『賢者の森』の調査
レアが魔王と相打ちになった森。あの後この森は『賢者の森』と呼ばれるようになったらしい。また、レアの屋敷は賢者ファンの『聖地』となっているそうで、他国からの観光で屋敷の前を通るコースもあるそうだ。さながら聖地巡礼である。しかも今は賢者レアが帰ってきている。ひと目その姿を見ようと、国内の人達も集まってくる始末だ。
「まさか地下から森の中に繋がる通路があるとは……」
アルバンは先行するレアを後ろからついて行きながら言う。この地下通路は、貴族になってから賢者のファンによって屋敷の門前が塞がれてしまった時のために用意したものだ。森で初めてアルバン達に出会った時にも通ったが、あの時は色々と急すぎた。改めて通ると思うところもある様だ。
「森の中の『小屋』はうまく隠してるから、今の所はバレてないみたいね」
「アレを『小屋』と呼ぶのは憚られますがね」
「精霊王が『小屋』って言い張るんだもの」
私だってあそこは『小屋』ではないと思うよ?でもくださった人が『小屋』と言っているんだから、そのままにしておくべきだろう。
ドアを潜り小屋の中に入る。ここは精霊達が常にいるため、400年経ってもあの時のままになっている。
『レア〜!!』
『遅いよ〜!!』
「はいはい。
とりあえずここを拠点にして、魔獣の事も調べましょう」
「では、まずは魔獣の捕獲からですね」
『え〜!!私達とお話しようよ!!』
『400年もお留守番してたんだよ〜!!』
「分かってるわよ。とりあえず魔獣を捕まえてからにさせて」
目の前には鬱蒼とした森が広がっていた。400年前ではあり得なかった程の魔獣の気配を感じる。
『魔獣捕まえるの?』
『最近、この辺りの魔獣変だよ!』
『危険!!』
「やっぱり変化が起きてるのね。昔は初心者の冒険者が先輩冒険者と一緒に魔獣討伐の練習をするくらいの場所だったのにね」
「今は新人じゃ難しいでしょうね。スモールモンキーはすばしっこいですし、ブラックボアはあの突進力に適応できませんから」
アルバンは言う。新人の冒険者がまず討伐するのはスプリングラビットかスライム、ゴブリンといった所だ。そういった魔獣しかいなかったはずなのだ。あまりこの小屋から出ない精霊達でさえ気が付くくらいの異変がこの森では起きているのだろう。
「ん。早速ブラックボアだな」
アルセーヌは【索敵】を使って魔獣の分布を調べる。現在の位置はレアが魔王と戦った場所からさらに奥に進んだ所。森の中心部だ。
「この辺は安全だから安心してたんだけどなぁ」
「今はここまで入るのにも実力が必要です。俺達でもかなりの準備をして突入しますから」
「結構な数いるね。これは元からいた魔獣も調べた方が良さそうね」
レアはロングソードを抜く。スモールモンキーやブラックボアが追加されただけでは説明し切れないくらいの数の魔獣が索敵に引っかかる。
「生け捕りは私がやる。アルバン達はとにかく素材の確保優先で。生きていなくても魔石から調べられるから」
「「「「「はっ!」」」」」
こうして拠点を離れすぎない様に調査する。アルバン達はとにかく数の多い魔獣を討伐して数を減らす。魔石さえ手に入れば最低限の調査は出来るらしいから。というのも、アルバン達にとってはこの森の最深部に入った経験も少なく、討伐さえ一苦労なのだ。その上に生け捕りは困難を極める。
一方レアはサクサクと魔獣を討伐。各種魔獣を番で生け捕りにしている。生け捕りにする魔獣は全て空間魔法の中に突っ込んでいるが、あれはワープの一種だろう。一体どこに送還しているのか。
『レア!もう地下牢いっぱいだよ!』
『もう入んない!』
「そう。結構数も減ってきたね」
レアはロングソードをしまって言う。索敵を使うが、近くには魔獣の気配がなくなった。ほぼ殲滅と言って良いのではないだろうか。
