表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
賢者レアの復活  作者: huwanyan
38/68

狂犬アニエス

次の日、昼前にエルフ王と元老院が到着した。エルフと言われてまずイメージするエルフのイメージとはかけ離れた元帥の姿に側で警護するアルバンは眉根を寄せた。背は高いがでっぷりとした梨体型。額からは止め処なく吹き出す汗をひたすら拭いている。その他の元老院の一同はすらっと背の高いいかにもエルフといった印象だ。


「アニエス様、ご無沙汰いたしております。お元気そうで何よりです」

「ええ、久しぶりね、相変わらずで安心したわ」


元老院を代表して元帥が挨拶をする。レアの屋敷は『空調』の付与をされているため室温は一定になっているはずだ。にもかかわらず、アニエスと元老院の面々との間には極寒の風が吹き荒れている。そもそもエルフ王の王家と元老院とは昔から相容れない関係だ。王によって元老院との関係は変わるが、現在のエルフ王は元老院と協力してエルフの里を守っていこうというタイプ。優しいのは事実だが、若干リーダーシップに欠ける。そこを支えていたのがアニエスだった。もうお分かりだろう。そう、元老院とアニエスは水と油。正に犬猿の仲なのだ。

食堂に向かうと、セバスチャンが紅茶を出す。元帥はセバスチャンをチラッと見て、そしてフンッと鼻で笑う。


「魔族を従えて強くなった気でいるのか、賢者殿は?」

「実際問題、ご主人様は私なんかよりも遥かにお強い方ですからね」


セバスチャンはふっと笑って答える。セバスチャンはレアがイベントで魔族の討伐戦を行い、その報酬として捕虜となったセバスチャンを執事として向かえたのだ。ちなみにセバスチャンと直接戦ったのもレアだ。


「それはお前が弱いだけだろう」

「そうですね」

「私達にかかれば小指で勝てるな!」

「そうだ!にもかかわらず私達を不躾にも呼び出して、何様のつもりだ!」

「……黙れよ、老害」


地を這う様な低い低い声が食堂に響く。そして充満する殺気。元老院の面々はハッとしてアニエスの方を向く。アニエスはドス黒いオーラを背負っていた。下手に近づいたら斬り殺されそうだ。


「お前らを呼んだのはアタシだ。師匠ではない」

「あ……」

「てめーらは誰に呼ばれたのかも分からない程に耄碌しちまったのか?」

「い、いや……そんな訳では……」

「大体、てめーらが余計なことして国交を断絶したから、エルフの民が拐かされて救出もできないハメになったんだろ?そうだよな?元帥」


アニエスに言われて元帥はビクッとする。


「お前の孫も拐かされたんだよな?そして現在も行方不明だ。お前が父上の意向を無視して国交を断絶したせいで、お前の孫娘は今でも苦しんでいるかも知れねぇんだぞ?分かってるのか?あ?」

「そ、そう言われましても……」

「大体、お前らができなかったアタシの救出を、師匠が復活した直後に1日で成し遂げた時点で、その力量の差は歴然としているんじゃないか?まあ、そもそもアタシを救助する気なんて更々なかっただろうけどなぁ。お前らがアタシを生贄にして吸っていた甘い蜜はさぞかし美味かったんだろうなぁ?」


エルフの里との国交を担当していたのはアニエスだった。そのアニエスを救助する事はエルフの里としては急務だったはずだ。にも関わらずアニエスを救出せずに国交を断絶した。その理由は単純にアニエスが邪魔だったから。


「お前らにとって人間は目の上のタンコブだった。元々、拐かされやすいエルフの民を守るために王国と国交を樹立し、父上は王国貴族として爵位を賜っていた。お前達にとってはそれが王国に屈した様に感じていたのだろう。それを推進した師匠の事も、弟子であるアタシの事も邪魔で仕方がなかったんだよなぁ?アタシを捨てれば国交は断絶する。王国の下につく事はない。エルフの方が人間よりも上だ。そう思ってアタシを見捨てたんだよなぁ?」


元帥は何も言えない。それはそうだろう。何しろその通りなのだから。元帥は気に入らなかった。人間の治める王国の支配下に収まる事が。当時の国王は『エルフの里は独立した国家だ』と宣言していたとはいえ、そんなものは詭弁だ。本当はエルフの里を植民地にしようと思っているのだ、と思っていたのだ。


「とりあえず、お前らは全員師匠が戻るまで待機。訓練場から出るの禁止。丸一日かけて地獄の基礎訓練100周じゃゴルァ!」

「ヒッ!?」


元帥達は忘れていた。アニエスがかつて『狂犬のアニエス』と呼ばれていたのを。エルフにとって400年という歳月は一瞬だ。しかし彼女の恐ろしさを忘却の彼方に追いやってしまうには十分な期間だった。

