エルフ王
レア達が帝国に向かって1週間。丁度帝国に到着する頃だろうか。アニエスはレアから指示された魔導具を作っている。基本的に生産職の方が向いているアニエスはよくレアの設計した魔導具を生産しているセバスチャンは屋敷の掃除、パルナぺは事務処理をしている。
アルバン達はウジェーヌ騎士団長達と基礎訓練に向かっている。陛下と相談した結果、王国騎士団もオクレール公爵家の騎士団の様に特訓をする事になったのだ。腐っても王国騎士団だ。地獄の強化合宿とは言え、騎士団はその地獄っぷりを舐めていた。何しろ師匠は『王国騎士団だもの。30周は余裕よね?』とおっしゃっていた。その時のオクレール騎士団の引きつった顔と言ったらなかった。彼らとて20周で必死だったのだ。30周なんてペース配分したって地獄だ。まあ、正直それだけならまだ良い。問題はその後に戦闘訓練がある。その時にはレアの位置にアニエスが付き戦闘を行う。
「さて、今日は何人が使い物にならなくなるかしらね〜」
師匠が帝国に向かってから1日に10人は基礎訓練で倒れている。人によってキャパもあるため無理はさせない。再起不能は困る。
「失礼します。アニエス嬢。そろそろ基礎訓練が終わります」
「そう。今日は何人?」
「3人です」
「あら、減ったわね」
「1週間やっていれば、流石に馴れたのでしょうね」
馴れても地獄に変わりはないが、ペース配分は上手くなった様だ。アニエスは作業部屋から出て訓練場に向かう。死屍累々の騎士達をアルバン達は世話している。
「あ、アニエス様」
「お疲れ様。終わった人からお風呂に入って準備してね。戦闘訓練に向かうから」
「アニエス様も鬼だな……」
「まあ、城での扱いを考えるとねぇ……」
「ああ、それがあったか……」
アニエスが城で過ごしていた頃、彼女の扱いが悪かったのは王族や使用人だけではない。紳士である事を望まれている騎士達も同じだった。まあ、部屋から出る事を許されていなかったアニエスに騎士が何をできるのかという話もあるが。それはアニエスも分かってはいるが、それとこれとは別の話。だからといって全て水に流せる程、アニエスも大人ではない。レアも『大事な一番弟子をコケにした仕返し』とばかりに、あえて25周ではなく30周にした程度には怒っているのだ。
森の中にある『小屋』では戦闘訓練が行われる。薬師であるエンゾも訓練がてらポーションを作っている。魔王討伐以来、妙な魔獣は現れなくなった。地下の研究所で捕獲している魔獣達は相変わらずの繁殖力だが、あの様な魔獣はもう『賢者の森』には現れない。生態系も400年前の状態に戻っている。
あれらは数体の変異させたモンスターや魔獣を解き放って大繁殖させたのだそうだ。ジョクス公爵家の屋敷を捜査したところ、研究資料が出てきたのだ。400年以上前の研究資料と共に。どこであんなものを手に入れたのかは知らないが、ジョクス伯爵家時代からあの家は裏社会の重鎮だった。持っていても可笑しくはない。相変わらずの繁殖力とはいえ、少しだけ繁殖力が落ちた気がするというのは監視していた精霊達の意見だ。やはり魔王の影響だったのだろうか。この小屋は魔王の影響を受けない場所のはずなのだが……
『アニエス〜!お客様〜!』
「ん。どなた?」
『エルフ王だよ〜!』
アニエスの表情が固まった。そしてとんでもない殺気が溢れる。
『アニエス!殺気!殺気!』
『すっごい怖いよ〜!?』
「ああ、ごめんね。つい……」
アニエスは殺気を引っ込める。エルフ王。つまりアニエスの父親だ。上級精霊が玄関を開ける。そこにはあまりに美しい男が立っていた。黄金の髪は腰まで伸び、端正な顔立ちはアニエスの面影を持っている。そんなエルフ王はアニエスを見て破顔した。それはもうデレデレだ。
「おお!我が愛しの娘よ!」
「今、訓練中」
アニエスの素っ気ない受け答えにエルフ王はピキッと固まった。アルバン達は『あ〜あ……』と言った感じ。まあ、そんな態度になる理由も理解できるが。
