ジオフロント
1ヶ月が経過した。バルバストル王国、バルテレミー帝国、アルエ帝国の再開発は着々と進行していた。といっても、開発の手順は当初とは大きく変更されている。と言うのも、邪神封印の地からの地響きが日々大きくなっているのだ。その間隔も短くなっていて、封印が解けるのも時間の問題だ。
急務は封印の地の神殿だ。早急に神殿の建造を行い、そして後はピンキーの魔石で封印が解けた邪神を直ちに封じて行く。しかしそれには時間がかかる。どう頑張ってもこの世界に及ぼす邪神のエネルギーによる影響が出てしまう。それを防ぐために3カ国の防御結界を展開する準備を始めている。結界を展開するのに必要な魔導具を最低限でまずは開発して設置している。それ以上は邪神の事が解決してからだ。
最低限の魔導具を設置したら後はそれを起動させるだけの簡単なお仕事。魔導具の起動は国軍の魔導師が担当する。いくら邪神を相手するわけではないとはいえ、この魔導具に国の存亡がかかっている。緊張感が魔導師達の間に広がる。
それはレアの弟子達も同じだ。彼らが命じられていたのは民の護衛だ。不測の事態に備えてレアは国民を避難させた。その避難先はジオフロント。そう、ジオフロントである。レアが用意した秘密基地だった。その規模は王都の倍。しかもその都市機能が凄まじく、いざとなったらジオフロントで生きていける様な設備を設置したのだ。畜産業も行う事で食糧を確保できる。空調の魔導具も設置されているし、太陽がないのに日中は明るく夜は暗くなった。気温の上下はなく常に一定で、春夏秋冬がない。その規模のものを1ヶ月かけずに作り上げたのだ。ただ、王族からしてみたら『王国のジオフロントを』1ヶ月で製作しただけならば許容範囲内だ。ところがレアは『バルテレミーとアルエも無事じゃないと意味がない』と言う事で、何と3カ国分のジオフロントを1ヶ月で制作して見せたのだ。このまま王都をジオフロントに移設しても良いかもしれない、と各国の重鎮達は思ったと後に語られている。『アルエはそもそも海底にあるからね。掘削が大変だったわ』とため息を吐きながら言っていたが、そういったレベルではない。
そして各国にレアの弟子が派遣され、当該国の騎士達と協力して民の避難が行われる。ケンとアンリはさも当然の様な顔をしていた。曰く『感謝する。これで帝国民を守れる』であり『ありがと〜!私、土魔法って苦手なのよね〜』だそうだ。その程度で済む辺り、この2人も大概だな、と誰しもが思っていたのだ。
それぞれのジオフロントには城の代わりとなる建造物もある。それは城ほどの大きさはないものの、王家の保養所である屋敷クラスの建物になっている。そこには王妃や王子を筆頭とした王族と使用人達が避難している。国王と宰相、近衛騎士だけは地上の城にいるが、その安全もしっかり確保してある。何しろそちらにはロドリグを筆頭としたドワーフ軍と近衛兵が詰め、王都城壁は王国軍の半分とレアが鍛えたオクレール軍の一部が守っている。邪神の復活にあたって、魔王の比ではないエネルギーを放出するだろう。当然、魔物に対する影響もあるだろう。暴走する魔獣達が王都に突っ込んでくる可能性も高い。レアが鍛えたオクレール軍は勿論だが、ロドリグも魔物相手なら申し分ない実力を持っている。もちろん邪神を相手できる者はいないが、邪神のエネルギーで暴走するであろう魔物達の相手はできるだろう。そしてオクレール軍の一部と国王が貸し与えてくださった王国軍の半分が海底にある邪神神殿の周囲を守っている。神殿の中には水はなく空気もあるため通常の行動ができる。まあレアの訓練は水中戦闘も念頭に置いたものだったから、海中で戦闘になっても問題はないのだが。しかもこういう事も想定してアンリに指導を頼んだりもしていた。今や王国軍やオクレール軍は世界最強の騎士になっている。
