エルフの里との国交
レアの屋敷ではエルフ王に報告が行われていた。
「そうか……いや、元帥の暴走は私にも原因がある」
「そうですね。強く押せばなんでも言うことを聞くと思われてしまった父上が諸悪の根源です」
「アニエス嬢……もう少し優しくして差しあげてください」
エルフ王に対する容赦ない言葉にセバスチャンが言う。
「流石に心が痛みます」
「そう?当然だと思うけど。エルフ王が元老院に頭が上がらないなんて、外交において付け入られる隙でしかないわ」
「それはそうですが……」
こうなるとアニエスは頑固だ。セバスチャンでさえタジタジになるというもの。これほど主人がいて欲しいと思った事はないとセバスチャンは思う。向こう400年、ずっと本性を押し隠してきたからか、爆発力が並大抵ではない。アルバン達もオロオロしているが、セバスチャンも神経がすり減る様な思いをしているのだ。
「とりあえず師匠が戻るまで外交の話はおいておくとして、一度里に戻って国交について話し合った方が良いのではないですか?」
「……そうだな。元帥達はここで少しお灸を据えてやって欲しい。また反乱を起こされては堪らない」
「それでよろしいですよ」
「そしてこっちに連れて来た騎士団は任せても良いか?」
「はい。こちらで性根を叩き直します」
「で、今後の話し合い次第だが、その騎士団をそのままレア嬢の私兵にするのはどうだ?」
「確かに師匠が組んだ訓練で鍛えた騎士が私兵になるのは非常にありがたいですが、エルフの里は大丈夫なのですか?」
「今回連れて来たのは第1部隊だ。第2部隊は残してあるから問題はないだろう」
「第1部隊なのにアレですか?里の貴族も相当弛んでますね」
第1部隊はエルフの里の貴族からなる部隊で、その出自故に主に式典や外交、城の警備等で召集される部隊。第2部隊が平民から騎士になった者が所属する。主に里内の魔獣討伐を行う部隊だ。
手っ取り早い話が、華やかで見た目重視の場では第1部隊が、汚れ仕事は平民上がりの第2部隊が行うという事なのだ。そのせいか、第1部隊は第2部隊を『野蛮部隊』と言い、第2部隊は第1部隊を『ハリボテ部隊』と呼んでいるのだ。
まあアニスがいた時も第1部隊は『ハリボテ』感は否めなかったのだが、それでも貴族としての矜持は持ち合わせていて、どんな事があってもエルフ王に反旗を翻す事はなかった。元老院への対応はともかくとして、現エルフ王はエルフの里を数千年に渡って統治し、歴史上最も長い黄金期を維持し続けている王として民に人気が高い。それは貴族も同じだ。
「元帥が推薦した騎士団長が率いる様になってからだ。あやつは元帥とは家族ぐるみの仲だったからな」
「……あの騎士団長、出世欲の塊でしたからね。元帥に唆されたのでしょう」
「そうだろうな」
「元帥の息が掛かった者を軍の中枢に入れる事で実権を握りたかったのでしょうね」
影からエルフ王を操ろうとしていたのだろう。実際、このチョロいエルフ王なら可能だったから。政治の手腕は素晴らしいの一言なのだが、如何せん優しすぎるのかチョロいところがある。アニエスが王国との外交を担当していた時はまだ良かったのだが……
「アニエス嬢」
「ええ。師匠が緊急でお戻りね」
セバスチャンが出迎えのために談話室を出る。
「レア嬢と面会とは……懐かしいな」
「まあ、400年ぶりですよね」
「エルフの寿命を考えると一瞬のような年月だが、人間の寿命を考えると何とも長い時間だったな」
談話室の扉が開き、レアが入ってきた。
「エルフ王」
「レア嬢!久しいな!」
「ええ、400年ぶりですね。お変わりない様で」
「いやはや!レア嬢も相変わらず美しいな!」
「ありがとうございます。セバスチャンから簡単に聞きました。何だかとんでもない事が起きた様ですね」
レアは微笑んでエルフ王と握手を交わす。エルフ王は困った様に眉を下げる。
「まったく……うちの元老院がとんでもない事を企てていた様でな」
「父上が呑気に気が付かなかったせいで、王国側に少なくない被害をもたらしてしまいました。申し訳ございません」
アニエスが頭を下げると、レアは苦笑いをする。
「仕方がないわ。元老院も相変わらずなのね」
「はい。しかも、どうやら帝国と密通して師匠を足止めしようとしていた様で……」
セバスチャンが尋問した所によると、バルテレミー帝国に内通者がおり、その者に帝国で問題を起こす事でレアを足止めせよと言う指令が出ていたらしい。
「ああ、なるほど。あの稚拙な皇子暗殺計画はそれが理由だったのね。帝国に到着早々のk師襲撃もそれかしら?」
「皇子暗殺!?」
エルフ王は顔を青くした。王国のみならず、帝国にまでその様な被害を出していたら、エルフの里は滅びてしまう。滅ぼされても文句は言えない。
「大丈夫。未遂で終わったわ。しかもあっちの皇帝はケンさんだったわ。どうやら私と同じように復活したようね。まあ、あっちは転生だけど」
「なんと!ケン殿が!」
「しかも、水の国ではアンリが転生してたわ。これで外交は解決しそうね」
「アンリさんまで復活しているとは……創造神様の本気が伺えますね」
「まあ、あの時の魔王復活が事故みたいなものだったからね」
400年前の英雄がここまで復活していると、流石に外交はスムーズに行きそうだ。
「あとはエルフの里ですね。で、どうなったの?」
「エルフ騎士団の第1部隊を、今回のお詫びという形で師匠の私兵として提供するということになりました」
「あらあら、それはまた豪華ね」
「王国騎士団と比べると弛んでいるので、再教育に苦労しそうですがね。で、元老院の元帥以下5名にお灸を据える目的もあり、訓練場で扱いてます」
「ああ、『狂犬のアニエス』復活ってわけね」
「そ、そこまででは、ない、と、思います……」
「アニエス嬢、それは無理がありますよ。諦めて認めましょう」
「セバスチャン!」
流石に無理がある。何しろアレを『狂犬』と呼ばずしてどうすると言う状態なのだから。
「まあ良いわ。元帥達はアニエスに任せる。エルフ騎士団もね。で、私はこの後また帝国に戻って第1皇子を連れて飛行船で戻ってくるわ。その間にエルフの里との交渉を粗方しておいて貰えると助かるわ。陛下にエルフの里との外交担当にアニエスを推薦しておくわね」
「かしこまりました、師匠」
「セバスチャンは王国騎士団の面倒をお願い。まあ、彼らはそんなに面倒な事を起こす人達じゃないから大丈夫でしょうけど」
「かしこまりました」
レアはそれだけ指示してエルフ王に一礼すると、談話室を出ていった。セバスチャンも見送りのために出ていく。
「相変わらず忙しいのだな、レア嬢も」
「まあ、師匠ですからね」
なまじ飛行船を使わなくても移動できるレアだ。何かあれば緊急で戻ってこられるだけに、こういうとんぼ返りも400年前にはよくあった。
「では、アニエス。私は一度、里に戻る。今度こそ王としての威厳を保とうと思う」
「当たり前です。……昔の様な格好良いエルフ王に戻ってくださいね」
「……!あ、ああ!勿論だ!」
『格好良いエルフ王』と言われて俄然やる気になったエルフ王。チョロい。
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