ピンキーの里長
里長の家に入ると、中はかつての面影を残しつつ、そのまま廃墟になっていた。家具だったのであろうものは壊れ崩れている。ベラは黙って奥の部屋に入っていく。そして一箇所に立ち止まると、静かな声で詠唱する。すると床板が軋む音を立ててズレる。
「へぇ〜!まだ動くんだ~!」
「永続型機構だもの。壊れない限りはね」
「流石は里長って所か」
ベラを先頭に地下に入っていく。地下は土を掘り、岩肌を剥き出しにした造りだ。そして階段を降りきった先には地下牢がポツンとあった。そしてその中には……
「え、里長!?」
「何でいるんだよ!?」
「もしかして~、ここに逃げ込んだ感じ~?」
そこには年老いたピンキーがいた。そもそも魔力で生きているピンキーにとって、最低限の魔力さえ確保出来ていたら確かに生きていられるだろう。『賢者の鉱石』から溢れた魔力が溢れてたから困らなかっただろうし。理屈は分かる。分かるのだが……
「ベラ、貴女よく気が付いたわね」
「残影、追ってみた」
「ああ……ピンキーにしか出来ない魔法……忘れてたわ……」
残影。それはかつてそこを通った者の気配、と言えば分かるだろうか。それを追えるのはピンキーだけだ。レアは魔導具に頼れば見えるが、そもそも気配が残っているのに気が付けなければ魔導具を使おうとすら思わないわけで。
「里長」
「……お前……」
「どんな気持ち?」
「……ふん。仕返しでもしているつもりか?」
「……」
静かな、そして冷たい親子の会話。誰も何も言わない。そして……
「貴方は、生き残った。一人で、死ぬ事も出来ずに。たった一人で、ここに生き残った」
「世の中、生きた者勝ちじゃ。ワシは勝ったのじゃ。お前の様な死に損ないではない」
「生死に勝ち負けはない。貴方は勝負すらしてない」
里長は黙った。そしてベラを見やる。ベラの目は穏やかで、そして冷酷だった。
「どうやら地上はほとぼりが冷めたようじゃな」
「ママ達が処理してくれたから」
「そうか。お偉い『賢者様』の割には時間が掛かったではないか」
「そうですね。ここまでの道のりはとても長かったです。ようやく、ここの処理に着手出来ました」
里長の嫌味を軽くいなすレア。里長は鼻を鳴らす。
「では、もうここにいる必要はないな」
「貴方はここから出られない」
「は?」
ベラの一言にポカンとする里長。アンリとケンも少し驚いているが、レアは面白そうな表情で成り行きを見守っている。
「私は貴方を許さない。許す気もない。受けたもの、全て返す」
「何を……」
「ここの魔力、全て遮断した。ここまでの道も塞ぐ。貴方は出られない」
「な!?」
里長は慌てて鉄格子を開けようとしたが開かない。というか、鍵穴がなくなっていた。外側にある鍵穴を手探りで探し、そして鍵穴がなくなったのが分かった様だ。
「ここの魔力、全て私が吸った。どのくらい耐えられる……?結果に興味ないけど」
里長の顔色は悪くなっていく。魔力がなくなれば飢えていく。そして餓死するだろう。かつてのベラの様に……
「お、おい!それは、それだけはやめてくれ!ベランジェール!お前はワシの娘じゃろうが!」
「違う」
「……は?」
「貴方、言った。『お前など娘ではない!』と」
「そ、それは……」
「『金輪際、父と呼ぶな!』そう言ったのは貴方。私には父はいない。私には、ママしかいない」
そう言ってベラはレアの背中に隠れる様に抱き付く。『もう良いの?』というレアの問いにベラはコクッと頷いて顔を隠す。
「……だそうです。まあ、私としても印象が悪くて助けたい気持ちが湧きませんが」
「グッ……!」
「さて、行きましょうか」
「うん」
「は〜い!」
「おう」
「ま、待て!いや、待って下さい!」
背中から切羽詰まった声が聞こえる。しかし、誰も足を止めない。後ろで非常に騒がしいが、私達は無視して地上に上がった。その背後はレアの土魔法で塞がっていたので、すぐに里長の声は聞こえなくなっていた。
「ベラちゃん〜!凄〜い!」
「大したもんだ。よくやった」
アンリとケンに褒められてベラは嬉しそうだ。そしてベラはレアを見上げる。レアはニコッと笑ってベラの頭を撫でる。何を言わなくても伝わるものがある。
「さて。ここも解体するか」
「そうね〜」