民達のジオフロントへの避難を確認してレア、ケン、アンリは各国の結界魔導具の起動を指示した。これは魔導具同士の同期が必要なため少々時間がかかる。魔導師達の集中力も問われるが、そこは国に仕える魔導師達。何の問題もなく起動が完了し、結界が王都を囲んだ。魔導師達に歓声が上がるが、本題はここからだ。レア達は結界を確認すると神殿に向かい邪神の復活を待つ。復活まではもう間もない。緊張感が神殿を包み込んでいる中、3人はというと神殿の広間で優雅にティータイムを楽しんでいた。
「はぁ……アロンティー美味しいわ〜」
「最近はバタバタと忙しかったもんな」
「まあね。流石の私も疲れたわ」
側ではセバスチャンが紅茶と菓子を用意している。セバスチャンには邪神のエネルギーを少しでも抑えるための結界を張ってもらっている。邪神が復活を始めたらセバスチャンには結界の維持に集中してもらう。完全に封じる事は流石にできないが、全てが放出されるよりはましである。レア達には問題にならないが、護衛の騎士達には毒となる。エネルギーを浴びるだけで精神崩壊を起こしてしまう。
「さて、作戦を確認するわよ」
邪神が復活を始めたらピンキーの魔石を使って邪神を吸い込む。とにかく少しでも多くの邪神を吸い込む。そうする事でここに封じる邪神を弱体化させる。
「そして邪神が復活したら、私が邪神を龍脈鉱に押し込むわ。その間に2人は剣を持って配置につく。で、合図と同時に剣を台座に刺す、と」
「レアに相当な無茶をさせる事になるが、仕方がないな」
「今の私達じゃ相手にならないもの〜。レアに頼るしかないわ〜」
これが創造神の予定通りにレアと同時に転生・転移ができていたら2人も戦闘に加われたのだが、これに関しては創造神にも想定外だった様だし仕方がない。
すると、ゴゴゴッという地響きと共に地震が起き始めた。そして龍脈鉱が明滅を始めた。どす黒いオーラも漏れ出てくる。間違いなく邪神復活だ。
「時間よ」
「は〜い!」
「やれやれ」
3人は立ち上がり配置についた。それぞれピンキーの魔石を大量に持っている。そして溢れ出してきた邪神のエネルギーを魔石に吸い込んでいく。邪神はエネルギーが存在そのものだ。エネルギーが生命体として顕在する前にエネルギーを吸い上げてしまう、と言うのが今作戦のメインだ。邪神のエネルギーを吸い上げた魔石が次々に積み上がっていく。
「これ、足りる〜?」
「たりねーかもな!」
「足りなかったら私が魔石生成するわ!」
「それは無謀だろ!」
「ピンキーの里にしたみたいな魔鉱石にするのは無謀だけど、魔石なら無茶程度で済むわ!」
懸念していた通り、ピンキーの魔石は足りなさそうだ。レアはセバスチャンに指示して自分の持っていたピンキーの魔石を2人に配り、自身は魔石生成を行う。魔石は大体手のひらサイズ。足元にゴロゴロと転がり積み上がっていく。それを空間転移で結界の外に追い出していく。複数魔法の同時起動は高位の魔導師でも大変なのだ。それを事もな気に行う辺り、レアの規格外は相変わらずなのである。
すると龍脈鉱は明滅をやめて溢れ出していた邪神のエネルギーを吸い込み始める。地鳴りも地震も止み、寸の間の静寂が訪れる。
「っ!散開!」
レアの声で3人は剣を刺す台座の方まで退避する。次の瞬間。魔力爆発が起きた。セバスチャンの結界がなければ爆風でレア達でさえ粉微塵だったかもしれない。
「まさかこの結界が歪むとは……流石は邪神、といった所でしょうか」
「魔王の魔力爆発さえ耐えられる結界を歪ませるのも凄いけど、この威力の魔力爆発を『歪む』程度で押さえ込む貴方の結界も流石よ」
「もったいないお言葉です」
さて、邪神はレアが消滅してから現れた存在だ。レアもケンもアンリもお初にお目にかかる。どの様な姿なのか。セバスチャン曰く『黒髪の女性体でした』との事。
龍脈鉱の上にエネルギーの塊が生まれた。それは黒い霧に包まれ、そして霧が晴れたそこに現れたのは……
黒髪にゴスロリ服を纏う幼女だった。
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