賢者の鉱石
「さて、と。じゃあ、魔鉱石を作りましょうかね」
私は過去の爆発で大穴の開いた場所を埋め立てた所に新たに鉱石を作る。かつてベラの生家があった場所。里長は魔力を吸えなければ時間が経てば衰弱するだろう。そして食事事情がなくとも、酸素も封じている状態だ。今日中に酸欠で死ぬ可能性が高い。というか、既に失神しているだろう。まだ無酸素にはなっていないだろうが、低酸素になっているだろう。まあ、どっちにしても今から魔力を吸い上げるけどね。
地中の魔力を探り、里長の魔力を探る。どうやらまだ生きている様だが、息も絶え絶えといった感じ。遠慮なく魔力を吸い上げる。普通の魔法使いならば魔力が暴走するのだが、魔導具術師なら問題ない。膨大な魔力を目の前に溜め、制御しつつ魔鉱石化させていく。
「流石はハイピンキーよね〜」
「ああ、桁違いの魔力だな。それを制御できるレアも大概だけどな」
400年前の2人なら出来たが、今の制御力では難しい。いや、技術的には問題ないのだ。しかし自分の魔力が保たない。というか、集中力も保たない。いや、400年前でもここまでの事は出来なかった。私が『孤高の天才』であった所以だ。
そんな話をしている間にも、私は少しずつ魔鉱石を形成していく。ピキピキと音を立てて鉱石が大きくなっている。周囲の魔力が魔鉱石に吸い込まれる。
「ベラ、魔力を流してみて」
「こう?」
「そうそう。ゆっくりね」
ベラは魔導具術師ではないが、魔鉱石や魔石などを生成できる。パスカルとヤンも小さな魔石なら生成できるが、ベラはまだ教えていなかった。魔力の制御は妖精種である以上お手の物なのだが、その魔力を使った技術はまだまだだ。まずは私の補助で魔力を流す。魔石の魔力はともかく、魔鉱石の魔力は複雑だ。経験しなければ分からないし、かと言って魔鉱石なんて現代において発掘さえされない。当然人工しかないわけで、それだって今ではレアしか作れない。そんな作る機会はないため、未だに魔石を作っていないのだが経験だけはさせておく。
「凄い……」
「魔鉱石の魔力は魔石の魔力と性質が少し違うのよ。魔石にはない流動性があるの」
「リュウドウセイ?」
「魔鉱石の魔力は魔石の魔力と違って『生きてる』からね」
「生きてる?」
「そう。形を持たない魔獣だと思って良いわ。龍脈の魔力と同じ。あれも元は肉体を持たない神獣だからね」
龍脈は創造神が生み出した、この世界を守る神獣だ。究極のスピリチュアルボディ。失われる事がない永遠の命。そして龍脈と魔鉱石の違いは意思があるかないかだ。
「魔鉱石は意思なき魔獣。それを鉱石としてその場に留めておく事ができるの」
「という事は、龍脈の魔力には意思があり一所に止まっていないという事ですか?」
近くにいたヤンは問う。
「そうね。今どこにいるのかは誰にも分からないのよ。というか、龍脈の魔力そのものが魔獣だから『全部が龍脈たる魔獣の存在』であって、『そこに存在している』んだけどね」
「……難しい……」
パスカルは悩む。これに関してはレアも説明が難しい。『存在』とは何かという哲学になってくるのだから。特にスピリチュアルボディとマテリアルボディが存在しているこの世界において、何を持って『存在している』と言うかは非常に難しい定義なのだ。
「まあ、こればかりは理屈での理解は難しいわ。『そういうモノなのだ』として受け止めるしかないわね」
「師匠でもそういう理解なのですね」
「この世界の全ての事象を知り尽くしているのは創造神様だけだもの」
「それはそう。師匠は多くの事を知っている。けど、全てを知っているわけではない。だからこそ日々勉強と研究を続けていらっしゃる。万能ではないからこそ一度は死んでいるし、創造神様の御力で復活しただけ。自分の力で復活したわけじゃない」
