被らない様にするためでもある。本当ならば女帝であるアンリが最初に食事場所を決めてから他の皇族が食事場所を決めるのだが、皇配であるリュカはわざと『南の庭でデートをする』と言った。つまりそのまま南の庭で愛妾達と夕食を取るから邪魔をするな、と言う事である。本来なら不敬なのだが、もはやそれを指摘するのも面倒なのである。
「アメリーとコラリーは〜?」
「本日は家庭教師の日ですので、座学の部屋にいらっしゃいます」
「あ〜。今日は座学か〜」
第1皇女のアメリーは次期女帝として日々勉学に励んでいる。まさに文武両道で才色兼備な子なのだが、どうも正義感が暴走する事のある危なっかしい性格をしている。誰を見本にしたんだか……
第2皇女のコラリーは引っ込み思案だがとても優しい性格をしている。怪我をした子がいればすぐに回復魔法を使って治していたりする。戦闘には向いていないが目端の効く子なので、補佐役や支援に向いている子だ。
両極端な2人の共通認識は『父上キライ!』である。アンリを差し置いて愛妾を侍らせている父が物心が付いた頃から大嫌いになっていた。親としては思う所があるのだが、咎める事もできない、何しろ娘達の気持ちがアンリには痛いほどわかるのだから。
前世。地球で生きていた頃、アンリの父は中小企業の社長。母は専業主婦。平凡な家族だった。中小企業とはいえ欲という物を知らない父は側から見れば倹約下に見えていた。母もブランド物には興味がなく、特に無駄遣いする様なことはなかった。アンリも生まれ一家は幸せな生活を送っていた。
しかし、そんな幸せな家族だったなんてアンリは知らない。アンリが1歳の頃、突然巻き起こった大不況が人生を一変させた。父の会社は比較的体力のある会社だったものの下請けの会社だったのもあり、仕事の契約が解除されたら会社も疲弊する。父の会社は少々値が張るものの質はよく、技術も業界ではトップクラスだったから人気もあった。しかし不況に喘ぐ状況では背に腹は変えられず、金額の安い会社に契約を取られていき、父の会社は倒産した。すぐに同業他社に就職できたものの、父は日々のストレスからか、元会社の同僚で同じ会社に再就職した人から教えられた夜の遊びにのめり込んだ。
そこから全てが狂った。遊びを知らなかった父は夜の遊びを知って沼にハマるのには時間がかからなかった。最初こそ母も多めに見ていたのだが、次第に疲弊していった。その頃にはアンリも物心がつき始め状況を理解できる様になってからは、父は家にいる時は酒を浴びるほど飲んでいるか、泥酔して玄関で寝ている姿がアンリの知る父の姿だ。母は病んでいる様で、あれほど潑剌とした人だったのに見た目にも気を配らなくなっていた。肌も髪もボロボロで、父の心が離れていくきっかけにもなっていた。
結局父は酒乱が祟り体調を崩し亡くなり、母はいつの間にか嵌っていた宗教にお金を注ぎ込み家計は火の車。アンリも何とか高校には入学したものの引きこもってゲームをする状態になっていた。
高校を卒業したアンリは一般企業の事務で働いていた。職場の近くに部屋を借りて一人暮らしを始めたアンリは、仕事場と部屋を行ったり来たりするだけの生活だった。そこに『バトルアドベンチャー ヴァランティーヌ』が配信された。今までにないゲームだからというのもあり登録したのだが、見事にどハマり。そしてレアに出会い、懐いたのだ。
転生した時、あの日は母が宗教に入信する事を強要してきて大喧嘩になりゲーム喫茶に引きこもっていた。家に帰ると母の凸があるから通帳と印鑑だけを持ってゲーム三昧を楽しんでいた。そして日課のお魚天国を楽しんでいた、他のプレイヤーの会話が目に入った。
『賢者様が魔王と戦っている!』
『え!?今日ってイベントあったっけ!?』
『ないない!完全に不意打ち!レア様、大丈夫かな?』
『【速報】賢者様、魔王と単騎決戦している模様』
『王国騎士団第一軍が出陣した!』
『賢者様の屋敷からモーリスさんが出張ってるらしい』
逐一情報が流れる。アンリもレアが単独で魔王に挑んでいる様だと知って、せめて周囲のモンスターを討伐しに行こうかと思っていた。ところが、突然目の前が真っ暗になった。あれ?バグ?と思っていたら、体に衝撃と激痛が走った。体の中から引き裂かれる様な痛みに一瞬で意識を奪われる。
