王都観光
ケンとアンリが地獄の戦闘訓練を行っている間、ドナシアン皇子とヤンは王都の観光をしていた。護衛はレアの屋敷で鍛えられた精鋭だ。観に行くのはロドリグの工房。今では弟子を取って魔導具を作っている。レアの弟子を志願して応募してきた魔導具術師もいる。貴族の指定だと派手な戦闘ではなく地味な裏方の技術を勧められて怒る者もいたが、ロドリグの魔導具を見ると掌を返した様に弟子になったりしている。まあ、それでも使い物にならない連中はいるし、そう言う奴はあっという間にいなくなる。まあ、時には剣を一から作るし、一日中暑い室内で汗まみれで鉄を打つ必要もあるし、地道に木を削って木屑だらけになるだろうし、火傷するだろうし、傷だらけになるだろうし。貴族だからと言って身の回りの事は自分でやらされるし、当然使用人だっていない。なんでも自分で出来ないと駄目だから、生まれた頃から甘やかされて育っている貴族の子弟にはキツいと思う。
「おう、ヤンか」
「お久しぶりです、ロドリグ様。今日はよろしくお願いします」
「うむ」
ロドリグは頷くと、ドナシアンの前に進み出て最敬礼をする。
「帝国第1皇子ドナシアン様。お初にお目にかかります。王国お抱え魔導具師のロドリグでございます」
「初めまして、ロドリグ殿。伝説の魔導具師に会えた事、とても嬉しく思います」
「俺の噂とは……トビ様なら分かるが」
ロドリグは少し戸惑っていた。レアの伝説の中で少しだけ取り上げられている書物はあったが、噂になるほどの伝説はない。まあ王国お抱えだったから、そういう意味では噂はあったかもしれないが。
「父上からよく聞いていました」
「父上……ああ、ケン殿か。なるほどな」
「お世話になったと聞いております」
「まあ、ケン殿も魔導具術師だからな。媒体は俺が作っていたな」
「……え、父上は魔法の才能がないと……」
「ん?ああ、そうか。今は『無才』と言われていたから黙っていたんだな。皇帝は賢者殿と同じ『魔導具術師』で、俺が媒体を渡したから魔法は使えるぞ」
「……そういえば、王国に来る途中でワイバーンを氷魔法で倒していたっけ……てっきり氷魔法を付与した魔導具を賢者様から受け取っていたのかと思っていました」
「まあ、今の時代ならそう思うだろうな」
ロドリグはそう言って合図をする。奥から美しい女性が宝飾品を乗せたトレーを持ってきた。
「あれ、エルフさんですか?」
「おう。エルフ王が派遣してくださったんだ。誘拐されたエルフで、今更里に戻るのも、って子をうちで雇ったんだ」
「なるほど。店員さんですね」
「ああ。こういうのは俺達みたいな野郎には向かないからな」
豪快に笑うロドリグ。エルフは苦笑いをしている。誰にでも得手不得手がある。得意な者に得意な分野を任せるのは当然だろう。
ちなみに今商品を持ってきたエルフは元元帥の孫娘だ。背はロドリグの頭一つ分大きいくらいだろうか。そして耳はエルフにしては短い。歴としたエルフなのだが、時折生まれる突然変異なのだという。元元帥は家系を辿ると王家に連なる家系だ。エルフの里の初代長は原初のエルフと言い、耳は尖ってはいたが今ほどは長くなく、背も高くはなかったという。そんな初代長と同じ容姿を持つエルフを『元祖返り』と呼び、忌み嫌われていたそうだ。元元帥が積極的に孫を救わなかった理由はそこにあった様だ。
「これらは全て魔導具術師用の宝飾品になっています」
「杖だけではないのですね」
「はい。賢者様の時代は誰もが憧れた職業として『魔導具術師』が位置づけられていたそうです」
「そうなのですか!?」
「戦闘もできて、魔導具も自力で作れるからな。大概の武器も使える様になるし、『魔導具術師』は一目置かれていた」
「では父上も……」
「ああ。きっと戦闘で大活躍出来るだろうぜ。近接戦も遠距離戦も出来る。昔は近接戦は苦手だったのが、今世では魔法を使えないと偽っていたのが功を奏している」
「剣術で父上の右に出るものはいませんからね」
「ははは!ケン殿も努力したのだな!あれほど剣術嫌いだったのにな!」