パスカルは静かに言う。一度は奴隷になり、目の前で死ぬ者を見て、自分は死を何とか回避した。そんな経験をしたからこそ、どんな者にも『死』は等しく訪れ、それこそが『万能ではない』と言う確固たる証拠なのだと思っているのだろう。……まあ、ここにいる若干3名は不死なのだが、それはまだ知らなくても良いだろう。
「これが意志を持った魔獣になる事もあるんでしょうか」
「どうだろうね」
理屈的にはこの魔鉱石を卵代わりとして魔力から魔獣が生まれる事は起こりうる。このピンキーの里を渦巻く清浄な魔力からもピンキーが生まれるのだから、この中でも……
「……ね〜?既に魔獣が生まれてない〜?」
「……またフラグ回収か?」
「いや……流石に早過ぎじゃない?」
どんなに早くてもここから魔獣が生まれるまで数百年掛かるんじゃ……
「……魔獣の意志はまだないけど、核は出来ているわね」
「それって意志ができるのも時間の問題なんじゃねーの?」
「そうか……ハイピンキーとファントムピンキー……」
レアは気がついた。そう、今魔鉱石を生成するのに使っている魔力は上位種ハイピンキーのもの。そして現在手を入れているのは超上位種のファントムピンキーであるベランジェールだ。ファントムピンキーは聖魔法と光魔法を行使するピンキーだが、その魔力はピンキー達にとっては珍味であるが、魔鉱石の生成においては特に特殊な効果を発揮するのだ。
「流石はパスカルね〜」
「レアの弟子だけはあるな。まさかフラグ回収の才能もあるとは。軍師になるには十分だな」
この魔鉱石から魔獣が生まれる可能性に思い至るスピード、その頭の回転、そしてその器量。全てにおいて才能豊かな弟子だ。
「パスカルを私の後継者として、軍師として配置して、ヤンはパスカルの補佐として行こうと思うわ」
「そっか〜」
「ついに後継者に推挙するんだな」
このピンキーの里と廃村の掃除が終わったら正式にパスカルを私の後継者として擁立し、ヤンはパスカルの代官兼護衛として、カミーユを専属執事に配置しようと思っていた。本格的に後継者としての教育をする必要がある。
「後継者……僕が……」
「やったね!パスカル!」
「おめでとうございます」
ヤンは自分の事のように喜び、パティストはパスカルに祝いの言葉を送る。パティストにとっては将来の主となる者だ。しかも廃村の処理をする姿を一番近くで見ていたのもあり、パスカルとヤンの実力を認めていた。
「これから修行が厳しくなるわよ。頑張ってね」
「「はい!」」
そんな話をしていると、鉱石が完成した。400年前よりも大きくなった気がする。ベラよりも里長の方が魔力量が多いという理由もあるのだろう。加えてベラが干渉したのもあり、その濃密さは尋常ではなかった。
「これ~、かなり強い魔獣が生まれるんじゃない~?」
「というか、この気配って……」
「……神獣、かな」
私は頭が痛くなった。ただの魔獣ならともかく、神の系譜に連なる神獣が生まれそうになっている事実に、現実逃避をしたくなった。
「これ、どのくらいで生まれるのかしら~」
「どんなに早くても、数百年はかかるかな……。ただ、この鉱石はすでにこの森の守護を司る形になってるわ。神獣として生まれたらエアライドドラゴンと一緒にこの森を守る事になるでしょうね。ま、子供の間はエアライドドラゴンに守ってもらわないといけないと思うけど」
神獣は余程熟練の鑑定師でない限りただの魔獣との区別はつかない。私達からしたら『オーラが全然違うじゃん!』と思うのだが。魔物商人に神獣を捕縛されて売買されようものなら地獄絵図にしかならない。
「それまではどうするの~?」
「里ごと封じようと思うわ。ここには私達以外は入れない様にするわ」
「神獣が育つまではそうした方が良さそうね~」
「ピンキーの里が復活するまではレアが守った方がいいな」
「そうね。経過報告はパティストに任せるわ」
「かしこまりました」
パティストは優雅に頭を下げる。そして一行は領地の屋敷に戻った。
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