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賢者レアの復活  作者: huwanyan
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ピンキー

パスカルとヤンは第1皇子であるドナシアンと共に船内を探検していた。


「本当に街みたいだね!」

「師匠は領地を持っていませんでした。その代わりにここが師匠にとっては王家に任された領地だったのだそうです」

「今は領地を持っているの?」

「魔王討伐の一件で失脚した元宰相公爵の領地を賜っています。そちらは現在、代官に任せていますが近い内に視察に向かうとおっしゃっています。領内には王家の保養地もありますし、王家の覚えの良い領地とも言えますね」

「確かに教会がない以外は領地の中にある主要な施設は揃っているね!」

「教会はないけど、礼拝堂はある……です」

「そうなの!?」


必要最低限の施設はある為、移動型の貿易都市と言っても過言ではないこの魔導飛行船。本格的な教会はないが、礼拝堂だけは最下層にある。


「聖職者がいないので本当に礼拝堂があるだけですがね。行ってみますか?」

「うん!」

「カミーユ」

「かしこまりました。ご案内いたします」


護衛として付いていたカミーユは頭を下げて礼拝堂に向かう。

この礼拝堂は信心深い人が乗船した時に使う場所として確保した場所である為、聖職者は常駐していない。何しろ教会としての役割は祈りの場である以外は回復魔法をかけてもらう場と孤児の収容だ。回復魔法は魔導飛行船に必ず乗船する回復魔導士がいる。孤児を保護するにしても、この魔導飛行船は王家所有であるから騎士が同乗する。子供の面倒を見れる女性騎士もいるのだ。ハッキリ言って教会の要素は必要ない。