「ほらほら。こっちに抜けてきてるわよ〜」
「うぉっ!」
「悪い!」
「大丈夫だ!」
騎士達は戦闘に必死でエルフ王の事に気が付いていない。ウジェーヌは流石に騎士団長だけあって気が付いてはいたが、アニエスの反応を見て察して戦闘に集中している。
「そ、そんな……!父との感動的な再会よりも訓練の方が大切だというのか!?」
「そうね。何百年も『愛しの娘』を救出しなかった父親との再会よりも、復活直後に王城に突っ込んで私を救出してくださった師匠から任された任務を遂行するのが優先ね」
別に父を嫌っているわけではない。早い話が拗ねているのだ。いくら国同士の繊細な話があったとはいえ、国交を断絶する前に救助してくれるべきではなかったのか。
「どうせ王国に良い顔をしていなかった元老院が煩くて救出できなかったんでしょうけどね。それをどうにかするのが王の仕事でしょう?煩い老害を黙らせるために私を生贄にして、さぞかし平和な生活を送っていたのでしょうね?」
「アニエス……」
「もしどうにかしたいのだったら、元老院の連中をアタシの所に派遣しな。言い訳だけは聞いてやるよ。許すかどうかは別だけどな」
エルフ王の顔色が悪くなる。ここにいる誰もが知らないアニエスの素の姿。昔は『狂犬のアニエス』と恐れられた程にヤンチャだった。それを見たレアが『面白い子だわ』と言って2人で O☆HA☆NA☆SHI した結果、師弟関係を築いたのだ。男の様にして育ったアニエスに『素を隠した方が破壊力は増すわよ』というレアの指導で普段のアニエスが生まれた訳である。
エルフ王は膝から崩れ落ち、唖然としてアニエスを見ている。そしてフラフラと立ち上がると静かに出て行った。いつの世も娘に冷たくされたらダメージがデカいのだ。
「はい、お疲れ様ー。10分休憩してー」
『アニエス、怒ってる〜』
『アニエス、怖いね〜』
『エルフ王、アニエスを怒らせたら怖いの知ってるのにね〜』
精霊達もアニエスの本性は知っている。それだけに『アニエスを怒らせたエルフ王が悪い!』と満場一致である。
「ウジェーヌさん」
「はい、アニエス様」
「今日、戦闘訓練が終わったら城に報告しに行くでしょう?その時に陛下に『エルフ王がきた』と報告しておいてください。恐らく、何かしら行動は起こすでしょうから」
「かしこまりました」
元老院を敵に回すとエルフの里を統治できなくなる。しかしエルフ王の方が権力は上なのだ。なんだかんだ言って強い意志を持って対応したら元老院だって聞かないわけにはいかない。国交を回復するのなら陛下の耳にも入れておいた方が良い。
恐らくだが、エルフの里も困っているのだろう。ここ最近のエルフは拐かされている者が多いと聞く。レアが調べただけで数万人にも及ぶ。その多くはロクでもない貴族の愛玩用として、またその類稀なる魔力量と魔法技術を利用してポーションや魔獣討伐に利用している。国交が断絶している王国に逃げられては救出にも向かえず、その原因を作った元老院の風当たりは強いのだろう。
「お帰りなさいませ、アニエス嬢。エルフの里から親書が届きました」
「早いわね」
「『転送』の魔導具が起動したのも400年ぶりですね」
「ああ、そう言えばそんなものがあったわね」
エルフ王とレアが連絡をとるために作った魔導具『転送』。まあ、ファックスの様なものだ。封書ごと届くが。
赤い蝋で封をしてある封筒。それは元老院からだ。
「……相変わらず上から目線の文章ね。いっそ清々しいわ」
「元老院は王より自分達が上だと思い込んでいる節がありますからね」
「明日にでもいらっしゃるって。こっちの予定も聞かずに、全く……」
「準備いたします」
「ごめんなさいね、セバスチャン」
「これも仕事ですから」
明日も訓練があるが、アルバン達に任せよう。多分問題はない。
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