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賢者レアの復活  作者: huwanyan
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賢者復活

目を覚ますと、私は森の中で寝ていた。


「あれ?」


周囲を見ると、森の中の開けた場所の真ん中にいる。ここって魔王を倒した場所だよね?家に戻れないのかな?正式なアップデートなら知っているはずだから、定期的なメンテナンスで行われるマイナーアップデートかな?

とりあえずアイテムを見てみよう。マジックバックの中身を確認する。


「お、ちゃんと『魔王の塊』がある!よっしゃ!」


そう、レアアイテムとはこれの事だ。魔王からしか手に入らない魔石『魔王の塊』。『原初の魔王』の魔石よりは少し小さい気もするけど、でも魔道飛行船を作るには十分だ!


「……うん?創造神からの手紙?」


こんなのあったっけ?あ、魔王戦の報酬か何かかな?マジックバックから取り出して読んでみる。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

拝啓レア(日暮 朱音)様


まずは謝罪をする。本当に申し訳なかった。


君達の世界で君がプレイしていたゲームは、実は私と地球の神が共同で私の世界をモチーフに作った世界だった。よく分からないかもしれないが、箱の中に作った世界(地球ではメタバースと呼ばれていた空間だと思ってくれて良い)にゲームへのログインと称して君達の魂が一時的に自由に出入りしていたと思ってくれていい。地球の神からしたら、永遠の時間を過ごす者としての所謂『暇をも手余した神々の戯れ』だ。しかし私としては少々事情が違う。

私の世界ヴァランティーヌは技術の衰退が激しくてな。何とか復活させようにも知識が乏しくどうしようもなかったのだ。そこで過去のヴァランティーヌを使って地球でゲームを作成し、そのうちに上位のプレイヤーにこちらに来てもらって技術の復活をと思っていた。

しかし、予期せぬ事が起きた。突然ゲーム世界が暴走したのだ。原因は魔王だ。まさか魔王が他の世界にまで影響を及ぼせるまでに回復しているとは思っていなかった。

そのせいで予定にない魔王イベントが起きてしまい、寄りにもよって君が巻き込まれてしまった。すぐに王国軍を向かわせたが、時すでに遅し。魔王は倒されたものの、君を巻き込んで死んでしまった。しかも、現実世界の君達数名のプレイヤーも巻き込んでな。

本来魔王は、君達にゲームをリリースした後に起きたイベントで倒してもらって以来、本当の意味で復活はしていなかった。そもそもあのイベントは、突然現れてしまった魔王を討伐してもらうために打って出た作戦だったのだ。

あの時に参加してくれたプレイヤー達が『鬼畜だ!』と言いながら嬉々として討伐に参加しているのを見てな。その後も『原初の魔王』が復活しない様に定期的にイベントとして魔王を倒して貰う事で、魔王のエネルギーが溜まらない様にしていたのだ。魔王を倒した後の魔石も、初期の魔王は『魔王の塊』だったのが、そのあとは『魔王の欠片』になっていたと思う。君が戦った魔王は初期の魔王に近い魔王だった。つまりあの時程ではないが、今回の魔石も『魔王の塊』だ。


何故あそこまで急速に復活したのかは未だもって謎だが、結果として現実世界の君を巻き込み死なせてしまったのは事実だ。お詫びも兼ねて、当初の予定とは違うが君をこの世界で復活させることとした。

今君がいるのは、魔王戦から400年後。君は魔王とたった1人で戦い、相打ちで魔王を倒した英雄として伝説となっている。そして今、この世界には異変が起きている。地上での異変故に私が積極的に介入すれば、その皺寄せによって世界を崩壊させる可能性がある。

君の家はそのままになっているし、執事君もいるし弟子もいる。諸問題はあろうが、君なら技術や知識の復活も叶うだろう。


こんな事になってしまい、本当に申し訳なく思う。どうか、この世界を助けてくれ。


創造神より

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「……転生?って事?」


つまり、私がプレイしていたゲームは、実は実在する異世界をモチーフに神達が作成してたって事?そしていつかプレイヤーが死んだ時にこっちに呼んで技術を伝えてもらおうとしたと。そして何らかのバグで魔王戦が始まってしまい、それに巻き込まれた私は現実諸共死んでしまったと。しかも魔王は一番最初の魔王に近い強さだったと。

