エピソード6 勝手に婚約なんて許せない!
次話は、12時にアップします。
次の日、ベッドで休んでいる私の元に、宮廷魔導士がやってきた。
「ごきげんよう、シャローラ様。私は、宮廷魔導士のドナシエルと申します。今日から、治療を担当させていただきます。」
彼は、目を閉じたまま私のベッドの横に歩み寄った。
銀色の長髪。
白い絹のローブ。
まるで女性の様な美しい顔立ち。
私は、閉じたままの彼の目を、じっと見つめた。
「ああ、失礼。気になりますか?私の目は見えておりませんが、魔力で全てを感知しております。安心して治療を受けて下さい」
彼は、私が目を見ていた事に気がついていた。
宮廷魔導士のドナシエル様と言えば、回復魔法と薬学の専門家として有名だった。
目が見えないという噂が本当だと知って、ついつい見つめてしまったのだ。
「失礼します」
彼は、私の肌より白く、細い指で脈を取り始める。
「確かに病の気が巡っております。しかし、あなたは強い方だ。これだけの悪い気に打ち勝ち始めている…」
彼は、私に向けて、もう片方の手をかざす。
暖かい光が発せられ、私の身を包む。
なんだか、体が楽になった気がする。
「さあ、後は私の処方を、朝晩飲んで下さい」
彼は、そう言って手を下げる。
「ありがとうございます」
私は、効果を実感して礼を言った。
「この病気は、完治まで、しばらくかかります。ゆっくりと、お休み下さい」
彼は、立ち去ろうとする。
ベッドで退屈していた私は、ついつい気になる事を聞いてしまった。
「ここに私を連れてきたのは、ルーベルト王子ですか?」
彼は、立ち上がるのをやめて、私の話に耳を傾ける。
「そうですね。随分と取り乱されておいででした」
ドナシエル様は、そう答える。
「助けていただいたのは、ありがたいのですが、シスターである私を後宮に攫うとは、少々乱暴なのでは?」
私は、不満を打ち明ける。
「彼の母親は、あなたと同じ病気で死んだのです。それに、あなたは彼の母親に、とても似ておられる。彼女も、私が救えればよかったのですが…未熟な私には無理でした」
私の質問の答えになっていないような事を言って、彼は目を伏せた。
ルーベルトに同情しろというのだろうか?
それにしても、この方、一体いくつなんだろう?
そんな昔から宮廷魔導士だったのかしら。
私と同じくらいにしか見えないけど。
「まあ、あのルーベルト王子なら仕方ないですけどね!」
私は、布団にくるまって、そっぽを向いた。
いつも私に謝ってばかりで、何でも私の意見を聞いたルーベルト。
それなのに肝心な事では絶対に私に譲らない我儘王子。
「とにかく早くよくなって、王子と正式な婚礼が出来るとよいですね」
ドナシエル様は、とんでもない事を言って去ろうとした。
「なんですってぇええ!ゲホッ、ゲホッ!」
ベッドから飛び起きた私は、興奮しすぎて咳き込んだ。
「ああ、ご無理なされてはいけません」
ドナシエル様が、あたふたする。
「王子と婚礼とは、どういう事ですか?」
私は、彼を問い詰めた。
「あなたは、王子の婚約者として、ここに迎えられております。王も、あなたの御両親も了解していると聞いておりますが」
彼は、動揺しながら言う。
私の知らないところで、勝手に婚約とは一体何だ?
一瞬でも同情した私が馬鹿だった。
あの、くそったれ王子め!
絶対に許さない。
私は、拳を握りしめた。
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