表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
賢者レアの復活  作者: huwanyan
16/68

弟子

例の夜会以降、面会を求めてくる貴族が多くなった。寄子になりたいのだろう。面倒だから寄親にはなりたくない。アポイントは全て蹴っている。こちとら忙しいんじゃい!


「ご主人様。ここ400年の王国の領地で起こった自然災害の一覧です。これでも絞った方ですが」


セバスチャンは執務机に報告書を置いて言う。三つの山が出来上がった報告書を見てレアはため息を吐く。


「これは凄いな。父上の机の上の様だ」


そう言ったのはクリストフ王子だ。早速屋敷に来て新しく創設された復興庁の仕事について話し合いに来たのだ。


「……前世の事務仕事でも、こんな書類の山を処理なんてしなかったわよ」


勤めていた時、一般事務をしていた時でもこんなアニメの様な書類の山は出来ていなかった。働いて3年で辞めてしまったが、それでもサビ残の多い所謂ブラック企業だった。……そういえば有給消化、強引にもぎ取ったんだっけな。『セクハラを訴えない代わりに有給を消化させろ』って言って。友人である弁護士はどっちも訴えられると言っていたが、さっさと終わらせたかったし、私が辞めたら辞めたで芋づる式に辞めていく人もいたから事務処理が追いつかなくて地獄を見るのはセクハラ上司だった。それを見越して、訴えるより効果が高いと踏んで手を打ったのだ。そしてその予想は大当たりで、元上司は鬼の様に私に連絡を取ろうとしていたが、全部無視していた。私の後で退職した元同僚の話によると、『朱音さんが戻るなら戻ります』と言ったから私に鬼の様な連絡が来たらしい。結局、元上司がセクハラをした部下のうちの一人に社長の孫がいて事態が発覚。元上司は多額の慰謝料を会社に払う羽目になったそうだ。ちなみに被害者にも慰謝料を、という話になっていたらしいが、私にその話が来る前に死んでしまったため受け取ることはなかった。


「前世、というのは……?400年前のお話ではないですよね?」


アルバンが首を傾げる。あ、ヤベ。セバスチャン以外がいるの忘れてた。


「いや、まあ、復活するまでの間に色々あったからね……」

「創造神様の所にいた時の記憶という事ですか!?」

「まあ、神の国にいたからね……」


日本は別名『神の国』と呼ばれていたから間違いではない。創造神の所ではないが。


「凄い!神のいる世界で暮らしていた記憶があるなんて!」


……かなり誤解しているけど、結果オーライか。


「……それは教えても良いのですか?」

「言いふらして歩かなければ大丈夫よ。そこまで秘密でもないからね」


まるで子供の様に目を輝かせているクリストフ王子。そして興味を隠し切れていないアルバン。この国の人達の信仰心はかなり強いと言う話しはゲーム内でも有名だった。しかしこっちに来てから、その信仰心の強さを改めて知った。何しろ最低でも月に一度は教会に行って祈りを捧げているのだから。きっと信仰心だけは失っていなかったからこそ、創造神はこの世界を助けて欲しいと言ったのだろうし。


「神の国とはどのような場所なのですか?」

「この世界とあまり変わらないわ。魔法がないくらいかしら」

「魔法がない?それではモンスター討伐は武術などで戦っていたのですか?」

「そもそもこの世界みたいに自然界の魔力がなかったのよ。だから魔獣もいなかったわ」

「なるほど。自然界の魔力に親和性を持った者が魔法使いになり、動物達は魔獣になり、モンスターも生まれる。自然界に魔力がなければそれも起きませんね」


アルバンは興味深そうに言う。地球にも魔力はあったのかもしれないが、魔法使いや魔獣、モンスターが現れる程ではなかったのだろう。


「しかし、魔法のない世界での生活というのはどう言ったものなのですか想像もつかないのですが」


お、セバスチャンも興味が湧いてきた様だ。


「自然の理を利用して、それを元に魔道具のようなものを作っていたのよ。そういった意味では神の国の民の方が頭は良かったわね」

「自然の理を……」

「識字率99パーセントだもの。そこのアドバンテージは高いわね」

「ほとんどの人間が読み書きが出来たということか!?」


流石は王子。そこに食いついたか。


「7歳〜15歳までは義務教育ですからね。読み書き算術は基本教養でした」

「義務、という事は必ず通わせなければいけないということか?」

「親には子供に教育を受けさせる義務がある、という事です」


よく勘違いされがちなのだが、憲法では『すべて国民は、法律の定めるところにより、その保護する子女に普通教育を受けさせる義務を負う』と書かれている。つまり、その義務の所在は親なのだ。ぶっちゃけ、学ばせられるのであれば学校に通わなくても良いという事でもある。塾や家庭教師、通信教育など、その子に合った学び方があるのだから。