そして次に目を覚ましたら、そこはゲーム内の世界だった。サラ・フォン・アルエ。この名前を見て色々と察した。死因は分からないが、自分は死んでゲームの世界に転生したのだ。水の国アルエ帝国の第一皇女として。
そうと分かれば情報収集は必要だろう。今の自分はまだ赤子。出来ることと言ったら使用人達の話から情報を仕入れること。そして絶望を知る。自分が転生したゲームの時間軸から400年後の現在、『魔導具術師』は『無才』というレッテルを張られているそうだ。5歳になった頃に創造神から手紙が届き、この世界の現状を知る。
アンリ自身も『無才』なため、使用人達からの扱いは悪い。アルエ帝国は長子継承だからアンリが次期皇帝であり当然帝王学を学ぶのだが、家庭教師もやる気がない。特に魔法に関しては『まあ、姫様は出来ないでしょうが』という前置詞が付く。あまりに腹が立ったので、せめて武術だけはと言われて学んでいたフェンシングの剣レイピアを魔導具化させて一蹴させてもらった。『貴方から学ぶことはもうありません。本日付で解雇です』と言ってそれ以来、家庭教師はなくなった。母上には事情も話し、信じていない大臣達を引き連れて宝物庫からアンリの魔力媒体であった指輪を回収してからが早かった。魔法を自在に操れるようになり、レイピアの腕も帝国一になったアンリに媚を売る大臣で溢れたのだ。海龍を単騎で討伐して見せたことで、アンリの足元は磐石なものとなった。
母上は良き理解者だった。そして素晴らしい女帝だった。アンリの実力をちゃんと認めてくださり、たくさんの愛情を注いでくださった。次期女帝を妹のアリスにしようという大臣達に耳を貸さず、『あの子にレイピアで勝てる者がいたら考えてやろう』と言っていた。もちろんどれだけ卑怯な手を使ってもアンリに敵う者はおらず、むしろそんな大臣達は処分されていった。
そして私も夫を持つ日がやって来た。公爵家の三男リュカだ。幼馴染みでもあったからその女好きは知っていた。それでも政務は出来るし、身も蓋もないが跡取りが生まれればそれで良いのだ。そこに愛がないことを分かっていて、アンリは妥協した。というか期待をしていなかった。自分を愛してくれるなんて思っていない。貴族の結婚なんてそんなものだ、と諦めていたのだと思う。そして予想通り娘が生まれたらリュカは『役目は終わった』とばかりに女を侍らせて毎日を過ごしている。まあ、政務には手を抜いていないからなにも言えないのだが。
着替えをして北の庭園に向かうと、そこには既にアメリーとコラリーがいた。
「お母様」
「おまたせ~!さあ、食べましょ~!」
今日のメインは飛龍のステーキだ。生野菜のサラダもあり、魚料理ばかりのこの国では珍しい食材だ。
「バルテレミー帝国との貿易は順調の様ですね、母上様」
「そうね~。今は王国までの水路も計画されてるから~、3か国の貿易は今後さらに発展するでしょうね~」
「美味しいもの沢山入ってきますか?お母様!」
「姉上は食べ物にしか興味がないのですか……?」
「失礼ね~!ちゃんと魔導具やその技術にも興味は持っているわよ!ただちょっと美味しいお肉に興味があるだけよ!」
食いしん坊のアメリーはバルバストル王国の食べ物が気になる様だ。コラリーはアンリの魔力媒体である指輪が気になり、その技術に興味津々だ。
「そうだったわ~。今度バルバストル王国で夜会があるのよ~。そこにレアの娘と婚約者であるレアの後継者が参加するから~、そこにアメリーも行くわよ~」
「本当ですか!お母様!」
「貴女も10歳だもの~。ご挨拶も兼ねて行きましょ~」
まあ、それは建前で、いつか留学させるに当たって経験をさせておきたいというのが本音なのだが。
「コラリーも10歳になったら一度は連れていってあげるわね~」
「はい、母上様」
そんな話をしていると、何やら城の方が騒がしい。
「どうしたの?」
「誰か来たのかな?」
「敵ではなさそうだけど~」
そして少しすると見えてきた姿に全員が眉根を寄せた。ハーレム状態でご機嫌なリュカ一行だったから。
「やぁ」
「『やぁ』じゃないですよ、お父様。何をやっているのですか」
アメリーは立ち上がって言う。
「何って、デートだよ。お前も年頃だ。婚約者とデートくらいするだろう?」
