貴族会議
1週間後、レアとアルバンは王城にいた。大臣と国王が集まっての会合に出席するためだ。護衛を引き連れて行く必要もないのだが、形だけでも連れて行かないといけない。貴族としての体裁を整えるためにも必要な事なのだ。流石に全員は大袈裟なので、アルバンだけを同伴した。
大臣達の反応は三者三様。伝説の賢者と会えた事に浮き足立っている者、こんなチンチクリンな小娘が本当に賢者様なのかを疑っている者、そしてそもそも賢者様という存在に胡散臭さを感じている者。まあ、想定の範囲内だ。
「賢者レア様。お会いできて光栄です」
そう言って声を掛けてきたのは、公爵位で防衛大臣を任されているエリク・フォン・ヴォロディーヌ公爵。ゲーム内にも存在した由緒正しき公爵家だ。確かにゲーム内時間の400年前も防衛大臣だった。代々受け継いでいるらしい。
「エリク様、ですよね。レア・フォン・アベラール。伯爵位を賜っています」
面倒臭いし、国王も『賢者レア』と呼んでいたから公式でもあまり名乗らないことが多かったが、400年も空席にしていたから一応名乗っておく事にした。
「貴女が最近森の中で討伐してくださっているお陰で、森から出てくる魔獣の数が減ってきていると報告がありました。ありがとうございます」
「いえ。こちらこそ、彼らのレベルが上がってくれるので助かっています。王国依頼が来た時に私が派遣する冒険者が不甲斐ない結果を残して私の顔に泥を塗られては困りますから」
一応公式には『奴隷として受け取った』という事にはなっているので、あまりホワイトな側面は見せない様にはする。貴族の世界は足の引っ張り合いだ。駆け引きが必要なこの世界。だから貴族にはなりたくなかったんだけどね……
「おい。仮にも王国指定冒険者だぞ。それをそんなぞんざいに扱うのはいかがなものかと思うがな」
別の大臣が言ってくる。デ……恰幅の良い貴族だ。
「あら。国王からは『奴隷として』受け取りましたわ。いくら王国指定冒険者でも、奴隷として役に立たず私の恥になったら切り捨てるしかないですわ」
「ほぉ。国王から下賜されたモノであってもか?」
「『下賜』ではなく、私の大切な弟子を奴隷扱いした『慰謝料』を頂いただけですし、その『慰謝料』として金銭ではなく、たった5人の『奴隷』であった事は、感謝されこそすれ説経される謂れはございませんわ。……でしょう?」
レアはアルバンに視線だけを向ける。
「私共はレア・フォン・アベラール様の忠実な奴隷ですから。主人の恥になる様ならば、この場で切り裂かれても構いません。この身も心も、全てを主人の手に委ねます」
アルバンは右手の拳を左胸に置いて言う。これは主従関係を結んでいるものが主人に見せる誠意の証し。心臓にナイフを突き立てるモーションに由来するらしい。
「ふんっ。国王への忠誠はどこにいったんだ!これだから冒険者風情は……」
「止めぬか」
そう言ったのは、いつの間にか入って来ていた国王だった。
「陛下。気が付かず失礼しました」
「いや、構わぬ。半分は聞き耳を立てていただけだからな」
陛下は笑いながらそう言って件の貴族に向き直った。
「400年前、レア殿の技術を後世に残すために一番弟子であったアニエス嬢を第2王子のアルフレッド様の正妻に迎えた。それは王国からの申し出であったそうだ。アニエス嬢はハイエルフである故に、長い間存在出来るからな」
「なっ!アニエスは己の欲望のために第2王子の妻になり、第一王子を狂わせて憤死に追い込んだと!第2王子の事も呪い殺し、その本性を暴き出し成敗したのが時の宰相だったという話しでは?!」
空気が変わった。瞬間的に一斉に視線がレアの方に集まる。謁見の時の殺気とは比にならない程の殺気だ。ピクリとも動けず、誰も声を発せなくなっていた。
「……主人様」
ただ一人だけ声をかけ、逞しい手がレアの肩にそっと触れる。
「落ち着きましょう。私は最近の訓練のおかげで動けますが、他の方々は失神します。陛下もお辛そうですし」
アルバンは落ち着いた声で言う。陛下は国王の矜持か何とか踏ん張っているが、他の貴族達は尻餅を突いている。件の貴族に至っては泡を吹いて失神している。
レアがふぅと息を吐くと、殺気はスゥッと引く。全員がほっとした。
「流石にここまでのお話しは想定外でしたが……?」
「うむ。今アデラール侯爵が言った話しというのが、当時の宰相とその周囲の人間が流した話しだ。先日アニエス嬢から本当は何が起きたのかを聞き、それを城にある記録と見比べた結果、宰相の流した噂はほとんどが嘘である事も確認出来た」
国王は唸る様に言う。この国王は行動派の国王だ。自分の手で調べ、自分の目で見て判断するという話しだ。それが最初から出来ていたらアニエスの処遇も変わったのだろうが、まあ今更か。
「この話は今度の夜会で行う予定であった。その関係でレア殿とアニエス嬢にも夜会に出席頂きたい旨を、この会議の後に話そうと思っていた」
「なるほど。貴族が全て集まりますからね」
確かに謁見で家長だけに話すより、夜会で貴族が一家全員に話す方が効果がある。
「とりあえず会議はアデラール侯爵が目を覚ましてからにしよう。賢者殿。夜会についてお話がある。この会議の後で話そうと思っていたが、今でも良いか?」
「はい」
「では場所を変えよう」
財務卿であるアルチュセール侯爵が復活するまで別室で陛下とお話しする事にした。
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