新弟子加入
レアの屋敷には10人の魔法使いが来ていた。その内8人は魔導具術師、2人は低ランク魔法使いだ。全員レアの弟子になる者だ。
本当は1000人を越す魔法使いが集まってきていたのだが、その中からレア好みの魔法使いをアニエスとモーリスが選別したのだ。何しろ1000人の弟子を1人で受け持つというのは不可能だ。多くの弟子を持つという事は一種のステータスにもなるため、志願者全員を受け入れて自分は1人か2人を受け持ち、残りは一番弟子などに任せる事が多い。しかしレアは量より質を求める。弟子に任せてしまうのではなく、自分の手で弟子を育てたい人だ。それを分かっていて、アニエスとモーリスが人選をした。
もちろん不満は出ていたが、文句をいう者の多くはレアの魔法媒体を目当てにした貴族の子供や冒険者だ。レアの作った魔法媒体なら高額で取引される。それを弟子になって配られるなら冒険者として働かなくても一生食っていけるだけの収入になる。貴族にとっても『賢者の弟子』という称号は喉から手が出るほど欲しいものだ。そんな下心見え見えで近寄って来る輩はシャットアウトされている。
ちなみに、戦闘に向いておらず生産職に極振りしている様な魔道具術師はロドリグの所を紹介している。どうせなら鍛冶仕事を覚えた方が良いし、レアは鍛冶仕事は教えられない。媒体も自力で作れる様にもなるだろう。
現在、ロドリグは職人街の一角に工房を持っている。空き家になった鍛冶工房を買い取り、改築して開いた工房だ。以前の職人も腕は悪くないという理由でロドリグが雇った。少々芸術家肌のために需要に合わなかったらしい。『宝飾品の生産には向いている』という事で採用されたらしい。
閑話休題
「さて、まず名前を教えてもらおうかしら」
集まった10人を見てレアはいう。
「では、まずは私から、……私はアドリエンヌ。魔導具術師です。普段は弓術で狩りをしています」
キリッとした女性だ。ショートボブの茶色い髪。典型的な姉御肌の様な子だ。弓術と魔導具術の相性は非常に良い。彼女は遠距離攻撃要因として開花しそうだ。
「ベルトです……。回復魔法使いですが……あまり腕はよくありません……」
ベルトはレアと同じくらいに小柄な女の子。軽く畝る金色の髪をポニーテールにしている。
回復魔導士は医療ギルドか教会に所属することが多い。そこからパーティに派遣されたりする。
彼女は魔力もそこまで多くなく、初級の回復魔法しか使えないのもあり、新人パーティを渡り歩いていた。
「俺はアレットです。魔導具術師ですが、剣術で冒険者をやっています」
赤のショートボブをハーフアップにしている青年。腰にはロングソードを携えている。レアと同じ前衛だ。剣士として腕はかなり高く、ランクはAだそうだ。
「エンゾだ。魔法使いだが、錬金術しか使えない。ギルドでポーション製作要因として飼われていた元借金奴隷だ」
ヒョロッとしたスポーツ刈りの男は静かに言う。彼は医療ギルドの薬品部で働いていたそうだ。最初は書類整理などをやっていたが、錬金術師であるため初級ポーションを製作していたそうだ。初級ポーションは求められることが多い故に大量に生産する事になる。その割には給料が安い。基本的に上級ポーションを製作できる人の方が珍しく、需要は少ないが一種の名誉職であるため給料は高い。そして錬金術師は中級以上のポーションが作れる様になると初級のポーションを作るのを面倒臭がり、下っ端の初級ポーションしか製作できない錬金術師に押し付けているらしい。元は奴隷だったというのも理由らしいが、エンゾも押し付けられている錬金術師の1人だったそうだ。
「僕はバルナベ。魔導具術師ですが、冒険者ギルドで事務をやっていました。何しろ武術に才能がなくて冒険者が出来ませんので、冒険者さん達を支える側にいました」
黒髪の人当たりの良さが窺える男性。典型的な事務職といった印象を受ける。ギルドの事務員は主に元所属構成員で構成されているが、最初から事務員として就職する人も少人数ながらいるそうだ。冒険者ギルドはギルドマスターがモーリスなのもあってか、冒険者を出来ない人が事務員で入ることが多いそうだ。
「オイラはブリアック!魔導具術師で短剣を使えるっス!商家に生まれたので、王国中を旅してるっス!」
スキンヘッドの背の高いこの男は商人だそうだ。この世界の商人は商業ギルド以外は旅商人だ。拠点となる家はあるが、一年のうちの8割は旅に出ている。ブリアックもその1人で、家業を手伝う形で主に遠方の領地に行くことが多いそうだ。今回はたまたま王都に戻ってきたタイミングでレアの弟子を公募していることを商業ギルドから聞いてきた様だ。
