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賢者レアの復活  作者: huwanyan
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城壁修理

数日後、クリストフ王子に連れられて一人の男の子が来た。長い黒髪。あまりちゃんと食べていないのだろうか。ボロボロの服からのぞいている手足は小枝の様に細い。青い瞳は、まだ幼さの残る顔には似つかわしくない程ギラついている。生まれてからずっと奴隷として生きてきて、魔獣から命辛々逃げてきて、スラムで生活してきたのだ。ある意味で野生の魔獣の様な雰囲気を感じる。側にいるアルバン達が緊張しているのが分かる。


「パスカルだ。基本的な読み書き算術は出来ている」

「……よろしくお願いします」

「レアよ。執事のセバスチャン。大体の事は彼に任せれば何とかなるわ。弟子のアニエス。貴方にとっては姉弟子になるわね。日常生活で何か困った事があったら、彼女に聞くといいわ。お抱え冒険者のアルバン、クロエ、デジレ、ドロテ、アルセーヌ。剣術の基礎はアルバンが、魔法の基礎はドロテが、応用と魔導具に関しては私が教えるわ」


一人一人紹介していく。その間もパスカルの表情は変わらない。


「買い物なんかはお勉強にもなるし自分でやってもらうけど、事故防止にアルバンかデジレに付いて行ってもらって。買い物で足元を見られない様にというのもあるんだけど、貴方は私の弟子になるからね。私の弱みを握るために狙われそうだからね」

「……分かりました……」

「じゃあ、手を出して」


小さい手が伸びてくる。手の甲には奴隷紋が刻まれていた。手を覆う様に両手で包む。ジュゥという肉が焼ける様な音がする。音が止み手を離すと、奴隷紋からレアの家紋に変わっていた。


「よし!これでオッケー!さて、早速着替えようか!セバスチャンが用意してくれてるから行っといで」

「こちらです」


セバスチャンの案内でパスカルは2階に上がって行った。


「……子供とは思えませんでしたね。野性味があると言うか何と言うか」

「経験した環境を考えれば分かるがな」


アルバンはほっとして言い、それに応える様にクリストフ王子は話す。


「来たばっかりの頃のアニエスを思い出すわね」

「もう!師匠!あれは黒歴史なんですから!」


アニエスは顔を真っ赤にして言う。アルバン達が思った事は同じだろう。


『野性味のあるアニエス……?』

「皆さん分からなくていいですから!忘れてくださいぃぃぃぃぃ!!」

「そんなに取り乱さなくてもいいのに」


レアは笑っているが、2人以外はキョトンとしている。


「レア嬢。今度聞かせてくれ」

「承知しました」

「承知しないでください!師匠!」


そんな話しをしていると、2階からパスカルとセバスチャンが降りて来た。典型的なおぼっちゃまスタイル。軽く着られるブラウスにブレザーを羽織っている。やっぱりこの子可愛い!こんな可愛い子が弟子だなんて!


「可愛いじゃない!似合うわね!」

「師匠、私が来た時もテンション上がってましたよね」

「そりゃあ可愛い弟子を見たらテンション上がるでしょう!」

「まあ、確かに気持ちは分かりますけど」

「意外だったな。もっと冷静に対応すると思ってたが」


アニエスとクリストフ王子は苦笑いをしている。パスカルは驚いている様だ。こんなに丁寧に扱われるとは思ってなかったのだろう。


「さて、早速今日のお仕事に行きましょうか。セバスチャン、馬車の用意は出来てる?」

「はい。すぐに行かれますか?」

「そうするわ。王子も行かれますか?」

「ああ、そうしよう」

「では馬車にどうぞ。アルバン、一緒に来て。パスカルもおいで」


パスカルは不思議そうに首を傾げる。


「私は『魔導具術師』だからね。今日は城壁の修繕をしに行くのよ。見ることも勉強のうちだからね」

「……本音は?」

「こんな可愛い弟子ができたなら自慢したいじゃない!」


全員ずっこけたのは言うまでもない。セバスチャンは予想していたのだろう。すぐにお辞儀をして玄関を開ける。

馬車に乗ると、セバスチャンの運転で城門の方に向かって動き始めた。レアの隣にはパスカルが、クリストフ王子の隣にアルバンが座る形となった。


「400年前の城壁とはどの様なものだったのだ?」

「そうですね。素材は魔銀とアダマンタイトと魔石です。ベースは魔銀で、その表面をアダマンタイトと魔石でコーティングしていたんです。最初に作った人は別ですけど、私と他の魔道具師が共同でメンテナンスしたんです」