道理でリアルだと思ったわ。冷静に考えたらゲームにしては柔軟性も自由度も高すぎた。というか、今の私に五感がある事に今気がついた。

確かにゲームがリリースされて半年後に始まった魔王イベント、リリースしてすぐにもかかわらず鬼畜難易度と言われてたもんなぁ。あの時は確か、複数のパーティ合同で討伐したんだっけ。そしてドロップした『魔王の塊』で魔導飛行船を作って王国に寄贈したんだよね。その見返りに結構な武具をいただいた記憶がある。

……つまり、それが全てこの世界で現実になっているって事か。国王も運営じゃなく、ちゃんと国王だって事だよね。


「……つまり、この世界で私は『そして伝説になった』って事?」


これ、色々問題が起きそうなんだけど、私が本人だって言っちゃっていいのかな?私、嘘が苦手なのよね。


「……いいよね!」


だって本人だもん!下手に誤魔化すよりは良いよね!

早速今の自分を確認しよう。体にはあまり違和感がない。小柄で幼児体型。髪は黒いロングをポニーテールにしている。ゲーム内のキャラは自分の姿をスキャンして作っていたので、私と同じ様な感じだ。という事は「転生」と言うより「転移」なのかもしれない。身体が変わっていないのはありがたい。ただでさえ今までバーチャルだったものがリアルになるのだ。それに慣れるだけで手一杯になるだろう。防具なども私が作ったものだ。壊れている箇所もなさそう。確か魔王戦の時に少し壊れた箇所があった気がする。もしかしたら創造神が修理してくれたのかもしれない。これもありがたい。

……ん。異常な魔力を感じるね。この量だと街に流れたらまずいかな?どのくらい戦えるかも確かめたいし行ってみよう。


魔力を感じる方に向かうと、冒険者達が戦っていた。


「へぇ。練度はまずまずね」


剣士が2人、魔法使いが1人、支援魔術師が1人、回復魔導師が1人か。バランスも良い。

剣士の男が大剣でバッサバッサとモンスターを倒し、女性の剣士と男の魔法使いがそれを補助。状況に応じて前衛は交代。支援魔術師が補助技を展開し、怪我人が出たら回復魔道士が癒す。

熟練度はかなりあるが、中堅といった所か。鍛えたら強くなりそうだ。その割に魔法使いが全員杖を使っているのが気になる。魔法の杖なんて見習いが使うものだ。まあ魔王は使っていたが、あれだって素材はただの木ではなかった。練度が上がれば木の杖では耐久が弱く、魔金属の指輪かアンクルを使う様になるのだ。大体、『魔導具術師』でなければ魔導具なんて使わなくても良くなる。まあ、道具があれば魔力を節約できるから装備する人は多かったが。

しかも詠唱している。前世でイメージされる『詠唱』と言うのは良く言って『詩的』、悪く言って『厨二病』な部分と技の名前を叫ぶ、この世界で言う『二重詠唱』だ。この世界において詠唱は『過程詠唱』と『現象詠唱』の二つに分かれている。『過程詠唱』とは、いわゆる詩的な部分。魔法に慣れていない見習いが威力を補完するためにするもので、それによって自分の中で使う魔法のイメージを構成していくのが『過程詠唱』の役割だ。そして『現象詠唱』とは魔法の技名を言う事だ。技の威力を補完できる事もありベテランの魔法使いでもやっている者も多い詠唱で私もやっている事はある。彼らがやっているのは二重詠唱。『過程詠唱』もやっているのだ。これだけの練度を持っている魔法使いなら『現象詠唱』だけで良いだろうに。

そして、それよりももっと問題なのは数が多すぎる事だ。これはスタンピードの数だ。それに5人で挑んでいる状態。無謀にも程がある、と魔王戦に1人で挑んだ自分を棚に上げて思う。


「クソッ!撤退出来そうか!?」

「ダメだ!そこまで魔力がない!」

「マズイよ!これは……!」


魔法使い達の魔力は限界の様だ。しょうがない。助けますか。


「下がって!」


そう言って剣を振るう。風魔法を纏わせ、押し寄せるモンスターを切り刻んでいく。


「【シャドーバースト】!」


闇魔法で爆発を起こす。爆発によって大半の魔獣が粉々。残りは剣で切り刻むだけの簡単なお仕事だった。いや、魔法の威力が強過ぎた。ゲームと違って五感があるから注意しないとダメだな。今の攻撃も爆風が結構来た。少し離れた所から攻撃してよかった。ゲームでは地形が変わる事はなかったけど、今回はしっかり爆発で地面がえぐれている。自重しないと災害を起こしちゃうね。素材も回収できないし。