「『婚約者と』デートするのであって、手当たり次第にその辺の女を引っ掻けて遊び歩くお父様とは違います」
「おやおや、手厳しい。誰に似たのだか……」
「それに貴女達も、栄えある我らがアルエ帝国女帝の前で無礼ですよ」
リュカに甘える様にくっ付く女達にコラリーも苦言を呈する。
「これは俺が許可しているから良いのさ」
「良くありませんよ、父上様。この行動を許可しているのが父上様なら、いますぐやめさせてください。母上様の高貴なお顔に泥を塗るおつもりですか?」
「お父様の行動や発言は、お母様の女帝としての覇道に影響を及ぼすのだとご自覚ください。不敬です」
娘2人の容赦ない言葉に、リュカも流石に不味いと思ったのか、女を自立させる。
「まったく。可愛くない娘に育ったものだ」
「お母様が見逃していらっしゃるからと言って、あまり調子に乗らないでください。お母様はお父様に夫として期待をしていらっしゃらないだけなのですから」
「そうですよ。政務しか期待できない父上様がいつまでも城にいれると思わないことです」
「ふふ。何を言っているのやら。私は皇配なのだぞ?」
「夫としても父としても役目を果たしていない貴方から政務を取ったらなにも残りません」
「姉上様が女帝補佐をする様になれば、その補佐は私の仕事になります。アリス様は私達の帝王学の先生ですし、母上様がお忙しい時は遊んでもくださいました。公務においてもアリス様がいらっしゃらなければ回らないものも多い。父上様、あなた様のご公務はどうでしょう?父上様でなければいけないものはございますか?父上様がいらっしゃらないと困る方はいらっしゃいますか?」
そう言ってコラリーはアンリを見る。アンリは苦笑した。それが答えだ。そもそもリュカでなければ回らない政務や公務はない。アメリーやコラリーが成長したら引き継ぐことが可能な仕事ばかりだったのだ。
それに思い至ったリュカは呆然としてアンリを見る。
「サラ……お前……」
「最初から貴方には何も期待していなかったもの~。皇配としての政務を果たしてもらえたらそれで十分だったし~。それだってアメリーとコラリーを生んだことで果たしているし~、公務は誰でも出来るものにして~、いつバイバイしても良い様にはしていたわ~」
そう、アンリは強かなのだ。黙ってリュカの好き勝手にさせていたわけではない。そもそもリュカには何の期待もしていなかったから、適当にそれっぽい公務を割り振っていただけだったのだ。おだてたら調子に乗る、非常にチョロい性格をしていたから出来たことだ。
「まぁ、私も鬼じゃないもの~。追い出すなんてしないわ~。2人が政務や公務を出来るようになったら貴方には離宮暮らしをしてもらうわ~」
「離宮暮らし?」
リュカはキョトンとする。
「貴方用に離宮を建てているのよ~。そこで引退後は政務も公務もない自由な余生を過ごしてもらうわ~」
「……それだけか?」
「ん~。別に恨んでいるわけじゃないもの~。本邸から離れた離宮でなら何をしていても良いわ~」
私は龍脈鉱の神殿に籠ることになるし~、と言うと、リュカは笑顔になる。
「子猫ちゃん達は当然、連れていっても良いんだよな?」
「構わないわよ~」
リュカも女達も勝ち誇った様にアメリーとコラリーを見やる。2人は呆れた様な笑顔を見せる。
「お母様は甘いですね……」
「仕方がないですね」
アンリが何を考えているのかを知っている2人は、口裏を合わせる。2人の呆れた笑顔の理由は父親のチョロさだった。
最近、アルエ帝国の最果てに城の不良使用人を働かせる場所を作っているのだ。いわゆる左遷である。周囲には特に何もなく、だだっ広い海があるだけ。娯楽もなく、移動は船がないと距離がありすぎる。自力で泳いで帰ろうとしたら途中には強いモンスターがうようよしている。まさに絶海の孤島。しかも質の悪い使用人しかいないから管理も行き届かないだろうし、犯罪も横行するだろう。定期連絡だって届くかどうか怪しい。
ちゃんと政務をしていたら分かる事なのに……これは政務もまともにやっていないな?
その後、リュカが侍らせた女達と共に地獄の余生を過ごす事になるのだが、それはまた別のお話なのである。
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