「これでこの森の魔獣の数は少し減るのではないでしょうか」
デジレは周囲を警戒しながら言う。深淵の周辺には索敵に引っかかる魔獣がいない。これで少しは安全になったら良いが。
「あとは繁殖力を調べないとダメね。それによって今後のここでの討伐を考えないといけないし」
「繁殖力によっては定期的に討伐しますか?」
「レベル上げにも役立つからね。まだ1000にはなってないでしょう?」
「そもそも500にもなっていません……」
現在の最高レベルはアルバンで300レベルだそうだ。400年前は冒険者なら500レベルを超えて初めて一人前の冒険者と言われた。まさか500レベルになってないなんて……
「流石に予想外ね……。500は超えてると思ってたわ」
「ちなみにレア様は……」
「復活してすぐ見た時には2000だったわね。この辺の魔獣じゃあレベル上げにならないわね」
上がったとしても1レベルかな。これだけの数と定期的に戦闘したらアルバン達なら500にはなるんじゃないだろうか。
「に、2000……」
「流石は賢者様……!」
「どれだけの戦いに身を置いたらそこまでになるのですか!?」
「スタンピードを何回も経験しないと達しなそうだな……」
「最高ランクのダンジョン周回とか?」
何だか混乱しているが、そこまで危険じゃないわよ。
「そう何回もスタンピードなんて起きないし、ハイランクダンジョン周回したって作業になっちゃうからつまんないわよ。私は討伐以外は魔力循環してたわ」
「魔力循環?」
デジレ、ドロテ、アルセーヌはキョトンとしている。嫌な予感がする。
「もしかしてやってないの?」
「……そんなに大事ですか?」
うわぁ……そうきたか……。魔力循環とは魔法の基礎訓練の一つで、主に魔力操作を覚えるための方法でありその過程で魔力量とレベルが上がるのだ。
「魔力循環をしたら、魔力操作の向上と魔力量が上昇して、レベルも上がるでしょ」
「確かに上がりますが……」
「微々たるものですよね?」
「続ければ補正が入って、上昇率も上がるのよ。魔力循環でレベルを10、魔力量は20上げるごとに上昇率も上がるの。最初は魔力循環でレベルを一つ上げるのに丸一日かかったけど、今の私なら1時間もかからないんじゃないかしら」
これは武術でも同じだ。武術は基礎訓練をすると体力が、瞑想をするとレベルが上がる。
「そこから教えないと駄目ね。仮にもお抱えのパーティだし、王国に何かあった時には派遣するんだから、せめて全員500レベルにしないと」
アルバン達は目を丸くする。
「お抱えにしてくださるんですか?」
「今更?最初からお抱えのつもりだったし、奴隷じゃないって言ったじゃない」
「あ、まあ、おっしゃってましたが……」
「賢者様はお優しいですから……」
「奴隷という表現が嫌なだけかと思っていました」
「呪縛紋がお嫌いだというお話しは、よく伝承でも知られていますし」
確かに『奴隷』という表現そのものも『呪縛紋』も好きではないけどさ。
「別にあなた達を奴隷にしたいわけじゃないもの。奴隷が欲しいなら奴隷商から買うわよ。必要もないし」
奴隷は使用人以下の使い方をする人が多い。警備もあり得るが、いくらレベルがそこまで高くはないとはいえ国王お抱えの冒険者達を奴隷扱いはしない。
「私のお抱えにするなら『最強』の名に相応しい冒険者に育て上げないとね」
レアはアルバン達を見回す。
「しばらくは、ここで調査するために籠るわ。その間、この周辺で魔獣の駆除をする事。そして毎日瞑想と魔力循環をする事。全員レベルを500にする事。以上3点を課題とします」
「「「「「はっ!」」」」」
「では、散開!」
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