「教育費はどうしていたのだ?払えない者もいるだろう?」

「税金で払われてたのです。雑費は自己負担ですけど」


給食費とかは自己負担だったから、払えない子がたまーにいたりした。


「そうか……!読み書き算術さえ出来れば、ちゃんと仕事も出来て税金も……!」

「そういう事です。そうしてごく一部の才能がある人は、さらに専門的な勉強をして専門職に就くのです。医者とか教師とか研究者とか」


病気などでそもそも学習に難がある子以外は一通りの読み書き算術はできるという事になる。今考えても良く出来たシステムだったと思う。

この世界では貴族しか学校には通えない。読み書き算術のできない人達は沢山いる。冒険者でも代筆を必要とする人が多いらしい。


「この国でも導入できないだろうか……」

「既存の学園と分けたほうが良いかと。貴族はどうしても家庭教師などで勉強している分アドバンテージがあります。そうすると、基礎教養から始まる平民とは足並みが揃いません」

「なるほど。そういう弊害もあるか」

「平民でも商家の生まれだと基本的な読み書き算術はできるものも多いでしょう。そういう者は既存の学園に通うのも良いかとは思います」

「うむ。今の規則では平民は学園に通えないからな。規則を変える必要がある」

「問題は、平民が入学する事でいじめを行う者がいる可能性ですね」

「どこにでもいるからな、そういう奴は」


今まで別の世界を歩んでいた者同士だ。相入れない事もあるだろう。だからといっていじめはよくないが。


「いっその事、平民専用の学園を作るという手はありますね。貴族専用があるなら平民専用があってもいいと思いますし」

「……その方が事件は起こりづらいか」

「学費の事もありますからね。その方がよろしいかと。例えば教会に学校を併設して基本的な読み書き算術を教える。それが終わったら、商家の子弟と共に通える学院に入学できる。貴族は今まで通り学園で良いのではないでしょうか」

「ふむ。良い案だな」


学校の話しは一度持ち帰り、国王と話し合うそうだ。


「さて、と」


文句を言っても始まらない。山となって積まれた報告書に手を付ける。

レアが魔王と相討ちになった直後の事だった。冷害によって各地の農作物が被害を被った。その中にはアロン領も含まれていた。人気の高い茶葉も大きな被害を被った。しかし、そこは自然災害。よくある事であり、アロン領の領主は策を講じていた。領内の倉庫に紅茶の苗を保管していたのだ。その苗を育てれば良い。時間は掛かるが復活は可能だ。そう思っていた。

レアが魔王と相討ちになった数日後。突然襲ってきた巨大な台風。台風は大嵐を呼び、大雨によって氾濫した川によって倉庫は流され苗は全滅。アロンティーは生産できなくなってしまったのだ。


「その当時の冷害と台風による大嵐による被害はどこの領地でも大きく、農作物を生業としていた領地は特に酷かったのです。当時のアロン領主は自殺していますし、他の領地でも似た様な事は起きていました」

「領地運営に関わるものね」

「王国としても税収が減って大変だったと聞くな。王都も大嵐で建物が崩壊したり、大量の魔獣によって城壁が崩壊したり……」

「あの堅牢な城壁が壊れたのですか!?」


当時の技術を結集させて作った城壁。あまりの強固さにレアも呆れたほどだったが、そんな城壁が壊れた?どんな襲撃だったのだろう。


「どうやらドラゴンがいた様です。それも3体です」

「まあ、そのくらいじゃないと壊れないわよね」

「モーリスが2体を討伐。1体は騎士団が討伐したそうです」

「大したものね。1体でも討伐出来たなら凄いわ」


騎士団の訓練に協力した甲斐があったというものだ。


「それでもかなりの犠牲は払っていた様です。その他の魔獣もモーリスを筆頭に倒していました。しかし、城壁は完全に崩壊。件の国王のせいでご主人様の技術が潰えてしまったため、堅牢が嘆き悲しむ様な城壁になっております」

