ピンキーの里
「そう……ダークピンキーが……」
「結構問題よね〜」
「これは予定を繰り上げてピンキーの里を見に行った方が良いかもなぁ」
食堂で夕食を取りながら話す。ケンもアンリも地獄の戦闘訓練でお腹が減っているらしく、最高級ステーキが次々に消えていく。ドナシアンは目を丸くしている。余程お腹が空いている様で、夢中で食べている父に思わず苦笑いをしていた。
「いやぁ!セバスチャンは当然だが、カミーユも料理が上手だな!」
「本当〜!うちの国は肉がないから嬉しいわ〜!」
「もったいないお言葉です」
カミーユはしなやかに頭を下げる。水の国には海産物は豊富なのだが、肉類は輸入していなかったのもあり料理長も調理法がよく分かっていないため食事に出てこないらしい。
「さて、本題だが……」
「私達魔法は使える様になったけど〜、聖魔法も光魔法も使えないわよ〜?」
ワイン片手に話しているが、目の前にはもう何皿目かのステーキがある。ようやく落ち着いて話ができる様になったという感じだ。そして話しながら食べやすい様にカットステーキにしてくれたカミーユ。できる執事に成長している彼にセバスチャンは満足そうだ。
「そうだよね……正直言って私一人でベラを守りながら戦闘は厳しいのよねー……」
「ダークピンキーだけならともかく〜、道中にアンデッドがわんさかいそうだものね〜」
「森を伐採する勢いでやるなら方法はあるんだろうけどな」
「また『破壊神』って呼ばれちゃうわよ〜?」
「うるせー!」
全盛期のケンはかなりヤンチャだった。彼の戦闘後は焼け野原になる。それを揶揄して周囲からは『破壊神』と呼ばれていた。ケンは不満だった様だが、『嫌ならもう少し考えて戦闘しなさい!』とレアに言われて何も言えなかった。
「まあ、今は強制的に魔法を使えなかったからね。多少は頭を使う様になったんでしょう」
「若かったんだよ。今は流石にあんな事できねーよ」
「成長したわね〜。よしよし〜」
「子供じゃねーぞ」
アンリに頭を撫でられてケンは少し顔を赤くして手を払う。この2人は同期だからか、昔から私に師事しながら切磋琢磨していて仲も良い。兄弟の様な関係だからか、こうやって揶揄い揶揄われていた。
「まあ、破壊神は放っておくとして」
「放っておくのかよ!」
「エルフ騎士団に様子を見に行ってもらって、アンデットの出現範囲を調べてから作戦を練りましょう。近くにあった村は最低でも全員アンデットになっていると思うし、そこを通らないとピンキーの里には入れないからね」
「そこのアンデットだけは確実に殲滅しないといけないわね〜」
「まあ、そこは面倒だけど方法はある。だって、『破壊神』になったら良いんだもの」
「おい」
別にふざけているわけではない。その村は廃村になっている。そこは誰もいなくなりアンデットしかいない場所。ならば取る方法は一つ。村ごと燃やしてしまえば良いのだ。どうせ生きている人間はいないし、そこで村を再建する訳でもない。丸焼きにしても問題はないのだ。
「やるとしたら魔法陣魔法だね」
「燃やす範囲が決まってるものね〜。効率的よね〜」
「問題はその後だな」
ピンキーの里は森の木々の中で暮らしている。人間よりも小柄であるからか木々を切り開く必要もない。故に廃村にすることをしようとすると森林破壊になってしまう。流石にそれはな、と思ってしまうのだ。
「私ならなんとか出来るんだけど……」
「出来るんだな……」
「伊達に賢者やってないもの」
「それもそうか」
「問題は流石の私も発動させるための魔力を集めるのに時間かかりそうなのよね。その間は隙だらけだし、かと言ってそれの対処を出来る人はいないし……」
「弟子達総動員したら〜?」
「ん〜……あの子達の中に聖魔法が使える子がいたらそれもありなんだけどねー」
「ああ、なるほど。光魔法もだめか?」
「概念が難しいからね。あと、これはあくまで最近の魔法研究の結果で、まだ確証がある訳ではないんだけど……」
この世界の魔法は木・火・土・金・水・風・空・雷・氷・光・闇・聖・無・錬金・回復がある。その内、木・火・土・金・水・風・空は前世で言う五大元素と四元素の混合だ。基本的に魔法はその元素の範囲内にある属性が最も使いやすく、その範囲外の属性だと制御の難しい魔法なのではなかろうか。ゲームをやっていた時は気にしていなかったが、最近は特に空間魔法の魔力操作がさほど難しくない事が気になっていた。もちろん空間そのものの把握に関しては難しいにしても、魔力の操作はそれほど難しくない。それよりも雷や氷の魔法の魔力操作の方が難しい。まあ、ラノベやゲームの中での設定上はテンプレだが、今はリアル世界だ。だからこそ違和感があった。地球の思想である五大元素、四元素の思想が反映されている事も違和感だが、この世界には科学、もとい『理』と呼ばれる思想は長年研究者が追い求めている思想だ。それを元に行使されている魔法。その概念を作ったのは当然神様な訳で……
「創造神様が元素の思想を理解しているって事が驚きなのよねぇ」
「ああ、それなら……」
「創造神様が転生者だからよね〜、きっと〜」
「……はい?」
イマナンテイッタ?リターンズ!