「僕はヤン・フォン・アテニャン……アテニャン伯爵家の次男、です」
今回集まった中では最年少であり唯一の貴族出身者ヤン。アテニャン伯爵家は王国内では労働省に務める大臣だ。ヤンの母は平民出身の妾で、父親は可愛がってくれていた様だが第1夫人はヤンを嫌っているらしい。そんな人を母に持つ長男は母親のヤンに対する態度を見て、父に隠れてヤンに洒落にならないいじめを行っていたらしい。今回は父親がそれを察してレアの所に保護を求めてきたのだ。才能はありそうだし、パスカルと年齢が近いのもあり受け入れる事にした。貴族のマナーをある程度知っているから何かと補い合ってくれるだろう。
「俺はアメデだ!まさか魔導具術師の職業がまともに使えるとは思わなかったからな!体を鍛えて炭鉱業をしていたのだ!」
レアを縦に4人重ねた位の身長に木の切り株と勘違いしそうな程太い腕と脚。炭鉱業に着いていたらしい。仕事の内容さえ選ばなければ、炭坑夫というのは実りの良い職業なのだ。
「私はカミーユです。猫人族の父と人間の母を持っています。どちらかというと人間寄りですが魔力は多くはありません。執事として働いていましたが、主人に魔導具術師であることが知れてクビになりました。そのタイミングでこの募集を知りましたので応募させていただきました。よろしくお願いいたします」
赤毛の猫人族の男はゆったりと言って頭を下げた。魔導具術師の不遇な環境は、現在のこの世界ではよくある話らしく魔導具術師だと分かればクビになる事は多かった。カミーユもその一人で、カミーユが働いていたのは貴族の家。その執事の一人だったそうだ。人当たりもよく当主からの覚えも良かったそうだが、同僚から妬まれたらしく匿名で当主に密告されたらしい。当主は掌を返す様にカミーユをクビにしたのだ。まあ、そのおかげでうちで優秀な執事を雇えるのだから良いのだが。
「ウチが最後やな。ウチはアリソンや。狼族の中でも白狼族や。目の色が両目違うし魔導具術師やしで一族の間で仲間外れにされてしもーてな。王都で冒険者しながら護衛やっとったんや。よろしゅうお願いします」
白い毛並みに赤と青のオッドアイを持つ関西弁の獣人の少女。獣人の間には突然変異を持って生まれる者は珍しくない。その種族によって考え方や捉え方が違う。
狼族というのは攻撃力もあるが知的な種族でもある。保守的で仲間意識も強く、それ故に輪を乱す様な存在は排除する傾向にある。白狼族は特にその傾向が強いそうだ。アリソンはオッドアイで魔導具術師のため、一族の中ではハブられていた様だ。
ただレアとしては護衛任務ができるという事はかなり印象が良い。護衛は魔獣から対象者を守る事はもちろんの事、盗賊に対応しなければならない。盗賊は討伐よりも捕縛の方が報酬も高い。護衛を主に行なっている冒険者にとっては盗賊の捕縛報酬はメインの収入と言っても過言ではない。それ故に殺さない様に手加減をするのが得意だったりする。
兎にも角にも10人の新しい弟子が仲間入りした。まず行うのは魔力媒体の製作だ。そこは以前徹夜で作りまくったアクセサリー魔導具を使う事にする。
「セバスチャン。あの魔導具を出してちょうだい」
「かしこまりました」
食堂のテーブルにベルベットの布を敷き、その上に大量のアクセサリーを出す。
「ひゃぁ!これは壮観っすね!」
商人であるブリアックは目を輝かせている。確かに貴族のダイニングテーブルという事もあり、最大で12人座れる大きさのテーブル一面に広げられた指輪とアンクル。それは見ていて気持ちがいいほどの光景だ。
「サイズは自由に変更できるから、好きなの選んでいいわよ。選んだらサイズを合わせて、魔石も組み込むから」
そう、あくまで錬金術の試運転で作ったものなので、まだ魔石は組み込んでいないのだ。魔石はその術者の魔力を考慮して組み込まなければいけない。
魔石には二つの存在がある。一つはそれ自身が魔力を持っていて、主に魔導具で常時発動させる目的で使われるもの。鉱山などで一定条件の元に生成される魔鉱石を魔導具に組み込み使われる。
もう一つは術者の魔力を溜めておき、魔力が足りなくなったときにそこから補充する為のもの。これは魔力操作の優れている魔導師が、己の魔力を使って自身の魔力を溜めておく為の魔石を生成するのだ。それができない者は汎用性のある魔石を生成できる魔導師に頼んで作ってもらうのだ。魔力が少ない者は己の魔力を定期的に魔石に流しておき、足りなくなったときに補給する。
現在の国王イヴォンの様に魔力の質がよくなかったりする者は、己の魔力を流し込んでおくよりも魔石そのものの魔力を使う方が良い為、鉱山で生成された魔鉱石を使う。魔鉱石の魔力を使い切ると自然の魔力を魔石自身が吸い込み魔石として復活してくれる、前世で言う太陽光発電の様なものだ。