「大丈夫?」


一応警告はしたけど、あの威力では巻き込んでいても納得できる。そう思って聞くと、大剣の男が歩み寄ってくる。


「助かった。ありがとう。俺はアルバン。お前は?」

「私はレア。無事で良かったわ」

「ほぉ、伝説の賢者と同じ名前か!」


流石に本人とは思わないか。400年経ってるんだもんね。

挨拶もそこそこに、素材は魔法で解体する。【解体】を付与してあるナイフを向けると簡単に解体出来る。そしてマジックバックに魔力を通して入れたい物に手を翳すと入っていく。その辺はゲームと変わらないな。


「変わったナイフだな。翳すだけで解体できるナイフとか、国宝級だぞ?古代魔導具か?」

「そうね。400年前のものよ」

「羨ましいわ!そんな貴重なものが手に入ったなんて!」

「400年前というと、有名な賢者様がご活躍だった時代だな。あの頃は王国の黄金期と言われているからな。魔導具の性能も今とは比べ物にならない」

「一生貴族並みの生活が出来る値段だな。冒険者が出土品を狙うってもんだよな」

「1個掘り当てただけで人生勝ち組だものね」


なるほど。創造神様が嘆く訳である。こんな魔導具は400年前なら見習いでも作れた代物だ。これは色々と話を聞く必要がありそうだな。


「怪我が酷いわね。家に着いたら手当してあげる。あと、魔力と体力を回復しないとね」


素材を採取しマジックバックに収納してから言う。動けない程ではないが、こう言う傷から感染症を起こすとこの世界では危険だ。医療技術がどこまであるかは分からないが、抗生物質なんてないだろうからね。敗血症なんか起こしたら大変だ。


「助かるよ。何しろ薬ももうなくてね」


剣士の女が言う。


「アタシはクロエだよ」

「俺はデジレ。魔法使いだ」

「回復魔導師のドロテよ」

「支援魔導師のアルセーヌだ」

「よろしく。付いてきて」


ちなみにマジックバックが魔王報酬などで一杯になったから、荷物を運んでくれるという諸般の事情もある。


「近いのか?」

「ええ。すぐよ」


位置的には森の最深部にある小屋の近くだ。歩けば10分程か。本来ならば城門を潜って屋敷に行くのだが、私が生きていたのは400年前だし、状況的に大騒ぎになってしまうのが目に見えている。森の奥にある小屋から地下を使って帰る方が遠回りだが結果的には早い。まあ、そんな道を作っても家に帰るのに400年もかかっている人間がここにいるんだけどね。

道中アルバン達の話しを聞くと、彼らは王国指定冒険者だそうだ。つまりお抱えの冒険者で、王国内でモンスターの異常発生スタンピードなどが起きた時に召集される冒険者だ。今日も、国からの勅命で討伐に来ていたらしい。確かに道中でも異常なほど魔獣が現れた。しかもこの森では現れないはずの魔獣までいる。生態系が変わったのか?400年も経てばそんなもんかな?

小屋は森の深淵にひっそりと立っていた。丁度中央にポツンと立つ木は小屋を飲み込む形で立っている。


「こんな所に小屋があるなんて知らなかったわ」

「と言うか、ここって森の中心部に近いんじゃないか?」

「近いと言うより完全に中央よ」

「……この森の中央は遥か昔、賢者様が精霊王様から頂いた屋敷があると言う話だったが」

「その屋敷がこれよ」


私は平然と言ってドアを開けた。筒状のホールには小さな光が飛び回っている。壁面には渡り廊下が何段にも分かれていて、各階にいくつものドアがある。

小さな光はレアの周囲に集まり、次々と精霊が姿を表す。


『レア!』

『レアが帰ってきたよ!』

『レアが生きてる!』

『レア〜!!』

「はいはい、ただいま。元気にしてた?」


この子達は精霊王がこの小屋もといツリーハウスを維持するために派遣してくださっている精霊だ。低級精霊は光にしか見えないのだが、中級精霊になるとこういう風に人型をとることができる様になる。そして上級精霊は人間と同じ大きさになれる。