アニエスに拘束され訓練場に連れて行かれた。首にはアニエスが城で装着させられていた首輪も付けている。


「その弛んだ身体を一から鍛え直してやるよ!特別訓練だ!魔法が使えない様にしてやったから自力で基礎訓練しろ!回復魔法なんて甘えたこと出来ねぇぞ!おい、お前ら!見本見せてやれ!引きずってでも一緒にやらせろ!」

「「「は、はいぃぃ!!」」」


一度も見たことのない『狂犬のアニエス』。その迫力に、王国騎士団は思わず全員元帥達を引っ張って基礎訓練を始めた。元帥達は階段を駆け上がって行った。……元帥だけは駆け上がれず這い蹲ってよじ登っていたが。


「相変わらずですね、アニエス嬢」

「ふんっ」

「お父上はどうなさりますか?」

「今後の王国との交渉次第、かな。どうせ、元老院は解散するよな?」

「ハイ……」


エルフ王は半泣きで答える。娘との感動の再会が遠い。


「はぁ……父上」


アニエスはそう言って両手を広げる。


「アニエス……」

「お久しぶりです」

「!あ、ああ!久しぶり!」


エルフ王は嬉しそうにアニエスを抱き締める。何とも情けない父親だが、これでもエルフの王で長きに渡りエルフの里を治めてきている。その苦労はアニエスもよくわかっている。


「アニエス……アニエス……」

「ほらほら、泣かないで下さい」


ハンカチを取り出して涙を拭いてあげるアニエス。なんだかんだ言って父親に甘い娘である。アルバンはホッとした。さっきから落ち込むエルフ王を必死で慰めていたのだ。


「とにかく、お昼を済ませてお城に向かいましょう。陛下が会いたがってますから」

「そうなのか?」

「はい。私に対する一連の騒動の謝罪と国交の再開をしたいそうです」

「そうか……!」


国交が再開すれば、王国に散らばっているであろう拐かされたエルフ達の救出もできる。王として同氏達が苦しい思いをしているのを黙って見ている事しかできないのは心苦しかった。果たしてどれくらいの者達が無事なのだろうか。

すると、外で物凄い轟音が響いた。慌てて外に出ると、城から煙が昇っていた。


「この気配はエルフ達ですね」

「まさか騎士達が……!」

「なっ!待機していろと言ったはずだぞ!」


エルフ王が騎士を帯同しないで来るわけがない。これは騎士の単独暴走か……


「……すぐに向かいます。セバスチャンはここをお願い。アルバン!騎士達!行くわよ!」

「はい!」


城では王国騎士とエルフ騎士が攻防を繰り広げていた。


「陛下を!陛下をお守りしろぉ!」

「アルバン!陛下を!」

「はい!」

「アニエス!?」


まさかアニエスが王国騎士を連れて来るとは思わなかったのだろう。エルフ騎士は驚いていた。


「邪魔だ。退けろ」


アニエスはそう言って剣を振り下ろす。エルフ騎士達は次々に切り倒されていく。アニエスの剣はアルバンの剣に引けを取らない大剣だ。それを片手で振り回している。刀身の長いこの大剣なら、一振で3人は切り伏せられる。しかも魔石が刀身に混ぜ込まれているため、魔法も同時に発動する。室内であることを考慮しているのか、風魔法を使っている様だ。

陛下は地下に避難していた。城に攻撃が及んだ時に国王一家を避難させる場所だ。会議室と寝室が併設されている。


「陛下!」

「おお!アルバン!一体何事なのだ!?」

「エルフ騎士が襲撃してきました!」

「何故だ!アニエス嬢はレア殿の屋敷に!」

「おそらく元老院の仕業です」


後ろからアニエスが歩いてくる。剣についた返り血を振って落とすその姿は、いつもの穏やかな姿ではない。陛下は唖然としている。


「これがレア殿が言っていた『野性味のあるアニエス』か……」

「これでも抑えている方なのですが……」


アニエスは困ったように言う。口調が荒れていないだけマシである。


「で?元老院が関わっているのか?」

「元々、元老院は保守派です。加えて現在の元帥は老害もいい所です」

「老害」

「私を救出せずに国交を断絶させたのも元老院ですし、奴らはそもそも王国との国交が気に入らなかった節があります。私を生贄にして吸っていた甘い蜜が相当美味しかったのでしょうね」

「……そうか」


言葉の端々に怒りが滲んでいる。陛下もクリストフもあえては突っ込まない。とばっちりはごめんである。


「騎士団長を捕縛しましたのでもう大丈夫ですよ。陛下とクリストフ王子だけ謁見の間に参りましょう。王妃様と王子、王女はもう少しこちらにお願いします。上が多少荒れていますので、片付いてから上がっていただきます」

