量産型魔王
1ヶ月が経過した。モーリスの話によると、王国各地で魔獣のおかしな挙動が見られるとの事。今まで報告がなかった魔獣が現れ、怪我人も出ているそうだ。何処でも同じ様な魔獣分布になっている。これは夢で創造神が言っていた量産型魔王の前触れだろうか。
「失礼します。ご主人様、モーリスより伝令です。オクレール領の森で量産型魔王が出没したそうです」
「ついに量産型魔王が出たか」
「多数の死者が出ている模様。国王からの要請でアルバン殿達とご主人様の出動要請が出ております」
「そりゃそうよね。魔導馬車の準備して」
「かしこまりました」
魔導馬車、それはペガサスに引かせて空を飛ぶ馬車の事だ。今では珍しいらしいが、レアの屋敷には何台か残っているのでそれに乗っていく事にした。
「まさか魔導馬車に乗ることが出来るとは……」
アルバンは驚いて言う。
「急がないと駄目だからね。いつもなら普通の馬車で行くんだけど。……所でオクレール領って、確か紅茶が有名な領地よね?」
「はい。アロンティーのなき後、オクレール領の紅茶が最も美味しいと評判です」
「じゃあ、全力で守らないといけないわね」
先日モーリスから聞いてセバスチャンに取り寄せてもらったが、確かに美味しい紅茶だった。いくらアロンティーの在庫はまだあるとはいえ、いつかはなくなる。その後継の紅茶を選んでおく必要がある。美味しい紅茶を二度も奪われてたまるものですか!
「……主人様は紅茶が本当にお好きなのですね」
「まあね。ゆっくり休むのにあったらいいでしょ?」
「確かに」
女性陣は概ね同意。しかしだからと言って『紅茶を守る!』と言って魔王を倒す者がいるだろうか。まあ、ここに一人いるのだが。
オクレール領は阿鼻叫喚となっていた。領地の城壁は倒壊寸前。それでも騎士達は必死で死守している。
「アルバン達は森からの魔獣を!私が魔王の相手をするわ!」
「「「「「はい!」」」」」
日々の訓練の結果、モンスターや魔獣共相手に遅れを取る事はなくなった。城壁に襲いかかる魔獣を次々に討伐していく。
それを確認してレアは森の奥に向かった。そこには多くの騎士達が集まっていた。
「怪我人は下りなさい!怪我をしていない人は怪我人の護衛と討伐を!モンスターと魔獣を近寄らせないで!」
「け、賢者様!?」
「賢者様がいらっしゃったぞ!」
現場の士気は爆上がり。レアはそのまま魔王の元に飛んで行く。
「賢者……よく来たな。私はこの世界を混 t 」
「ハイハイ。もう聞き飽きたわよ、そのセリフ」
何度も出る量産型魔王のお決まりのセリフだ。何度も聞いているため、セリフはスキップしていた。今回はスキップは出来ないが、そんな律儀に最後まで聞く必要もないだろう。
レアは光魔法で視界を遮ると、光属性の魔力を纏わせたロングソードで魔王を真っ二つに切り裂いた。魔王は断末魔を上げて霧の様に消滅した。
「……あれ?もう終わり?」
いくら量産型とはいえ、ここまで弱くはなかった……はず。少なくとも、いくら量産型とはいえ単騎での討伐は難しかった。ギルドでパーティを募って討伐するのが普通だった。それだって怪我人が出たのだ。
足元を見ると、『魔王の欠片』と魔王の遺物であろう『黄金の指輪』が落ちていた。
『黄金の指輪』は闇属性で、どちらも魔王のエネルギーが満ちている。聖魔法を使い浄化する。そして周辺も浄化していく。気持ちの悪い魔力は消えてなくなった。
「うーん……一撃でなんて今まではなかった……これがデジタルとリアルの違い?」
「うぉぉぉぉ!賢者様が魔王を倒したぞぉ!!」
「うわ!びっくりした!」
突然雄叫びの様な大声が聞こえて体が跳ね上がった。いや、まだ安心は出来ないよ。
「ほら、まだ残ってるわよ」
流石にこの数を騎士達だけに任せるのは気が引ける。と言う事で魔獣討伐もこなしていく事にした。怪我人に遭遇したら回復魔法を使い、出て来た魔獣は容赦なく薙ぎ倒す。無駄のない動きに騎士達は賢者に続けとばかりに魔獣を倒していく。騎士だけあって、この程度のモンスターや魔獣相手にはてこずらない様だ。
森を出た所にアルバン達がいた。一段落ついたのか、騎士と話をしている。
「アルバン」
「あ、主人様」
アルバン達の敬礼を見て騎士達は姿勢を正す。
「賢者様に礼!」
ザッという気持ちの良い音を立てて騎士達は最敬礼。団長であろう騎士はバシネットを外す。
「賢者レア様、お初にお目にかかります。オクレール領にて騎士団長を任されております、フロランと申します」
「お疲れ様。とりあえず領主様に報告しないと駄目だから、連絡とってもらえるかしら」
「はい!直ちに!」
その間に馬車の中で着替えて来よう。討伐直後のため別にこの格好でも失礼にはならないのだが、一応正装になっておこう。