「今はお客様もいるわ。一度屋敷に戻ってセバスチャンに話に行かないとね。今度ゆっくりと時間を取るからね」

『約束だよ!』

『いっぱいお話し聞かせてね!』

「分かったわ」


精霊達が目の前にドアを出す。潜ると地下通路に続く通路が伸びていた。岩肌には道を照らすために魔石灯が点っていく。5人の足音だけが響く。私の後をついて来る彼らは今起きている事が信じられず、どうしたら良いのか分からず無言になっている様だ。無理もない。

しばらくすると上り階段が現れ、そこを登り現れた扉を開けると目の前には広大な庭園が広がっていた。

私の家はゲームがリリースされてすぐに始めたプレイヤーに特典として配られた屋敷だ。だから、この世界では国から下賜されたと言う扱いになるのかな?1人で使うには広すぎるのだが、執事がいるから何とかなっていた。

ちなみに執事はイベントで手に入れた魔族で、ロマンスグレーのザ執事といった感じ。寿命的にはまだ生きているはずだ。

弟子だったアニエスもエルフの中でもハイエルフという長寿だ。城の中で生きているのだろう。彼女はエルフの里でも優秀な魔法使いで、私と同じ『魔導具術師』だったため弟子になる事となった。何しろ私の魔導具の技術を引き継ぐ者が必要だったから、エルフである事は都合も良かった。……プレイヤーじゃなかったんだな、あの子。


「え、ここって……」

「伝説の賢者様の……」


驚いてる驚いてる。百聞は一見にしかずだからね。話すより見た方が早いだろう。

屋敷のドアが自然に開く。中に入ると、そこには執事がいた。


「お帰りなさいませ、ご主人様。遅いお帰りでしたね」

「ただいま、セバスチャン。400年も空けててごめんなさいね。はいこれ。大雑把に説明されてるわ」


そりゃあ400年も不在だったら『遅いお帰り』だろう。それで済む辺り、流石は魔族である。刻の概念がぶっ壊れている。

ローブを脱がせてもらい、創造神からの手紙を渡す。このセバスチャンは信用できるからね。大体のことはお任せしてしまっている。


「拝見します。……なるほど」

「流石に魔王戦から復活するのに時間がかかったわ」


まあゲームの件は何処まで理解できたか分からないけど、少なくとも400年前の魔王戦で死んだ私がこの度復活した、という事は理解できるだろう。


「魔王単独勝利、並びに復活おめでとうございます。さすがは我が主です」

「相打ちだから、褒められないけどね」

「ご主人様でなければ倒す事さえ叶いませんでしょう」

「そうかもね。……お腹減ったわね。お客様の分もお願いね」

「かしこまりました。すぐに準備致します」

「あと、素材の査定をして利益の半分を彼らに支払って頂戴。私のマジックバックが満杯でね。預かってもらったのよ。本当はあげようと思ったんだけど……」


『他人が討伐したものまで貰えない。マジックバックに入らないなら家まで運んでやる』と言うものだから、じゃあ運搬してくれた報酬は払うという事にしたのだ。

ほぼ容量無限の私のマジックバックは魔王戦の報酬でパンク寸前だった。流石だよね。


「かしこまりました。【我が下僕たち】。査定を頼む」


セバスチャンの足元の影から人型が出てきた。執事としての固有スキル『下僕召喚』。早い話が、セバスチャンだけいればメイドなどを雇わなくても屋敷を維持できると言うわけだ。チート執事である。

その間に私は宝物庫に討伐報酬などを突っ込んでいく。相変わらず魔王の報酬は豪華だ。金貨、武器、防具、宝石類、ポーションの類。そうか。よく考えたらこれは魔王の持ち物だろうか。マジックバックに入っていた物が報酬としてばら撒かれたのかもしれない。そう考えた方が自然だな。