「うむ。そうしよう」


謁見の間には捕縛されたエルフ騎士が集められている。


「で、誰の指示でこのような事を?」

「……」

「そなた達の独断でやったとは思えん。もしそうなら目的はアニエス嬢の救助であろうが、アニエス嬢は城を出て賢者レア殿の屋敷にいるからな。それは知っていたであろう?」

「……」


陛下の問いに騎士団長はだんまりを決め込んでいる。これでは埒が明かない。


「……陛下、よろしいですか?」

「アニエス后……頼んでも良いか?」

「はい」


アニエスは困り顔の陛下からバトンを受け取った。


「おい、お前らは誰に仕えている?」


あまりに重たい殺気に騎士団長は目を丸くし、そしてガクガクと震える。


「腐ってもエルフ騎士団だ。お前はエルフ王に仕えているのではないのか?」

「あ……」

「もう一度聞く。お前らは誰に仕えている?」

「……」


騎士団長は言葉を失っていた。それは王国側も同じだ。大人しく、可憐な花の様な薄幸の后アニエス。その裏の顔がここまで恐ろしいとは思わなかった。まあ、どちらかと言うとこちらの方が本性なのだが。唯一、アルバン達だけは苦笑いをしていた。


「……今回の指示は元老院の元帥だな?」

「……はい」

「元帥になんて指示された?」

「……バルバストル王国国王を討ち取れ、と」

「それはエルフ王の本意か?」

「い、いえ……元老院の……」

「元帥の望みだな」

「は、い……」


エルフ王はアニエスがレアに助け出されたと聞いてからすぐに会いに行こうとした。しかし元老院は許さなかった。国交を断絶している以上、そんな簡単に会いに行くのは元老院のプライドが許さなかったのだ。しかも最近は拐かされたエルフについて、国交の断絶を強行した元老院への風当たりも強かった。そこで元帥は賢者レアが帝国に向かうということを知り、帝国側にいる手下に賢者の足止めをさせている間にバルバストル国王を討ち取ってしまおうと画策したそうだ。そうすれば、帝国に王国領を統治させ、エルフの救助をさせる事もできる。……そんな簡単にできるわけがないのだが。何しろ現在の皇帝が『アレ』だし、賢者たるレアとも旧知の仲なのだから。


「エルフ王は『待機していろ』と指示していたよな?」

「……」

「お前は偉大なエルフ王の指示より、元帥の指示を優先したんだな?エルフ王の命令より元老院の命令の方が大事だったんだな?」

「……」


次の瞬間、エルフ騎士団長の首は宙を舞い床に転がった。全員呆然としている。


「偉大なエルフ王の指示に従わない騎士団長など、極刑即日執行以外にありえない。エルフの里の誇り高き騎士団を束ねるはずの騎士団長がこれではな。……国王陛下、お目汚しを失礼いたしました」

「お、おお……」


エルフ騎士団以外は知らなかった。アニエスはエルフの里にいた頃は騎士団長をしていた。エルフ騎士団はエルフ王の誇りを守るためにある。その矜恃を決して忘れてはいない。


「エルフ騎士団は騎士団長の指示を無視する訳にはいきません。騎士団長は王の指示さえ無視しましたが……それでも、エルフ騎士団だけは許してやってくれませんか?彼らの教育は私が責任を持って行います」

「……うむ。こちらもアニエス后に失礼を働いた過去がある。これで取引とさせてもらいたい」

「かしこまりました。エルフ王には私から話をしておきます」

「頼む」


陛下の合図でエルフ騎士団の拘束は解かれた。アニエスは騎士団の前に立つ。


「では、エルフ騎士団。緊急事態により、騎士団長代理は前騎士団長である私が務める。異議のある者はいるか?」


誰も何も言わない。当たり前だろうが。


「……反対はなし。私、アニエス・フォン・バルバストルがエルフ騎士団騎士団長代理を務めるものとする。総員、賢者レア様の屋敷に向かい、エルフ王に報告をしに行く」

「「「はっ!」」」


エルフ騎士団は謁見の間を辞した。アニエスも陛下に敬礼をして部屋を出た。

少しの間の沈黙。そしてクリストフが口を開いた。


「本当に、過去の過ちを繰り返さない様にしないといけませんね」

「うむ。あの騎士団長を敵には回したくないからな」


『狂犬のアニエス』が率いるエルフ騎士団など、王国の滅亡以外に道がない。問答無用に切り捨てられた元エルフ騎士団長の亡骸に視線を落とし、陛下は改めて賢者レアの実力を再確認したのだった。


予約投稿です。いいね、コメント、誤字脱字報告などありましたらお願いします。いいね・コメントは作者が喜びます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