「……今の城壁は魔銀のみだ。城壁を作る程のアダマンタイトも魔石もないぞ」

「私が持っていますから問題はありません。当時の製作者の名前も分かっていましたし、伝書も読んでますから」

「製作者は?」

「建国時にいた魔導具師です。私なんか霞むくらいの技術を持っていた様です」

「ほぉ。その魔導具師は有名なのか?」

「トビという魔導具師です」


遥か昔、この世界は大小10の国に分かれていた。国同士で多くの戦争を起こしていた。

そんな中、突然2匹のドラゴンが現れた。

火山が噴火し現れた炎の翼竜は行く先々の家々を燃やし踏み潰し、破壊の限りを尽くした。

海が荒れて現れた水の龍は大きな波で船を転覆させ、海沿いの街を津波で押し流した。

多くの犠牲が出る中、一人の男が立ちあがった。彼はエクトルという名で、小国の王を継承したばかりのまだ若い男だった。彼はドラゴンの驚異から命からがら逃げて来た他国の王や国民達を受け入れ、食料や住む場所を与えた。そして会議を重ね、国同士の争いは一時休戦とし、一丸となってドラゴンを討伐しようという事になった。

その時に尽力したのが後に正妻となった英雄ステファニーと魔導具師トビだったそうだ。トビは自ら先陣を切って戦地へ向かう若き王と英雄のために渾身の剣を作った。黄金に輝くその剣は雷の力を宿しており、ドラゴンには効果の高い魔導具だった。

