ダークピンキー討伐
次の日、朝食を取りながらケンはふと思い出した様に聞く。
「そういえば、ピンキーの里は飛行船で聖魔法の魔力で片付けるんだよな?その魔力ってどうなってるんだ?」
今更である。
「昨晩、徹夜で私が充填したわよ。ベラと一緒に」
「ベラ、頑張った!」
魔力の量だけで言ったらベラとレアは同じくらいある。聖魔法を放てなくても、それに使う魔力は潤沢にあるのだ。一箇所にダークピンキーが固まっていればベラとレアが魔力を練り上げて、そこにレアが聖属性エンチャントしたら良いのだが、流石に範囲が広すぎるのだ。飛行船でもなければ撃ち漏らしが多すぎる。
「パスカル、ヤン。体調は?」
「万全です」
「問題ありません」
「そう。だったら予定通り、廃村の消滅は任せるわ」
計画はこうだ。飛行船で廃村の上空まで飛ぶ。そして廃村丸ごと包む様に広範囲型殲滅魔法【火炎舞】をパスカルとヤンで発動。炎が消えたらパティストの空間魔法で地上に降りて、撃ち漏らしは各個撃破。レアであれば廃村を結界で封じて逃げない様にするが、流石に2人には難しいのでそこまでは求めない。要するに討伐出来れば良いのだ。
「で、廃村に3人を下ろしたら私達はダークピンキーの討伐を行う。流石に範囲が広すぎて結界を張る気にもならないし、撃ち漏らしは出るだろうから、そうなったら各個撃破でお願いね」
「は~い!」
「聖魔法と光魔法は一応使えるからな。そんな大量にいるものを殲滅できる程の魔法はまだ無理でも、少量なら剣にエンチャントして切り付ければ良いからな」
そう。レアとの戦闘訓練で実力も確かなものとなった。しかもロドリグの魔導武器を待っている間に、レアがそれぞれに作っておいたのだ。ヒヒイロカネに魔銀を混ぜたもので作った魔導武器は、規格外も甚だしい一品である。『まあその場しのぎだし』とレアは笑い、ケンとアンリは『少し重いけど、ロドリグの武器が届くまでだし』と言い、弟子達は『これが御伽噺の中での話しなら夢もロマンもあるのだが……』と頭を抱えたのだ。
ちなみに、ケンの剣をパスカルとヤンが持とうとしたら、持ち上がらなかった。アルバンも『重すぎないですか!?』と言っていた。流石に持ち上がってはいたが、これを振り回しての討伐は体力がもたない。ケンは多少重いとは思っても、取り回しに問題は無い程度に感じている。アルバンは筋骨隆々で大剣を振り回しており、盾と剣を兼ね備えた武器になっている。当然重くなるため、軽量化が計られ強度もしっかりしている。一方のケンは幼い頃から筋力強化に務め、屈強な筋肉と言うよりもしなやかな柔軟性のある筋肉を付けていた。着痩せするタイプらしく分かりずらいが、見事な細マッチョなのである。多少重たい剣でもそれは筋肉にものを言わせて強引に振り回せば良い。【身体強化】の魔法も使えるし、いざとなったら剣の重さを利用して殴れば良いのだ。ヒヒイロカネは鋼の一種で重さと強度がある。故に鈍器としても活躍するのだ。
アンリのレイピアは突きが基本。当然軽い方が良いのだが、それこそいざとなったら鈍器替わりに殴れば良い。普通に叩き切れる。刃は付いていないが、重さと勢いと身体強化があれば強引に叩き切れるのだ。丈夫だから折れもしない。小屋での強化訓練で魔獣を討伐した時も何回か魔獣の頭蓋骨を叩き割っていた。レイピアで。『お前、レイピアの使い方、分かってるか?』とケンが呆れていた。
「じゃあ、行こうか」
「「「「「はい!」」」」」
飛行船に乗り、廃村上空まで向かう。森そのものは一般的な状態。まあ、森の一角に切り開かれた場所があり、ボロボロの城壁の中には崩れた家だった物が並んでいる。その間をアンデッドの人間達がフラフラと歩き回っている。まだ日中だから動きは鈍いが、これが夜だったらもっと活発だ。
「さて、パスカル、ヤン。始めるわよ」
「「はい!」」
パスカルとヤンは元気に答える。レアがコンコンと床を叩くと、床が透明になり真下の廃村が見える。パスカルとヤンは魔力を練り始める。日々の修行で魔力を増やしている2人は、個人では殲滅魔法を行使できないものの2人でなら発動させて更に余裕を持たせる程度の魔力を持っている。城壁内を魔法陣で取り囲む。魔法陣にパスカルとヤンの魔力が注ぎ込まれる。この広範囲型殲滅魔法は魔法陣魔法とのハイブリット魔法だ。広範囲型殲滅魔法の難点はその制御の難しさだ。暴走すれば目も当てられない被害を生むことになる。それを抑えるのが『魔法陣』の役割だ。特に火の魔法は制御が出来なければ恐ろしい。だからこそ過去のレアは火魔法を中心に改良したのだ。