礼拝堂は最下層で外光も入らない場所にもかかわらずとても明るかった。周囲に飾られているステンドグラスもキラキラと輝いている。


「うわ〜!綺麗だ!」

「僕達も初めて見ました。これは凄いですね!」

「流石、王家の魔導飛行船……」

「ガラスの製造には高い技術が必要です。それを惜しげもなく使用している辺り、400年前の技術の高さを窺い知ることができますね」


カミーユも今では衰退した技術を目の当たりにし感動している。

しばらく呆然と眺めていると、祭壇のある場所に光が当たった。そこには小さめの箱があった。


「これ、何ですか?」

「形的には棺ですね。しかし師匠からは伺っていません」


誰かが死んだから運んでいるならカミーユに知らせているはずだ。


「……中身を確認する必要がありそうだね」

「そうですね。では……」


カミーユは前に出て棺の蓋を開ける。念のためにドナシアンを庇う様にヤンが前に出る。

棺の中には小さな女の子が寝ていた。色白で黄金の長い髪。手は胸の前で組まれていて背中には翼がある。


「ピンキー……」

「ピンキーを見るのは初めてです」

「僕も本でしか見た事ない……」

「私も魔物図鑑でしか見ていませんが、間違いなくピンキーです」

「どうしてここに安置されてるの……?」


パスカルのいう通りである。どうしてここに安置されているのか。どう見ても生きてはいないが、つい最近事切れた様な雰囲気だ。


「あぁ……そういえば、この子がいたわね」

「この子ってあのピンキー?」

「そう」

「ここに寝かせてたんだ〜」

「死んでたのは事実だからね。屋敷に連れてってどうにかしようと思って、時間停止の魔法をかけてここに安置してたのよ」

「なるほど〜。だったら教会に安置したら良かったじゃない」

「……あの教会、信用できたと思う?」

「あぁ〜、納得〜」


何とも呑気な会話である。『誰ですか、このこ』という目で弟子達に見られて、レアは苦笑いをする。


「ベランジェール。愛称はベラ。ファントムピンキーって言ってね。ピンキーの上位種と言われているの」

「……もしかして素材ですか?」

「流石に素材のために生身ごと手に入れるなんて趣味悪くないわよ。ただ、この子は上位種だし、聖魔法と光魔法は使えるからね」

「弟子ですか?」


400年前のレアは弟子がアニエスしかいなかった。そろそろもう1人、と思っていた頃だったのだ。


「そう。今は弟子も人数いるから急いではないけど、とりあえずこの子を屋敷に連れて行って蘇生してから考えるわ」

「蘇生と言っても……」


平気な顔をしてとんでもない事を言っている。まるで死者を蘇生できるという様な発言だ。


「蘇生薬はあるよ。1人につき、一生涯で一度しか使えないけど」

「400年前には闇取引で流通してたよね〜」

「使い勝手がねー……まさか死んでから自力で飲むなんてできないわけで」

「それだったら『神秘の護り』の方が使いやすいよね〜」

「まあ、魔王相手には使えないんだけどね」

「むしろ魔王戦の時に使いたいのにね〜」


唖然とする弟子達をそのままに、レアは棺に歩み寄る。


「今持ってるし、使っちゃうか」

「持ってたんだ〜」

「弟子にもしもの事があったら、と思ってね」

「なるほどね〜」


アイテムボックスの中から小瓶を取り出してピンキーに飲ませる。飲ませると言っても口の中に流し込むだけだ。魔力がピンキーの体に染み渡る。肌に赤みがさす。ゆっくりピンキーの目が開く。


「おはよう、ベラ」

「第一声それ〜?」

「他に何あるのよ」

「ん〜。ご機嫌よう?」

「同じじゃない」


ピンキーは起き上がって自分の手を見つめる。何が起きたのか分かっていない様だ。別の意味でカミーユ達も何が起きているのか分かっていない。


「蘇生薬を使ったわ。具合はどう?」

「……問題ありません。ありがとうございます……」


ピンキーはペコッと頭を下げた。


「私も謝らないとダメな事がいっぱいあるのよね。貴女を保護してから400年経ってるし」

「……どうしてそこまで時間がかかったのか伺っても?」

「レアがね〜、急遽魔王と戦闘になってね〜。で、死んじゃったの」

「……復活したのですか?」

「400年かかってね。で、復活した直後で色々事後処理に追われて、今ようやく貴女を蘇生させたのよ」


まさか『貴女の存在を今の今まで忘れていた』とは言えない。口が裂けても。


「納得しました」

「ちなみに今、生存しているピンキーは貴女だけよ。300年前にピンキーの里が滅びたらしいわ」

「そう、ですか……」

「何だかピンキーを大量に捕まえて転売しようとした密輸商人がやらかしたらしいわよ〜」

「……まさか鉱石を……!?」

「そのまさかよ。里のピンキーがダークピンキーになっちゃって里ごと滅ぼすしかなかったんだって」


ピンキーの里には『賢者の鉱石』と呼ばれていた膨大な魔力を有する魔石が置かれていた。そこにはそもそも膨大な魔力溜まりがあった。魔力溜まりはそこで膨大な魔力を必要とする魔法を行使した時に、自然が一度に受け入れられない分の魔力がそこに溜まる現象だ。レアを筆頭とした有力な魔法使いなら時々起きる現象ではあったが、レアも他の魔法使い達もそこで魔法を行使した覚えはなかったし、ピンキーの里のど真ん中でそんな魔力溜まりが突然発生するなんて奇妙だった。

調査を依頼された当時現役で活躍していたレアとアンリが調査した結果、原因は分からないが放置すると魔力溜まりから魔力爆発を起こし、半径数百キロが焦土になりかねないという結論に達して『魔王の塊』と同じくらいの規模の魔石を探してきて魔力を溜めたのだ。魔力そのものはピンキーにとって食事の役目を果たしていて必要なものだし、里長にも頼まれたので作っておいたのだ。本当は自然に魔力を馴染ませる魔法を使おうかと思ったのだが、里の人達が『魔石にして溜めておけるなら』と言ってきたからこの方法になった。