「地下は既に解体済みだ。地上にしかないし、3階建ての建物ならすぐに終わるだろう。それが終わったら昼食にしようか」
「ご飯!?」
「解体が終わったらね。飛行船に戻って、パスカル達を拾ってカミーユが作ってくれたお弁当を食べましょう」
「うん!」
セバスチャンの料理も国お抱えの料理人並なのだが、カミーユの料理もとても美味しい。この領地の屋敷には料理人がいなかった。正確には宰相一家がいた時にはいた様だが、宰相が失脚した時に夜逃げ同然にいなくなったらしい。料理人も雇おうかと思ったが、始終いるわけではない領地の屋敷だし、そもそも王都の屋敷にさえも料理人はおらずセバスチャンに任せている。気に入った料理人がいたら、と思っていたのだが中々現れなかったからそのままになっていたのだ。
今日はカミーユがお弁当を作ってくれた。パティストは廃村への対応準備に忙しかったから、カミーユが代わりに食事や掃除を引き受けている。
解体が終わり一息吐いて周囲を見回す。ダークピンキーに憑かれておらず逃げていた魔獣達が徐々に戻って来ている。魔獣はレア達の大立ち回りで遠巻きに見守る感じになっている。彼らにも生存本能というものがある。無闇に突っ込んでくる魔獣は少ない。特にこの森は王国の中でもハイランクの魔獣が多い森だ。知性があり狡猾な魔獣も多いため、無鉄砲な事はしない。
「ここも何かに利用したいわねー」
「ここ、居心地良いわよね〜」
「元はピンキーの里だからね」
ピンキー達がいる場所は神聖な魔力が満ちる。そもそもピンキーは精霊種で空気や魔力が綺麗でなければ生きていけない。ダークピンキーがいた時には空気も重苦しいものだった。しかし、聖魔力を放った事で空気の浄化もできたし、魔力爆発が起きない程度にベラに吸い取ってもらったから、里があったときの様な清浄な空気を取り戻していた。ここを放っておくとろくなことが起きなさそうだ。何しろいくら清浄な魔力でも『過ぎたるは』というやつなのだ。人間も魔物も、ピンキー以外は長期滞在できないのだ。
「近いうちに、この辺からピンキーが生まれる、と思う。里が復活すると思う」
「確かにな。そうなったらここの管理も任せられるもんな」
「魔力はまた魔鉱石を配置しましょう。今度はちゃんと事故が起きない様にするわ」
「ベラの魔力?」
「それでも良いけどね。里長が貴方にした事を、彼にも味ってもらおうと思ってね」
里長もベラの様なファントムピンキーではないものの、上位種で光魔法を使える。それにピンキーにとってベラの様なエサ要員にしかならない上位種とは違い、里長はハイピンキーと言い、高い統率能力を持ち、悪戯好きの妖精種であるピンキーの里では指導者には必須の存在だ。それ故に数百年に一度ハイピンキーは生まれる。ちなみにファントムピンキーは数千年に一度生まれるかどうか、という存在だ。希少性は劣るものの、実用性はハイピンキーの方が上だったりする。
今回の里長はベラに並ぶ程に魔力量が多く、このまま衰弱死させるのはもったいない。なので、死ぬ前に魔力ごと吸い上げてその膨大な魔力を魔鉱石として利用する方が良いだろう。ベラは死なない程度に魔力を吸い上げられていたが、里長はそんなことを考える必要もない。死んだら魔石の魔力しか吸い上げられないが、生きたまま吸い上げれば肉体に内包している魔力も吸い上げられる。まあ死んでからでも、肉体に内包していた魔力は魔素になって空中に漂うのだが、そうなると『魔力』から『魔素』になってしまう。魔素からまた魔力にしたら良いだけだしレアにとっては息をする様に出来ることだ。ただ少し、ほんの少しだけ面d……時間を節約できるのだ。時間は有限。大切にしなければならない。
「昼食休憩を取ったら魔鉱石制作をして、広場があった場所に設置しましょう」
「そうだな。腹減ったなぁ!昼は何だ?」
「カミーユは〜、サンドイッチって言ってたわよ〜」
「マーシュワイルドダックのサンドイッチらしいよ。それとクリフゴートのグリルサラダ、それと果物、だったかな?」
「肉弁当!」
「野菜もいっぱい入ってそうね〜」
「ママ!早く行こう!」
「はいはい。分かったわ」
レアは苦笑いをして飛行船に戻った。パスカル達も回収し、美味しい昼食と洒落込むのだった。
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