そして……
「「【火炎舞】!」」
魔法陣が輝き、火柱が上がった。魔法陣の内円を囲む様に沢山の火柱が立ち、螺旋状に巻き上がる。それが中心に向かって集まり、火柱は一分程で消滅した。城壁内の家だったものは跡形もなく無くなり、アンデット達は灰すら残さず消滅した。
「……これ、撃ち漏らし、あるか?」
「ないかもね~」
「なさそうだけど、念の為に降りて調べておいて」
「かしこまりました。ではお2人とも、参りましょう」
城壁の外に若干の魔力反応が散見される。これがアンデットの可能性が高い。この程度なら各個撃破で問題ないだろう。
パスカルとヤンは頷いて、3人はパティストの空間魔法で姿を消した。
「さて、私達も行こうか」
「そうだな」
「は~い!」
飛行船はそのままピンキーの里に向かった。レアは索敵魔法を全開にする。廃村から徒歩で2日くらいの距離にあるピンキーの里には、ピンキーのそれとは全く別物の気配を感じる。
「……ダークピンキーの行動範囲が思った以上に広いわね」
「それでも廃村までは進行していないな。問題はオンスターや魔獣に取り憑いているのが結構いるって所か」
「中々の量よ~?ダークピンキーは魔力で排除できても~、取り憑かれた魔獣は各個撃破しかないわ~」
思った以上にモンスターヤ魔獣に入っているダークピンキーが多かった。聖魔法や光魔法を放つならともかく、魔力だけなら魔獣の方が対処できない。
「……私が前衛をする。アンリ、後方支援をお願い。ケンはベラここにいて」
「は~い!」
「ベラ、皇帝陛下を守る!」
「ははは!頼もしいな!」
ケンがレアよりも弱いのを分かっているのか、ベラは張り切っている。子供に守らせるのもどうかと思うのだが、まあ騎士達もいるし大丈夫でしょ。
「じゃあまずは魔力砲だね」
飛行船の船首から巨大な砲台が出てくる。砲台に魔力が装填される。そこに目掛けてレアが聖属性をエンチャントする。
「そぉれ!吹っ飛べ!」
「吹っ飛べ~!」
砲台から放たれた魔力は一直線に森の中に着弾し広範囲に広がっていく。森が光に包まれる。中ではまるで光の炎に焼き尽くされる様にダークピンキーが消滅していく。しかし魔獣の肉に守られたダークピンキーは消滅を免れ、飛行船の方に向かって威嚇している。その中で空を飛べる魔獣がその大きな翼を羽ばたかせて飛翔する。何体かの魔獣が飛翔時に巻き起こった突風に巻き込まれて細切れになっていたが、誰も気にしていなかった。理性を失い、恐怖を感じなくなっている魔獣達にはどうでも良い事だったのだ。
「わぁ~、ドラゴン~」
「しかも嵐の化身とはね」
索敵で何となく予想はしていたが、レアはウンザリしていた。『嵐の化身』とは風魔法を使える竜エアライドドラゴンの事だ。本気で翼を羽ばたかせれば、小さな領地などひとたまりもなく、息吹は王都とて一撃で滅びるだろう。確かにこの森を住処にしているのは知っていた。しかし、どう見てもダークピンキーに取り憑かれている気配はないのだ。
「何で怒ってるのよ……」
「どうせ影響ないだろうけど~、ダークピンキーなんて鬱陶しいだけなのにね~」
赤く光る眼。唸る声に剥き出しになる牙。どう見ても怒っている。まあ、縄張りを無害とはいえ膨大な魔力で襲われたら怒るだろうが。しかしそれよりもダークピンキーの方が鬱陶しいと思う。
ドラゴンは大きな口を開けて息吹を飛行船に向かって放った。しかし飛行船には結界が張られ、結界はビクともしない。
「随分威力も弱いわね。怒ってはいるし敵意は感じるけど、攻撃的な意志はなさそうね」
「もしかして~、追い払おうとしてる~?」
「なるほどな。強敵の気配を感じて追い払おうとしている、って事か?」
「何で……」
レアがそう言いかけてハッとする。索敵にドラゴンであろう気配が引っかかった。
「もしかして子供がダークピンキーに憑かれちゃったの?」
「あ~、なるほど~」
「子供を守ろうとしているのか。でもなぁ……」
はっきりいって、ダークピンキーに憑かれた魔獣を救出なんてできない。命のエネルギーを食い荒らされるからまず無事ではいられないのだ。
「仕方がない。あのドラゴンを押さえ込んで討伐をしましょう。エアライドドラゴンはこの森の守護者。討伐はしない方がいいから」