「もしかして創造神様の手紙に書いてなかった〜?」
「その辺の話は聞いてないわね……」
「創造神、何をそんなに慌ててたんだろうな?まあ、そこまで問題が起きる様な情報じゃないが……」
「ちょっと報・連・相が抜けてるわよね〜」
「……確かに気になるわね」
よく考えたら私の転移にも少し違和感がある。ケンとアンリは一から生を受けて転生している。しかも私と転生・転移のタイミングがずれている。私の転移がかなり遅れている。もちろん神様の価値観ならそれもあり得るが、創造神は転生者だと言っていた。という事は時間的価値観も似ているはず。この時間差は少々気になる。
「もしかして、私の転移時に何か問題が起きていた……?」
「それで慌てていて、必要事項を書き忘れちゃったって事〜?」
「可能性はあるな。人間味があって親近感はあるが、それくらい慌てていた理由は何だろうなぁ?」
いくら転生者とは言え、途方もない年月をかけてこの世界を創ってきた創造神がそれ程慌てる事故とは一体何なのか。
「……ダークピンキーの暴走……」
「ん?」
「私の転移が遅れた。その原因は分からないけど、遅れてしまった事が原因で私に対処させようと思っていた事に遅れが出ているのだとしたら……」
「私達と同じタイミングで転移させようとしたのだとしたら〜、一つは邪神への対応だとして〜、もう一つはダークピンキーの一件かしら〜」
「そこまでに俺達を育ててもらう予定だったのが、完全に遅れているって所か。確かに俺達が生まれてある程度意識改革ができていたとしたら、今の段階でダークピンキーなんて目じゃなかったかもしれねぇな」
「邪神への対応もそうだけど、ベラももう少し成長してただろうし、彼女を筆頭にダークピンキー討伐部隊を編成できたかもしれない。それだけ私のダメージが大きかったのかもしれないし、ほかの要因があったのかもしれないけど。まあ、今更よね」
大事なのは、この状況でどうやって対処するかだ。戦力は揃っていないけど、今ある戦力でどうづるかを考えないといけない。
私達が悩んでいると、パスカルとヤンが近づいてくる。
「失礼いたします。師匠。飛行船は使えないのですか?」
「使えない事はないけど、破壊神の誕生よ?」
「他の攻撃魔法ならそうでしょうが、光魔法や聖魔法なら……」
「それも『原初の魔王』にやった様な『魔力だけを』放てば、アンデットは消滅するのでは?」
「……なるほど」
その手があったか。魔法にして放つと自然破壊してしまうが、魔力だけなら問題はない。魔力溜りは発生するだろうが、その処理はベラに任せれば良い。そのくらいなら戦闘ではないからベラでも問題ないだろうし、ベラは難なく吸い切れる。まさに目からウロコが3000枚くらい落ちた気分である。いや、そもそも一寸前に自分でやった方法だったのに思い出さないとは。ボケたか?