まさかこの後、お礼も兼ねて招待された里長の家でファントムピンキーが生まれていて、地下牢で幽閉されていたのを発見するとは思っていなかった。ピンキーの中でも魔力は規格外に多く、その質が特殊でピンキー達にとっては珍味らしい。ちなみにアンリの感想は『花の蜜』らしい。特に珍しい感じでもないからピンキー限定で珍味なのだろう。それ故にベランジェールを『エサ』として扱う者も多く、魔力を吸い上げるだけ吸い上げられ迫害されていた。我慢の限界に来たベランジェールが怒りから魔法を暴走させてしまった。周囲にいたいじめっ子ピンキー達は高威力の光魔法で消滅したらしい。あの魔力溜りはその名残だった様だ。

それ以降、彼女は地下牢に閉じ込められ食料となる魔力も与えられず衰弱していた。まだわずかに意識があったため、レアとアンリが魔力を流し込んだものの時すでに遅し。レアの腕の中で息を引き取ったのだった。そんな彼女を蘇生して弟子にするためにレアが保護。連れて帰ったのだ。

その直後にレアもアンリも死んだため、その後の事は本やセバスチャンの報告で知った。どうも『賢者の鉱石』の存在を知った密輸商人が里に入り、ピンキーを手当たり次第に拐かして、金にならないピンキーは全員虐殺したそうだ。ピンキー以外にとって『賢者の鉱石』とは膨大な魔力を内包する魔石という認識だ。闇取引したら良い金儲けになる。別に魔力が必要なわけではない。『賢者レアが膨大な魔力溜りを吸い込ませた魔鉱石』というのが大事だった。当時伝説となっていた『賢者レア』に関わったものは高額で取引されていた。『賢者の鉱石』は誰もそれを見た事がない、まさに伝説の鉱石だった。そして『賢者の鉱石』を発見した商人が運ぼうとしたら、想像以上に重たかったらしく、『賢者の鉱石』を落としてしまい砕けてしまった。ベランジェールの放出した膨大な魔力が溢れ出し、殺されたピンキーに魔力が染み込んでいった。死んだピンキーは適切に処理しないとゾンビ状態になる。ダークピンキーと呼ばれ、それに襲われるとアンデットになり生きながらの死を迎える。


「里の跡地も一度見に行こうとは思ってるけど、とりあえず今は貴女の回復を優先するわ」

「え〜、見にいくの〜?」

「アンデットが溢れてるかもしれないし」


アンデットになった者はレイスとなり死んだ場所からあまり離れない場所に止まる。地縛霊のようなものだ。自我が若干だが残っており、生前の行動に添う形で行動する。しかしそこから理性を失いリッチという上位種になってしまうと行動範囲が広がってしまう。しかも自我がないから、最期の感情に任せて周辺の村や街に突撃してしまう事が起こりうるのだ。ピンキーの里周辺には小さな村がいくつかあったが、闇商人がダークピンキーに殺されアンデットとなり、時間をかけてリッチになり、廃村にしてしまい村人もレイスになって……という形で増えてしまっている様だ。まあ、それらがリッチになってしまったとしても近くの街までは流石に出て行かないから良いだろうが、これ以上トラブルは勘弁して欲しいのだ。


「ただでさえ王国の衰退した技術の復興をしないといけないのに、これ以上は勘弁して欲しいのよ」

「なるほどね〜。これ以上何かあったら過労で倒れちゃうもんね〜」

「だからその内に様子を見に行くわ。アンデットの討伐は弟子達の訓練にもなるし」


レアはそう言ってベラを抱き上げる。小さいから人間の幼児くらいのサイズだが、ピンキーの寿命は数千年。しかもこれ以上は大きくならない。


「さあ、一緒に出ましょうか。魔力は吸って良いわよ」

「ありがとうございます……」

「カミーユ、行くわよ。皆もおいで。おやつにしましょう」

「は、はい!」

「私もレアの魔力吸っても良い〜?」

「駄目」

「即答!?」

「ベラは食事が魔力だから良いけど、アンリは違うでしょ」

「酷い!」

「酷くない!」


ぎゃぁぎゃぁと口喧嘩をするレアとアンリ。ベラは大人しくレアの魔力を吸っている。カミーユ達は頭が追いつかないらしい。


「父上以上の規格外なんていないと思ってましたけど、世界は広いね……」


ドナシアンは万感の思いを込めてしみじみと言った。


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