レアはそう言ってドラゴンの頭上に魔力を貯める。そして……
「【サンダーバインド】」
ドラゴンが雷に巻き付かれる。咆哮して暴れるが、拘束は解けない。
「お見事」
「よし。行くわよ!」
「は~い!」
レアとアンリは転移で地上に降りる。鬱蒼と生い茂る森の真ん中にぽっかりと空いた空間。周囲の木々には家だったのであろう廃墟がある。奥の方に一際大きい家があり、ツリーハウスの概念を教え込みたい様な、地中にまで伸びた廃墟が建っていた。まあ、一本の大きな木を中心に建っているのでギリギリツリーハウスと言えない事はない、のか?ベラはこの家の地下牢に閉じ込められていた。そして村の真ん中の地面には、不自然な程に大きな穴が空いていた。深さは3メートル近くあり、直径は5メートル程だろうか。ここが所謂『賢者の鉱石』があった場所だろう。位置関係から言ってもほぼ間違いない。恐らく魔力爆発が起きたのだろう。国王から聞いた話だと、滅ぼすことに決定した里の真ん中に核撃魔法を打ち込んで意図的に魔力爆発を起こしただと聞いていた。状況から言って鉱石が砕けて溢れ出した膨大な魔力に核撃魔法が引火する形で魔力爆発が起きたのだろう。『滅ぼすしかなかった』とはいえ、想定より大きな被害が生まれたのかも知れない。元々広場があった場所だが、この規模で爆発したとなると、当然その辺に建っていた家だってひとたまりもなかっただろう。しかもその時にはピンキーの血と遺骸でこの辺りは地獄絵図だっただろうし、ダークピンキーも生まれていかたもしれない。そこにいた闇商人は既にダークピンキーの餌食になってアンデットになっていたか、もしくは爆発で吹っ飛ばされたかもしれない。生きたまま捉えられたピンキー達はともかく、ダークピンキーは魔力爆発程度で殲滅できる数ではなかっただろう。むしろ爆発で魔力が飛散して広場から離れた場所で殺されたピンキーまでダークピンキーになったのではないだろうか。普通ならもっと時間がかかる様なものだが、ファントムピンキーの魔力だからな。あっという間にダークピンキーになっただろう。それはそれで地獄絵図だ。
ダークピンキーの殆どが魔獣に受肉している。そんな魔獣達が一斉に襲ってくるが、2人は平気な顔で討伐しまくる。レアがとにかく双剣でザクザクと切り込み、アンリはレアに襲いかかる魔獣を魔法で吹き飛ばす。ダークピンキーに取り憑かれると凶暴化するが、レアにとっては大差はないし、今のアンリにとっても敵ではない。魔石がザクザクである。何回か野良で討伐したダークピンキーが憑いた魔獣や聖魔力で消し飛んだダークピンキーの魔石を合わせれば、これだけで邪神対策にも十分だろう。討伐している間も上空ではドラゴンが暴れているが、ケンが攻撃を防いでいるおかげで問題ない。
少しすると、エアライドドラゴンの子供がいた。案の定ダークピンキーに取り憑かれ暴れている。襲ってくる気配はなく、どちらかと言うと必死に暴れている感じだ。
「あの子……」
「まだ取り憑かれて日が浅そうね~」
「流石はエアライドドラゴンよね。普通は一瞬で自我を失うのに。助けられるかな……」
レアはやるだけやってみる事にした。聖魔法を練り上げて剣の形にする。これは純粋な魔力のみで作られた剣で、レアの様に魔力の多い者にしか使えない『魔導具術師』の秘技とも言える魔法だ。
レアは【身体強化】と【思考加速】を追加し、子ドラゴンに斬りかかった。子ドラゴンの肉は切れていない。しかし、中にいたダークピンキーだけは真っ二つになった。黒い霧が子ドラゴンから出ていき、子ドラゴンは倒れた。
「大丈夫そう~?」
「生命力は大分削れているけど、ギリギリ持ちこたえているわね」
変に抵抗していたせいで生命力の減りも激しかったのかもしれない。レアは周囲に立ち込める聖魔力を吸収、それを子ドラゴンに流し込む。この子の魔石はかなりのダメージを受けていて、このままでは命を維持できない。そのため魔石を一度消滅させ、先程放った濃密な魔力を使って新たに魔石を作ることにした。聖魔力を子ドラゴンに流し込み中で魔石を生成する。熱の魔法と重力操作の魔法を使って魔力をひたすら圧縮していく。少しずつ子ドラゴンの中で魔石が出来ていく。
「ふぅ。これで大丈夫かな」
「レア~、相変わらずよね~」
「非常識が服着て歩いてるんだからしょうがないな」
「しょうがないじゃない。これしか方法ないし」
いつの間にか降りてきていたケンが話しに加わる。