「パスカルくん、ヤンくん、ナイス~!」
「確かにそれなら問題ないだろう。しかもアンデットの巣窟になっているであろう廃村もそれで対処出来る」
「いや、廃村は燃やすわよ」
「何故!?」
燃やすしか方法がないから燃やそうと思っていたケンは驚くが、レアなりに理由があった。
「殲滅魔法の練習になるからね」
「練習」
「うちの弟子は物覚えが良いから大体の魔法を覚えちゃったのよ。でも、殲滅魔法に関しては別。実践訓練なんておいそれと出来ないでしょ?」
「そりゃまぁ……」
「廃村を燃やしちゃう事で実践訓練も兼ねてるって事~?」
「そういう事。私達だけで行くなら魔法陣魔法でやるけど、訓練を兼ねてやるなら殲滅魔法にするわ。って事で、パスカルとヤンは殲滅魔法の復習しておいてね」
「「はい!」」
「セバスチャン」
「はい」
「ブリアック組とアドリエンヌ組を招集して。エルフ騎士団は屋敷に残して、オクレール公爵と国王から騎士を派遣してもらうわ」
「承知しました」
「国からも派遣させるのか」
「国としても対処に困ってたみたいだし、あそこの領主って私なのよね~」
「……え?」
そう。実はピンキーの里は実はジョクス家の領地だった場所にあったのだ。そこは帝国との国境に面した領地で、辺境伯を賜ったレアには丁度良かったのだ。
あの一家だから村が一つ廃村になったくらいでは動かなかったのだ。まあ何も出来なかっただろうが、せめて村人を避難させることはしても良かったと思う。今更だろうが。
「あの宰相を自由にさせてたのは国だし、貴族の責任でもあるわ。エルフ騎士団だけで編成してもいいんだけど、ここは国と貴族のトップにも責任を取ってもらいましょう」
「手柄の分配ね~」
「まあ、確かにいくら辺境伯でも、強すぎる力は畏怖の対象だからなぁ」
「私だけならいいけど、今は弟子もいるからね。アニエスにどうこう言う愚か者はいないでしょうけど、他の子はほとんど平民だから」
「弟子を持つって大変ね~」
「楽しいけどね」
やはり向上心のある者に教えるのは楽しい。今は弟子達もある程度強くなっていて、旅商人パーティや冒険者パーティとして活躍している。時々ギルドから薬師の応援要請が来ることもあるし、事務の手が足りない繁忙期には手伝いに行くこともある。そうやって積極的に外の依頼も受けると、屋敷に閉じこもっていては学べないことも学べるのだ。パスカルとヤンも最近は2人で魔導具を作っている事も多い。
そういう意味では今最も手を焼いているのはベラだけだ。あの子は色々な意味で手が焼ける。そこが可愛いところだが。
「なあ、レア」
「ん?」
「ベラの手が離れてからでいいから、うちの第一王子をレアの所に留学させて良いか?」
「私の所?学園じゃなくて?」
「ぶっちゃけ、学園なら帝国と変わらんだろ?でも、レアの所は別だ」
「確かに〜!あ、だったら、うちの第一皇女もお願い~」
「あのね……」
「うちの娘、ちょっと自信過剰なところがあってね〜。手を焼いているのよ~」
「ああ、あのじゃじゃ馬娘か」
「次期女帝だけど~、あれじゃあロクな女帝にならなそうで~、困ってたのよ~」
「選民思想に取り憑かれている訳ではないのね?」
「それはないわ〜。むしろ『民は守るもの!』って思想が強すぎて困ってるの~」
「もしかして軍をそっちのけで?」
「そうなの〜!強いのは確かなんだけどね~」
軍も民だから、自分の身を盾にしてでも守り抜く!という気合いのお姫様らしい。別ベクトルで手が焼けそうだ。
「ついでに第2皇女もお願いね~」
「何故そうなるの!」
「そっちはそっちで引っ込み思案なのよ〜。慎重なのは良いけど臆病で~」
「足したら良い感じの姫達だよな」
「そうなのよね~」
「……ベラが落ち着いたらね」
「分かったわ~」
「すまんな、レア」
厄介事は先送りするに限る。今はやらないといけない事が多すぎるのだから。
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