鳶の剣をたずさえ、王は海の龍の元へ、英雄は炎の翼竜の元へ向かった。王は剣で空に雷雲を呼び龍に向かって雷を落とす。英雄は雷を剣に纏わせて翼竜の首を切り落とした。

その後、国同士が統合し現在の王国が建国され、王都を整備する際エクトル王はトビに城壁の建築を任せたのだそうだ。


「当時、ドラゴンの脅威は去った後でしたからね。災害級は想定されていませんでした」

「もう現れないだろうという事か」

「はい。ただ私が修繕を任されたのが建国から500年という記念すべき年でもありましたし、流石に想定しない訳にもいかなかったので災害級にも耐えられる様にはしました」

「でも壊れたんだよな?」

「私か同レベルの冒険者が駆けつけるまで凌げる程度です。それ以上は無理ですし、1匹が精々です。3匹は想定外でしたし、それを想定していても防げません」


誰がスタンピードにドラゴンが3体も混ざっている事を想定するってのよ。400年前でもそんなスタンピードは聞いた事がない。


「流石の賢者殿でも想定外だったか」

「2体までなら想定内ですけどね。3体は自分の目を疑ってしまいますね」


もしそんなのに遭遇したら、乱視で二重に見えている事を最初に疑うだろう。


そんな話しをしている内に城壁に到着した。別に馬車を走らせる距離ではないのだが、王子がいるからね。

馬車を降りると、多くの人だかりができていた。その多くはドワーフだ。モーリスを筆頭とした魔法使い達もいる。


「我が主人!」


モーリスがレアを見つけて敬礼の上で手を取り口を寄せる。


「ああ……何度見ても美しい御手だ……!」

「ハイハイ。彼らが『魔導具術師』だね?」

「はい!仰せの通りに集めておきました」


モーリスの態度に茫然としつつも、魔法使い達は慌ててレアに最敬礼をする。


「ああ、挨拶はいいわよ。今日はまず城壁の修繕をして、それからあなた達の魔力媒体を渡すから」

「……私達は『無才』です。賢者様のお力にはなれないかと……」


魔法使い達は一様に俯き、自信なさげだった。


「大丈夫よ。私も『魔導具術師』だから」

「「「「「え?」」」」」


『賢者様が『無才』!?』という衝撃が辺りに広がる。


「おう、あんたが賢者様かい?」


そう言って1人のドワーフが声をかけて来た。


「……まあ、生きているとは思いましたけどね」

「あんなボンクラ王子に殺されるわけねーだろ?」


ニヤッとドワーフは笑う。そして拳をぶつけ合った。


「お久しぶりですね、ロドリグ殿」

「おう。王都が随分騒がしいと思ったら、あんたが復活したっていうじゃねーか。賢者ともなると死からの復活も可能なんだな」

「神のお導きですよ」

「そうかそうか!この仕事が終わったら酒を飲もうぜ!」

「承知しました」


和やかに繰り広げられた会話に誰もが唖然とし、クリストフでさえ動揺を隠せないでいる。


「あー、賢者殿?ロドリグ殿というと、もしかして……」

「はい。400年前のお抱え魔道具師です。あの虐殺から逃れた様ですね」

「おう。奴らが暴走していたのは知ってたからな。ゴーレムを使って逃げたんだよ」


ロドリグがそう言うと、クリストフは膝を突いて挨拶をする。


「お初にお目にかかります。第2王子のクリストフ・フォン・バルバストルです。賢者様に続き、伝説の魔道具師にお会い出来るとは……光栄の極みです」

「やれやれ……いくらお抱えの魔道具師だったとはいえ俺は平民だぜ?そんな簡単に平民に頭下げるなよ」


ロドリグは苦笑いをする。


「それにな。俺は王家お抱えとしての責務を全うしただけだ。レア殿の技術を絶えさせてはいけねぇ。それは俺が忠誠を誓った国王シプリアン・フォン・バルバストルからの最期の命令だった」


人を選ぶロドリグが、命を掛けても着いて行くと決めた相手だ。誰からも信頼され、誰より民を、国を愛した国王だった。


「あの方の命令に従っただけだ」

「そうですか……ありがとうございます」

「では、ロドリグ殿と一緒にきたドワーフ達は……」

「おう!賢者様のお手伝いが出来るなら何でもやるとさ!」


見ればドワーフ達の目はキラキラと輝いていた。


「それじゃあ、配置について下さい」

「もうついてるぜ」

「……ではここにいるのは……」

「そりゃあ、お前が何をやるのか見てぇって連中さ」


あぁ、そう言う事か。まあいいけどね。


「ではやりますか。……『魔導具術師』達」


振り返って声を掛ける。全員ビクッとする。


「今からやる事は、将来的に全員が出来る様になる可能性がある魔法です。今は理解できなくても、この経験があなた達の将来の糧になる事を願っています」


そう言って王都中に魔力を広げた。その魔力の濃度、密度、そしてそれを制御するだけの技術に誰しもが息を飲む。そして目の前の城壁が光に包まれる。


「……内部構造、確認。幸い魔銀の城壁に亀裂などは見られません。このまま使用できるでしょう。今からでも補修できますが、やりますか?」

「頼む」

「承知しました。【リノベーション】」


すると城壁は少しだけ形を変えて行く。こちらからは見えないが、城壁の外ではドワーフ達が持っている魔導具がレアの魔力に反応して城壁に向かって魔力を放っている。

光が消えた時、そこに現れたのは見違える程に美しい城壁だった。綺麗な銀色のアダマンタイトは、鏡の様に人々を映している。


「……うん。これなら大丈夫ね」

「はっ!相変わらず自重を知らねーな」

「魔王の討伐報酬でアダマンタイトが大量にありましたから」

「ほぉ。惜しげもなく使ったのか」

「いります?」

「売ってくれるのか?」

「市場価格より少し下げてお譲りしますよ」

「ありがてぇ。地下に篭って隠居生活も悪くねーんだが、やっぱり素材が限られて来てな」


そんな呑気な会話をしている周囲では悲喜交々となっていた。


「あぁ!やはり我が主人は素晴らしい!」

「いやぁ……こいつぁ……」

「ロドリグの旦那が認めるだけはあるな……」

「アダマンタイトが大量にあるって……」

「あの魔力……」

「俺達と同じ『魔導具術師』……」

「私達にも出来るの……?」

「……こんな存在を、その弟子を『無才』と言い続けていたのか」


ある者は悦に浸り、ある者はその能力に驚き称賛し、ある者は未来の自分に思いを馳せ、またある者は己達の過去の過ちを恥じていた。


「では、『魔導具術師』は集まって!魔力媒体を渡すわ。アンクルか指輪か選んでちょうだい。魔力を見て魔石を組み込むから」


モーリスによって集められた『魔導具術師』達に錬金術の試運転で作った指輪とアンクルに魔石を組み込み配る。そして軽く魔法の使い方を教えて解散とした。あとは自力で学べば問題ない。


「さて!仕事は終わったし、酒飲もうぜ!」

「相変わらずですね、ロドリグ殿。まだ日が高いですよ?」

「んなもん、飲んでる内に沈んでくらぁ!」

「んもう……」


小躍りしながら撤収作業に入るロドリグの背中を呆れながら見ていると、パスカルがレアの袖を引く。


「うん?」

「……僕も出来る?」


その目は憧れの人を目の前にして興奮している様だった。年相応のキラキラした瞳だ。


「ちゃんと修行したらね」

「がんばる!」


どうやら、心配事の一つは解決した様だ。なんだかんだ言っても、やっぱり可愛い弟子の闇落ちは回避したい所だったから。


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