400年前のケンは土魔法と氷魔法、雷魔法を気に入って使用していた。『剣術は才能がない!』と言って嬉々として魔法を使っていた。『才能がないんじゃなくて、単純に剣の鍛錬が嫌いなだけでしょ』とレアが突っ込んでいたこともあった。ちなみにアンリはレイピアと槍を好んで使っていた。盾との相性も良かったからだ。
「今の父上は嬉々として魔物の塊に切り込んでいくので、騎士団長が大変そうです」
「血の気の多さは変わらんか。ふむ……魔導具の剣を渡した方が良いだろうか……」
「ああ。そういえば師匠がそんな話をしていましたよ。今日の戦闘訓練で見極める、と」
「戦闘訓練」
「師匠との模擬戦だそうです」
「それは大変だな!賢者殿は遠慮がないからな!」
ロドリグもレアの戦闘訓練には協力した事がある。あの底なしに等しい体力と天才的な戦闘能力について行くのは大変なのだ。ロドリグも冒険者として登録したらSランクに登録される実力だ。実際、アルバン達が束になってかかってもいい戦いが出来るだけの実力がある。それが敵わない辺り、レアはやはり孤高の天才なのだ。
すると、突然工房の上から物凄い爆発音がした。天井が抜け落ち、姿を見せたのは小型のドラゴンだった。
「なっ!」
「おお、スモールドラゴンか。珍しいなぁ。こんな人里に現れるなんて。というか随分ピンポイントで襲ってきたな。何に反応したんだか」
「僕、初めて見ました」
「普段は人里にいないからな。小さいとはいえドラゴンなんだが、気も小さくてなぁ。普段は縄張りの周辺にしかいないんだ」
なんとも呑気な会話である。もちろんそんな会話をしながらも行動はちゃんと取っている。何しろ王都の中に魔物が侵入してしまっているのだから。
ロドリグは大槌を持ち、エルフ達に避難の指示を出す。ヤンもドナシアン皇子を建物の外に騎士と共に出して魔力を集める。ロドリグはそれを確認すると、ドラゴンに向かって飛び上がり思い切り槌で殴り落とした。ドラゴンとの戦闘は翼を切り落として近接戦に持ち込むのが一般的なのだ。しかしそうすると、ドラゴンの貴重な素材である翼が駄目になってしまう。ロドリグはドラゴンの翼を素材として欲しかったらしく、翼を傷付けない様にしていた。そしてヤンは目の前に集めた魔力に氷属性をエンチャント。それをドラゴンに放った。わざわざエンチャントにしたのは、氷魔法は魔力操作が難しいから。暴走する事を考えたら魔力だけで操作して、そこにエンチャントした方が暴走を防げる。
スモールドラゴンは一瞬にして氷漬けになった。工房も若干氷漬けになったが、この程度なら許容範囲内だ。
「ふむ。素材は保存出来たな」
「最高級品ですね!爪も牙も全部揃ってます!」
「何か欲しい素材はあるか?」
「そうですねー……最近、防具一式を新調したいんですよね」
「ああ。背も伸びたからなぁ」
「布地は用意してあるんですけど、装飾を作る素材をどうしようかなと思ってたんですよね」
「だったら、翼爪なんてどうだ?」
「文句ない一品ですが、良いんですか?」
「ああ。これを金属と一緒に加工して装飾にすれば、かなりのものになるぞ」
「では、それをお願いします。パスカルにも渡しておきます。彼も新調する必要がありますから。それと……」
ヤンは短剣を抜くと、スモールドラゴンを真っ二つにした。中から黒い煙の様なものが湧き出してきて消えて行った。
「あれは……」
「ダークピンキーですね。暴走したリトルドラゴンの一件といい、少々問題ですね。これは師匠に報告するべきでしょうね」
「だな。さて、ここを早く直さんと商売上がったりだな!」
ぽかんとしているドナシアンと騎士達に気がつく事なく、騒ぎで駆けつけた衛兵と騎士団に事情を説明して周辺の交通整理をしてもらった。スモールドラゴンはロドリグの所で解体できるし、工房の修理も自力で出来る。商品は外に机を出して商品を並べる事で対応するそうだ。
一度城に行って国王に報告をすると『これがこの国最強の賢者様とその弟子の日常じゃ』とドナシアンに笑って話したそうだ。ドナシアンは『父上が常識的に見える……』と唸っていたらしい。
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