夜会の準備とエドモンの行方
5日後、王城では夜会が開かれる。それに『復活賢者レア』と、その弟子で400年前の国王の正妻『薄幸の王妃アニエス』が出席するとあって、夜会に出席する貴族達は気合が入っている。というのも、アニエスが出席するという事は師であるレアも出席するという事だ。レアはまだ未婚だ。自分の子息を是非婿にしたいと思っているのだろう。
「あと、寄子になりたい貴族もいるのでしょうね」
夜会の準備をするセバスチャンは言う。レアのドレスはワインレッドに黒レースのシャンパンドレス。そこに国王から下賜されたマントを羽織る。
「寄親なんて面倒だから嫌なんだけどね」
「ご主人様は伯爵位ですからね。今後のご活躍次第では辺境伯になる可能性もあります」
辺境伯。国境の領地を統治する貴族で、隣国と戦争になった時には最前線に立つ役だ。主に武勲をもって叙爵した貴族だ。レアならあり得る。
「今のところ戦争は予定されてはいませんが、不穏な動きもございますからね」
「私は兵を持っていないから、自分達のところから派遣して貸しを作りたい、か」
「ご明察です」
レアはため息を吐く。
「ぶっちゃけ、兵はいらないんだけどね。アルバン達で十分だし」
「騎士団よりレベルが高いですからね」
アルバン達は森での討伐任務と修行の結果、レベルが500に上がった。レアの殺気に対する耐性も付き、レアのお抱えとして恥じない冒険者となっている。それと同じだけの強さを持つ騎士なんて王国騎士団にもいない。いっそのこと王国騎士団を鍛えて借りるか……?
「モーリスには話した?」
「はい。夜会でアニエス嬢のエスコートを引き受けると言っています」
アニエスは一応后だ。下手な男にエスコートさせる訳にはいかない。その点、ギルドマスターでありレアの配下にいるモーリスなら文句はないだろう。
「……所で」
セバスチャンは声を落とす。
「現在、城では少々騒ぎになっているそうですよ」
「何が?」
「王太子エドモン様が行方不明になっているそうです」
「あぁ……」
レアは紅茶を飲みながらクスッと笑う。
「そういえば、まだ言ってなかったわね」
「ええ」
「無事なんでしょう?」
「はい。丁重に扱っております」
「400年くらい封印しとく?」
「中々面白い案ではございますが、その間に陛下が王太子の側付きを尋問すると思います」
「だよねー」
実はエドモンはレアの屋敷の中にいる。それもアニエスのマントが入っている宝箱の中に。しかも護衛であろう騎士と共に。宝箱には空間魔法が付与されていて、2人なら簡単に入れるのだ。
「ご主人様が見破れないとでも思ったのでしょうか?愚かな王太子です」
「結局どうなってるの?」
「空間魔法しか付与されていませんでしたし、これから長い間保管するには心もとないため【時空魔法】も付与しておきました」
「効果は?」
「時間停止です」
つまり宝箱の中は常に時間が止まるため、生きている者が入るとその者の時間も止まってしまう訳だ。
「中身を出し入れしても、かの者は自分の意思で出入りは出来ないという事ですね」
「中に入っていた宝飾品は?」
「回収し、こちらの宝箱に入れてあります」
「なら、それを突っ返せばいいだけね」
「はい」
向こうが言ってくるまでは返す気はないけど。
夜会前日。屋敷に陛下がお忍びでやってきた。お供は執事だけだ。
「実は……極秘なのだが、エドモンが、その、行方不明になっておってな」
度重なるレアへの非礼に、陛下は困ったような顔で言う。こういうのは続くものだ。陛下は胃が痛いかもしれない。
「ようやく側付きが吐きましたか?」
「まあ、な」
レアはセバスチャンに目配せをする。セバスチャンは頭を下げて応接室を出る。少しすると、件の宝箱を運んできた。
「この宝箱には空間魔法が付与されていましたが、時空魔法を追加で付与させて頂きました」
「なるほど。だから自力では出られぬと」
「はい」
「このまま城に持ち帰りますか?」
「そうだな。城で開いて引っ張り出して説経するとしよう」
陛下は少し疲れている。400年前のレアがお世話になっていた国王、アレクサンドルとアルフレッドの父であるシプリアン王によく似ている。見た目もそうなのだが、優しく品行方正で常に国民の事を考えている。彼は良い王だが、王太子に若干の難があるという所まで似なくても良いとは思うのだが。
「今回は一線を超えている。夜会には欠席させる。第2王子のクリストフだけは出席させるが」
「それはお任せします。エドモン王太子がアニエスにちょっかいをかけなければそれで」
「約束しよう」
国王はそう言って城に戻った。宝箱はアルバン達が馬車に積み込んだ。あの王太子、きっと国王に物凄い怒られるんだろうな。
予約投稿です。いいね、コメント、誤字脱字報告などありましたらお願いします。いいね・コメントは作者が喜びます。