賢者不在の間、そして暗躍
アルバンは城に行き陛下に謁見していた。
「賢者様が小屋に篭った?」
「はい。その間の量産型魔王はオクレール辺境伯の私兵と私達で対応いたします」
「それは構わぬが、どうして急に?」
「詳しくはお話頂けませんでしたが、何やら魔王に対する秘策を考えている様です」
「ほぉ」
「それには時間もかかり、その間に王都に何かあれば大変です。そこでレア様が鍛えたオクレール辺境伯の私兵と私達、そして弟子達で不測の事態に対応しようと」
陛下は考えていた。正直言って賢者が不在なのは不安でしかない。しかし、彼女は自分達と同じ数十年しか生きていられない人族。そんな中でハイエルフと魔族、龍人族を弟子と配下に自分の技術や知識を継承しようとしてくださっている。これは彼らに対するテストの様なものなのではないか。いずれ自分が本当にいなくなった時に困らない様に。
であれば、今回国王である自分にこの話が伝えられた理由は……
「余と賢者軍の連携を取る練習、か」
「そういう事だとは思います」
アルバンはうなづく。自分がいつまでも表立って動いているわけにもいかない。賢者レアが復活するまでの400年の間、彼女にとって痛恨だったのは自分がいない間に王国との連携が取れなかった事だった。いくら当時の第一王子が愚かだったとはいえ、それは言い訳にならない。自分がいなくても王国と技術の継承を約束したあの時の事を守ろうとしている。ならば陛下の選択は一つしかないだろう。
「賢者様が留守の間も、賢者軍との連携を強固なものにして行こう」
「はっ!」
陛下はまずオクレール辺境伯を召喚した。そこで王都や王国の守りについて話し合い、私兵を持たない賢者伯爵のために軍を辺境伯家と王国騎士団から貸す事を正式に決定。そして貴族会議でその事を公表し、量産型魔王については賢者伯爵とオクレール辺境伯に直接情報提供し、討伐はアルバン達と軍に任せる事になった。
その間に必要になるポーションは全て賢者の弟子であるエンゾが生産する。エンゾはギルドと協力し、大量のポーションを生産し、その全てを魔王に対応する軍に提供する。その費用は王国が持つ。
勿論その間のモンスターや魔獣対応も忘れてはならない。流石に魔王対応はまだ早いという事でアドリエンヌ組とブリアック組はそちらの対応をし、前線の騎士や兵士達に資材を送る役割を担う事になっているパスカルとヤンはそもそも討伐さえ早いだろうという事もあり、駐屯地で支援対応。資材の整理や炊事を行う。その辺の護衛はカミーユとモーリスが行う。モーリスは前線にいた方が心強くもあるが、彼は温存しようという事になった。それこそドラゴンの様な災害級の魔獣が現れた時に手一杯では話にならない。
セバスチャンとアニエスは屋敷でお留守番だ。この2人は最終兵器だ。アニエスに至っては魔導具の提供も兼ねている。パルナぺは国王への報告業務に徹する。
「戦争前の様ですね」
「仕方があるまい。実際問題、魔王との戦争前だ」
「帝国の対応はどうしますか?」
「オクレール軍も全てを魔王対応に充てる訳ではない。だからこそ国からも軍を派遣するのだからな。今の所は動きもない様だが、警戒はしておくべきではあるからの」
「なるほど」
そう返事をしてスゥッと目を細めたのはリオネル・フォン・ジョクス宰相だ。宰相は陛下の執務室を辞して王太子エドモンの部屋に向かった。
「殿下、リオネルです」
「入れ」
部屋に入ると、そこは空いた酒の瓶だらけだった。そして側には愛妾もいる。宰相の長女だ。
「どうだ?」
「はい。帝国対応は一応考えている様ですが、魔王対応程ではない様です。少なくとも殿下の企みには気がついていない様です」
「そうか。そうだろうな。まさか俺が帝国と繋がって父上の首を狙っているとは思っていないだろうな」
エドモンはニヤニヤとし、そして憎しみの篭った表情になる。
「父上も歳を取ったものだ。賢者と名乗る怪しい女の言いなりになって国を陥落させようとしている。俺を王太子の座から降ろし、クリストフを王太子にしようとしている。愚かな話だ」
「全くその通りです」
宰相は微笑んでいる。
「エドモン殿下ほど国王に相応しいお方はいらっしゃいません」
「そうだろう!流石に私の息のかかった者をあの女の弟子にする事はできなかったが、まあ愚かな貴族共の子弟などに期待は期待しても無駄だしな。それよりも帝国に隙を突かせて父上を暗殺させる方が余程簡単だし確実だ」
「流石でございます」
エドモンは気分が良いのか、愛妾を抱き寄せながら酒を煽る。
「あと少しだ。あと少しで俺は国王になる。そしてあの女の化けの皮を剥いで、王国は俺の物になる!そしたらあの邪魔な正妻を追い出して、お前を正妻にしてやる!」
「きゃー!嬉しい!」
愛妾はエドモンに抱きつく。
《なれると良いわね……》
「え?」
「?どうした?」
「う、ううん!何でもない!」
女の声で何か聞こえた様な気がした愛妾だが、気のせいだと思ってエドモンに抱きつく。
「それより、魔王に関しては順調なのか?」
「もっちろん!ちゃんと復活する様にしてあるわよ!もう少しでエネルギーは貯まるわ。復活したら、歴史上最強の魔王が誕生するわよ」
「そうか。魔王は復活を手伝ったら俺の願いを叶えるんだったな」
「うん!何でも叶えてくれるって!」
「そうかそうか!魔王が復活したら、まずは手始めに帝国だな!父上を殺したらもう用済みだ。邪魔な帝国を魔王に滅ぼさせて征服だ!それから他の弱小国もちゃっちゃと滅ぼして!そうすればこの大陸は俺の物だ!」
《そんな簡単に行くかしらね?》
「うん?何か言ったか?」
「ん?何も言ってないよ?」
「そうか。まあ良い。とりあえず、魔王が復活したら帝国のスパイに父上を殺させるぞ。宰相、手引きは頼んだ」
「かしこまりました」
宰相は頭を下げて部屋を辞する。
「……愚かな奴だ。私が送り込んだ刺客とも知らずに入れ込んだのが運の尽きだな。まあ、傀儡の役割を果たせるだけ良いか」
宰相はニヤッと笑う。
「魔王様の御力は人間風情に扱えるものではない。帝国を魔王様が大陸全ての国を滅ぼし、そしてこの国も……。そして魔王様の治める広大な魔界を作る。私は魔王様の忠実なる下僕としてお側に仕える。魔王様の悲願を叶えて差し上げる事こそ我が願い……!」
《愚かなのはどちらなのか?》
「ん?誰かいるのか?」
辺りを見回すが、誰もいない。
「疲れているのか……まあ良い。さて、と……ふふふ」
宰相は笑いながら廊下を歩く。その背中には黒いオーラが纏わりついていた。
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