「……まずは城壁の再建ね。一度見にいく必要もあるけど、私一人じゃ再建なんて出来ないし」


ゴーレム使ったら目立つだろうなぁ。現在屋敷で絶賛製作中の魔導飛行船はゴーレム達が作っている。技術を伝える事を考えると……いや、でも城壁だしなぁ……


「……クリストフ王子。技術者を出来る限り多く集められます?」

「すでに招集はしてある。総勢100人の技術者達だ」

「では、その100人を城壁に集めてください。全員で城壁を囲む様に包囲網を作ります。彼らにはこの魔導具を持たせてください」

「……『魔導具になど頼らないでも作れる!』という者が出そうだな」

「そういう人達は省いていいですよ。魔導具を持ってくれる人達だけで包囲網を作ってください。そして持たない人は私の所に連れてきてください」


そういう職人気質な人は多いからな。嫌いではない。


「セバスチャン。明日にでも行くわ。準備して」

「はい」

「あと、アルバンはモーリスに言って、『魔導具術師』を集めて私の所によこして」

「かしこまりました」


クリストフ王子は少し考えてレアに声をかける。


「レア嬢」

「はい?」

「実は、とある貴族の庶子で『魔導具術師』がいるのだ。連れてきても良いか?」

「構いませんけど、どうもその言葉の裏に闇を感じるのですが?」

「ははは!闇か!間違いではないな!」


笑うクリストフ王子。『庶子』という時点で怪しいよね。


「実はな、認知されてないんだ。しかもスラム暮らしと来た」

「あぁ……なるほど……」


この世界において庶子はそんなに珍しい存在ではないし、軽蔑される存在でもない。妻の多さと子供の多さは権力に比例する。爵位が高ければ高いほど妻も妾も子供も多くなる。

ただ庶子で『魔導具術師』となると話しは別なのだろう。


「母親は子供を産んですぐに死別。『無才』と分かり、認知を受けられずに秘密裏に奴隷商に売られたらしい」

「クズですね。いっそ清々しささえ覚えます」

「男爵は下級貴族。貴族の中でもそこまで潤沢な資金があるわけではない。なのに身の丈に合わない程の妾を持った結果だ。常に金に困っているからな。貴族出身となれば、売れば金にもなる」


貴族には上から公爵・侯爵・辺境伯・伯爵・子爵・男爵・準男爵・騎士爵があり、それぞれに階級があり、それぞれに国からの給料も決まっている。


上級貴族→公爵・侯爵・辺境伯→大白金貨3枚(210ユーク)

中級貴族→伯爵・子爵→大白金貨2枚(140ユーク)

下級貴族→男爵・準男爵・騎士爵→大白金貨(70ユーク)


これは1ヶ月に支払われる金額で、これは貴族が貴族たる体裁を保つためのものだ。決して安くはない。身の丈に合わない贅沢をしなければ十分に足りる金額である。レアも伯爵のため1ヶ月に大白金貨2枚、140ユークを受け取っている。しかし使い切れておらず、下級貴族の受け取っている金額さえ使い切っていない。しかも様々な偉業を成し遂げておりその報酬も上乗せされているから、資産運用しているわけでもないのに貯蓄が増えていくという不思議な現象が起きているのだ。よく使い切れるよな、あの金額を。まあ、芸術にあまり興味がないだけなのだが。


「そして現在はスラムという事は……」

「奴隷商から逃げたんだ。輸送中に魔獣に襲われて、混乱に乗じてな。そして冒険者に拾われて教会に引き取られたが、その教会が満員でな。スラムのまとめ役の女性が引き受けてくれたらしい」

「学ぶ事に関しての『欲』はどうですか?」

「いろんな意味で『欲』の強い子だ。実の親に対しての怒りや憎しみはかなりのモノがある。『殺してやりたい』という思いもあるし、それを隠そうともしない」

「当然の感情だとは思いますけどね」

「俺が王子だと分かっていて、それでも『父を殺してやりたい程度には憎んでいます』と言い切ったからな。そのために自分のスキルを使えるなら学びたいと言っていた」


状況を見極められる目と行動力のある子だ。そして魔獣に襲われながらも逃げ切れ、通りがかった冒険者に拾われ、教会は無理でもスラムのまとめ役と繋がって引き受けてもらえるという運もある。そして今回も王子の耳に入って、『魔導具術師』であるレアの所に話しが来るという強運に恵まれた。運も実力の内。実力のある人間は好きだ。しかも目的はどうあれ『野心』がある。


「ご主人様の最もお好きなタイプですね」

「そうね。これはアニエス以来の逸材かもね」


セバスチャンは納得しているが、アルバンは納得できない様だ。気持ちは理解できる。


「主人様。その子は『父親を殺したい』と言っているのですよ?もちろん気持ちは理解できますが、主人様が教えた魔法で人を殺すかもしれないのですよ?」

「教えた魔法で何をするかはその人の自由よ。学びにおいて最も大切なのは『目的意識』だからね」

「目的意識……」

「アルバンは強くなってどうしたい?」

「それはもちろん、一人でも多くの人々を魔獣の脅威から守りたいです。そして少しでも主人様のお役に立ちたいです」

「まあ少々青臭さはあるけど、はっきりとしたビジョンだし汎用性のある目的だから良いわ。その目的意識は大切にしなさい。そうすれば常に成長できるし、自分自身を見失わないから」

「はい」


アルバンの様にある意味真っ直ぐに生きてきた者にとって、『殺してやりたい程の憎しみ』という感情を理解するまでには時間がかかるだろう。


「では連れてくるとしよう」

「お願いします。セバスチャン。部屋の用意をお願いね。あと、アニエスに日常の面倒見を頼んでおいて」

「かしこまりました」

「アルバンとドロテがどちらか必ず側にいる様に。そのクズ男爵とかが接触を図ってくる可能性はあるし、暴走して事故が起きても困るから。まあ、聞いた感じ、冷静な子だから大丈夫だろうけど」

「はい」


さて、報告書の精査に戻るとしよう。……どんだけかかるんだろう。


予約投稿です。いいね、コメント、誤字脱字報告などありましたらお願いします。いいね・コメントは作者が喜びます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