そもそも魔獣の体内で魔石を作り直すなんて出来ない。しかも属性の付いた魔力で魔石生成なんて誰もできない。まあ、今更である。
エアライドドラゴンが地上に降りてきた。子ドラゴンを鼻先で突く。
「大丈夫よ〜。レアが助けてくれたわ~」
「グルルル」
ドラゴンはレアの胸に鼻を擦り寄せた。グイグイと押し付けて感謝を伝えている様だ。
「はいはい。良かったわ。でもね、この子多分ここには居られないわよ」
「どうして~?」
「スピリチュアルボディーになっちゃったのよ。だからエアライドドラゴンじゃなくなったのよ」
「あ、死んだ扱いになっちまったのか」
「実際問題、一度死んだんだよね。持っていた魔石を消滅させたし。で、種族がセイントドラゴンになっちゃったのよ」
「でも〜、それはそれでいいんじゃないの〜?」
「いやぁ、これ、親との繋がりが切れちゃうのよ」
そもそも魔獣の魔石は母の腹の中で濃密な魔力を受け取り、時間を掛けてゆっくりと凝縮していくのが理屈だ。それが卵の殻に溜まっているか、母の腹の中で少しずつ受け取るかの違いだ。つまり、子供の魔石は母親の魔力でできているわけで。
「その繋がりが切れると、育児放棄になっちゃうのよね」
「なるほどね〜」
「仕方がないよな。野生の世界だもんな」
「この子は私達で育てるしかないでしょうね。まだ狩りだって一人で出来ないからね」
目を覚ました子ドラゴンは喉を鳴らしてエアライドドラゴンに近寄る。エアライドドラゴンは子ドラゴンを一瞥してプイっと外方を向いた。子ドラゴンはショックを受けていたが、仕方がないだろう。自分の子供を守るためにあれだけ暴れていたのに、目の前にいる子ドラゴンが自分の子供だと認識できないのだから。それでも見た目は自分の子供だからか、安否確認していただけはしていた。それだけでも前例はなく、このエアライドドラゴンの親子愛が伺える。
「あれ?でも、さっき感謝を伝えて来たよな?」
「あれは多分、自分の領土を奪還してくれたからじゃない?」
「ああ、なるほど」
「子供がいなくなっちゃったけど〜、大丈夫かしら〜?」
「まあ、そもそもドラゴンの子供って分身体に近いからね。その内にまた生まれるでしょ」
エアライドドラゴンはバサッと翼を羽ばたかせて巣のある方に向かって行った。離陸する時に一瞬、子ドラゴンに視線をやり喉を鳴らした。そして飛び立ったエアライドドラゴンを子ドラゴンは寂しそうに見つめている。……これは一応認識してるっぽいな。そして、獅子が子を谷に落とす様に、可愛い子には旅をさせようとしている……のか?そうだと良いな。まあ、勝手な解釈だが。
「さて、じゃあセイントドラゴン。一緒においで。ダークピンキーも全滅したし、ベラが魔力を吸い上げてる。それが終わるまでの間に建物を解体しましょう」
「クォン!」
セイントドラゴンは嬉しそうに鳴き、【エアカッター】で崩された瓦礫を咥えて一箇所に纏めている。子ドラゴンとはいえ、パワーはかなりのものがある。あっという間に瓦礫は撤去されていく。思ったよりも魔力が多かったからベラのご飯に丁度良い。まあ、最近は魔力よりもセバスチャンの料理の方が好きみたいだけど。
「穴は塞いでおくね〜。危ないし~」
「落ちるなよ?」
「分かって……きゃぁ~!」
「言わんこっちゃない……」
足を踏み外して穴の中に落ちたアンリ。呆れたケンが穴の中に入り救出する。
「いったぁい!」
「だから気を付けろって言ったろう?」
「遅い~!」
「お前の不注意だろうが!全く……」
「そこ!イチャイチャしてないで、穴塞いでよね!危ないから!」
「「イチャイチャしてない!」」
魔力を吸い切ったベラがセイントドラゴンの背中に乗ってご満悦なのを見守っていたレアは呆れた様に言う。お姫様抱っこで穴から出てくる2人は何とも絵になる。早く結婚してしまえ、と思わないではないが、どちらも既婚者だったな。
ふと大人しくなったベラを見ると、その視線はかつての生家だった廃墟に向いていた。あまり良い記憶のない家だろうが、それでも生まれ育った家だ。思うところがあるのだろう。
「ベラ」
「……行っても良い?」
「もちろん。一緒に行きましょう」
それでベラの気が晴れるなら、観にいくのも良いと思う。レアの娘として前に進むためには必要な事だから。
予約投稿です。いいね、コメント、誤字脱字報告などありましたらお願いします。いいね・コメントは作者が喜びます。