レアがイヴォン王に『賢者の石』を組み込んだものを献上したのは、王の魔力を補う意味もあるが、『賢者の石』はその希少性もあり別名『王者の石』とも呼ばれている。国王に対してただの魔力の多い魔石を組み込むというのはやや不敬である為、使用目的に対して過剰ではあるが、『賢者の石』を組み込んだという事情もあった。普通は少し魔力の含有量が多い魔石で十分なのだ。
それぞれ選んだアクセサリーに魔石を組んでいく。
アドリエンヌは指輪だが、あまり華美ではなくツタの模様が彫金されたもの。魔力は人並みにある為、レアが汎用性のある魔石を生成し組み込む。
ベルトは魔力は少ない方だし回復魔導師である事を考慮して魔鉱石を魔石にして組み込む事にした。汎用型の魔石でもいいのだが、そうすると非常時に魔石の魔力を使い切ってしまうと溜める暇がないからだ。
アレットは剣士だと言う事もありアンクルにした様だ。レアも剣を使うが、レアは剣と魔法を分けて使う事が多い。だから右手に剣を、左で魔法を使うために指輪を左に装備している。一方アレットは剣士である事から剣に魔法を纏わせて使う事が多くなるだろう。剣を魔導剣にしても良いのだが、今持っている剣が手に馴染んでいる事もあり、そうなると指輪では剣が滑って握りにくいからアンクルにした様だ。剣に魔力を通すと言う事も考慮して、剣とアンクルの両方に魔石を組み込む事にした。アンクルと剣の連動を良くするためだ。
エンゾは製薬をするのもあり指輪を選んだ。製薬用の魔導具は常時発動の魔鉱石付きが多いが、錬金術を使うとなるとどうしても魔法が必要になる。魔力は少ないわけではないが、これから上級のポーション製作もしていく事を考えると魔力は節約していきたい所だ。ここは汎用魔石を使う事にした。
パルナペは細目だが波の様なデザインの指輪を選んでいた。我が家の事務仕事を任せるためあまり表には出ないが、レアが屋敷にいない間の書類整理や屋敷の防衛をセバスチャンと共に任せる事にもなる。セバスチャンは魔族でもあるためその実力は反則級だが、パルナぺもいざとなれば戦う事にもなるだろう。と言っても、恐らく屋敷の結界を維持する事が主だろうが。魔力は平均的なため、汎用魔石を使う。
ブリアックはアンクルを選んでいた。指輪は商品を紹介する時にお客様の視線がブレる可能性があり不向きなのだとか。旅商人である以上は各地を渡り歩く事になる。当然、盗賊や魔獣に襲われるリスクもある。護衛がいるとはいえ、防衛だけでもしっかりできた方が良い。魔力は多くはないが、戦闘は短剣でやるから自分の身と荷物を守るための結界だけなら汎用魔石で十分だ。
ヤンは細身のアンクルにした様だ。目立たない、と言うのがあるらしい。経験もあるのか、できるだけ目立たない様にしているらしい。あまり攻撃向きではないな。生産職メインでやらせてあげる事になるかもしれない。そうなるとこの子は将来的に汎用魔石を自分で作れる様になる可能性もある。見本も兼ねて汎用魔石を使う事にした。
アメデは何と試しに作ってみていたガントレットを選んでいた。まあ予想を裏切らないチョイスではある。彼は炭坑夫だったのもあるからか魔導具術を極めても身体強化などをメインに使って体術で戦う事になりそうだ。そうなるとガントレットに魔法を纏わせてブン殴る事になるだろう。……とりあえず魔力は人並みにあるし、汎用魔石を組み込んで普段はアンクルになる様に直しておこう。
カミーユは細身で彫金も施されていない指輪を選んだ。執事であるため、主人より目立つ装飾品は持たないのだとか。魔力はあまり多くはない様なので、魔石を指輪の裏に隠して組み込む事にした。今後はパスカルの護衛兼執事として働いてもらう。
アリソンはアンクルを選んでいた。狼族は身体能力も高く体術を使う事が多い。そのため魔力はほとんど身体強化に使う。これからはブリアックやアメデとチームを組んで王国各地を回ってもらう事になるだろう。そうなれば戦う事も多くなる。アメデは完全に体術タイプだが、アリソンは武術もできそうだ。近接戦闘に馴れているから短剣などを使わせてみる事も考慮して、アンクルと短剣に魔石を組んでおこうと思う。
「さて、全員に行き届いたわね。今日は引越し日と言う事で、屋敷の中の案内と各人の部屋に荷物を入れて整理する日にするわ。屋敷での役割分担や訓練についての話は夕食後にしましょう」
「「「「「はい!」」」」」
と言っても、屋敷の中はそんなに紹介するほどの事がないのだが。
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