最後に『魔王の塊』を倉庫の真ん中に取り出す。圧巻の大きさだ。


「さすがは『魔王の塊』ね。確かに最初ほどではないけど。これでようやく魔導飛行船が作れるわ」

「すぐに制作に入りますか?」

「設計図は前に書いてあったわよね?」

「はい。私が保管してあります」

「すぐに制作に入って」

「かしこまりました」


どうしても魔石が手に入らなかったから実現しなかった魔導飛行船作り。やっと着手できそうだ。私が直接作るのは心臓部だけ。船そのものは人海戦術で頼む事にしている。と言うか、私一人で作っていたらいつ完成するか分からない。

すると、アルバン達が私に向かって最敬礼をする。


「まさか本物の賢者レア様だとは思わず、失礼致しました」

「ああ。別に構わないわよ。黙ってたのは私だし」


ああ、やっぱりこうなっちゃったか。なんかゲームでも私には最敬礼されてたから、そうなるだろうなとは思ってたけど。国王すら頭を下げてたからな。

私はセバスチャンに視線を向ける。


「食堂に案内してあげて。あと、魔導具を起動しておいて」

「はい」


私は寝室に向かう。流石に着替えたい。セバスチャンの分身が手伝ってくれる。別に一人でもできるのだが、ここは貴族である以上は必要な事もあるのだ。

防具を外し、室内着に着替える。『天女の羽衣』という価値の高い生地で作られた軽いドレスだ。素材は絹。モンスターの繭から作られているため防御力もあり、多少であればこれで戦う事も可能だ。これで戦闘を行なっている人もいたけど、流石に戦地向きではないと思う。見映えはいいけどね。戦場でこの服で戦えば文字通り『天女』が舞い降りた様な状況になる。見目麗しいご令嬢がやれば、まさに『マジ天使』状態である。

食堂では既に食事の準備が整っていた。アルバン達の傷も癒えていて、魔力も徐々に回復していた。この食堂は部屋ごと魔導具化してあり、食事をしながら魔力を回復し怪我の治療もできる様にしてあるのだ。


「おまたせしました」


アルバン達は立ち上がった。全員見惚れている。純白のワンピースからのぞく肌は透き通るほどに透明感があり、ポニーテールだった黒髪は下ろされて動きに合わせてなびく。本当に美しい。

手で座るように指示し席に着くと、すぐにセバスチャンがステーキを出してくれる。


「皆さんもどうぞ。……いただきます」


ナイフとフォークで肉を切り、豪快に食べる。うん!美味しい!五感があるって最高!グリル野菜も箸休め(ナイフとフォークだけど)にちょうど良い。マッシュポテトに恐らくほうれん草のバター焼きとパプリカだと思う。肉に良く合う。基本的に野菜は嫌いではないが、この付け合わせは本当に美味しい。

パクパクと口の中に放り込まれていく肉と野菜。皿が空になると、すぐにセバスチャンが新しいものを用意してくれる。セバスチャンが作る料理だが、本当に彼は完璧執事だ。執事・料理長・代官など、ほぼ全ての役割を完璧にこなしている。そりゃあセバスチャン以外はいらないと思われてしまうわけである。

アルバン達は呆気に取られていた。この小さな体の何処に入っているの?となったのは当然だろう。アルバンだって1皿で十分なのだ。それをこんな勢いで爆食していたら、そりゃあ驚く。


「初めての方は驚かれますよね。我が主は体力が多いため、かなりの量を食べないと回復しないのですよ」


セバスチャンが説明してくれる。

この世界で体力を回復するには料理が必要不可欠。高級な料理ほど回復量は多く、私は最高級のステーキをしかも大量に食べないと回復率が悪いのだ。ゲーム内では皿まで食べてしまうモーションだったため、プレーヤーからは『皿も食べないと回復しないんだ』『きっと皿は回復ポーションで顔料を溶いて絵付けをしてるんだ』と話題になった。

流石に皿までは食べないが、結局20皿のステーキを食べてようやく落ち着いた。マジで美味しかった。この世界で "美味く" 生きていけるという自信が付いた。


「ふぅ。さて、私がいない間にどれだけ情勢が変わったかしら?国王は当然代替わりしてるし、アニエスの様子も気になるわね」

「……その前にお客様ですね」


セバスチャンはそう言って食堂を出る。


「うーん……」

「どうされたのですか?」

「いや。どう考えても攻撃されてるし、攻撃してきているのは騎士団だからね。何があったのかと思って」


アルバン達は目を丸くした。


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