すぐに領主館に案内された。同行するのはアルバンだけ。クロエ達はまだ森から魔獣やモンスターが出てくるかもしれない事を考慮して城門前に残して来た。
「賢者様。夜会以来ですな。エクトル・フォン・オクレール辺境伯。オクレール領を任されております」
「レア・フォン・アベラール伯爵です」
「こんなに早く来てくださるとは思わなかった。感謝いたします」
「これも陛下に仕える貴族の役目です」
「そうか。いや、しかし辺境伯を任されているにも関わらず陛下の手を煩わせてしまい、情けない限りだ」
「相手が悪かったと思いましょう。モンスターや魔獣相手には遅れをとっていませんでしたし、魔王相手に城壁を守り通した辺境伯の私兵は本当に素晴らしいと思います」
「そう言っていただけると兵士達も喜ぶだろう」
辺境伯は国の国境を任される爵位。本来ならば助太刀をする側であって、助太刀を受ける側ではないはずなのだ。ただそれは通常のモンスターや魔獣や国同士の戦争の場合は、である。魔王相手にここまで善戦するのは、流石は辺境伯と言った所だろう。
「賢者様が400年前に討伐なさった魔王と比べると、今回の魔王はどうでしたか?」
「正直言って弱すぎて拍子抜けしましたね。400年前の魔王は言うに及ばず、初めての魔王討伐との間に何度か討伐していた量産型の魔王よりもさらに弱い魔王でした」
「……ほぉ」
「まあ、だからこそ兵士達が防衛に成功していたのでしょう。あれが昔の量産型魔王であれば、今頃この領地は更地になっていたでしょうね」
「不幸中の幸い、といった所か……」
「正直、今のアルバン達であれば討伐できたかもね」
「いや、流石に無理でしょう……」
「アルバン、貴方は自分で思ってるより強くなってるわ。次量産型が出て来たら任せるわ」
「無茶言わんでください!」
「大丈夫!アルバンは強い!」
「鬼ですか!主人様!」
「人族よ、一応」
「知ってますよ……」
微妙に噛み合っていない会話にオクレール辺境伯はクククッと笑う。
「いや、伝説の賢者様は存外に可愛らしい方だな。是非とも我が兵士達も鍛えてもらいたい」
「……確かに良い考えではあるんですよね」
創造神の話によれば、王国各地にある魔王の遺物から復活する量産型魔王はレアやアルバン達なら討伐は可能だ。しかしいくら善戦したとはいえ、やはり兵士や騎士達ではまだ荷が重い。今回は間に合ったが、それでも兵士の死者は出ている。それを考えると騎士や兵士の実力の底上げを考えるのは良い事である。
「領地の私兵は国境の防衛をする必要がありますし、もうこの周辺に魔王は出現しないでしょう。ならば、せめて王都に駐在しているオクレール辺境伯の私兵を最低限アルバン達くらいまで育てるのは良い考えと言えるのです」
「そしてその私兵を各領地に派遣して量産型魔王に対応させる。その口ぶりではあと何回か魔王は出るのでしょう?」
「御慧眼、感謝いたします。うちの弟子達はまだレベルが足りないですし、オクレール辺境伯の私兵ならあるいは……」
「うむ。魔王討伐が終わった後でも、周辺国への牽制にもなる。特に帝国は隙を見せればすぐに襲撃を企てるからな、全く」
「あれ?帝国とは国交を結んでいませんでしたか?」
400年前は皇帝と国王の仲が良く、戦争をするよりも国交を結んで貿易で互いに互いの領地を反映させる方が理にかなっているという事で貿易も盛んに行っていたはずだが。
「皇帝が愚かなのだ。突然、理由も告げずに国交を断絶し国境付近の領地を襲撃したのだ」
「理由は分からずじまいですか?」
「そうだ。皇帝は愚かだと昔から評判でな。一説には、王国から親善目的もあり嫁いだ第2王女が気に入らなかったと聞くが……」
「性格の不一致でしょうか」
「聞いた話では美醜の問題と第2王女であったという事が理由だ。あの時点で第1王女はすでに嫁いでいたし、とてのお美しい王女だと王国内でも評判なのだがな」
つまり皇帝の我侭だという事か。何処にでもそういう王族はいるものだ。
「とりあえず、私兵の実力を底上げしましょうか。私は私兵は持っていませんし、緊急時は辺境伯にご協力いただく事になりそうですから」
「賢者様のお力になれるのであれば、全力を尽くしましょう。本当は賢者様の寄子になりたいくらいなのですがね」
「いえいえ。私の方が爵位が下ですよ?」
「今は、ですね。公爵になる日も近いでしょうな」
「私が高い爵位を得てしまうと、目の敵にする者も多くなってしまうでしょう」
「それもそうですな。では、辺境伯になる事を祈っていますよ。協力して王国を防衛していきましょう」
「微力を尽くします」
エクトルとレアは硬い握手を交わした。
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