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エピソード42 婚約後の夜

「無茶苦茶疲れたー!」


 私の屋敷に向かう馬車の席で、私は足と腕を両側に大きく広げてリラックスする。

 二人共、ぐったりしていた。

 馬車には、もらってきた生花が沢山積まれている。


「でも、今夜くらいは二人でゆっくりすごしてあげてもいいかな。今日は、お疲れ様ルーベルト」


 私は、言った。


「珍しい事を言うじゃないか。それは嬉しいが、多分無理だな」


 ルーベルトが、笑う。




「お!主役の御帰還だ!」


 屋敷についた私達を迎えたのは、親戚達にオーレッド公爵夫妻、店の従業員達だった。

 みんな完全に出来上がっている。


「あらまあ、いい男ね。これ、うちで出来たの!持って帰りな!」


 親戚のおばちゃんが、ルーベルトに布袋を渡す。

 中には、土つきの芋が入っている。


「ありがとうございます」


 ルーベルトが、苦笑いしながら受け取る。


「さあ、どうぞ」


 アンナが、私達にサンドイッチを差し出す。

 ろくに食べていない私とルーベルトは、それをガツガツと食べる。

 二人で食べ物に、がっついたのは子供の時以来だ。


「ふー、生き返ったあ!」


 私達は、ソファでリラックスする。

 周囲では、ガヤガヤと飲み会が続いている。

 結局、明け方まで付き合う事になった。



「…!」


 私は、ベッドの上で目を覚ました。

 周りには、貰ってきた花が沢山置かれている。


「ふふふ、私、婚約したんだった」


 私は、その花を一つ手に取り、ニヤニヤしてしまった。


「おはよう、シャローラ」


 私の横で、寝巻姿のルーベルトが上半身を起こして、私を見ている。

 一緒のベッドで寝ていた様だ。

 もう時刻は、昼になっていた。


「記憶が無いので一応聞いておくけど、私達、何もなかったよね?」


 私は、おそるおそる聞いてみる。


「さあ、どうだろうな」


 ルーベルトは、思わせぶりに笑った。

 しかし、何も無かったのだ。

 こんな態度でも、私に対しては小心者のルーベルトに何か出来るわけがない。


「うふふ、今日から婚約者だね」


 私は、笑った。


「そうだね」


 ルーベルトの綺麗な顔が、キスをしようと近づいてくる。


「あー、そういうのはいいから」


 私が、それを制止する。


「よし!じゃあ、書類を整理するわよ!」


 私達は着替えると、沢山舞い込んだドレスや服、装飾品や化粧品の注文を確認していく。

 ショーで使われていたものと同じものが欲しいという注文が殺到している。

 整理して、発注しなければならない。


 次に、頂いた祝い品の山を整理する。

 大体の額をチェックして、お礼の手紙と返礼品を用意しなければならない。


「こんなに鏡や食器ばかりいらないわ。どうして、祝い品って被るのかしら。現金で欲しいわ!」


 同じ物が多くて、私は文句を言う。


「婚礼の時には、現金も貰えるさ。人の行為を悪く言うものじゃないよ。いらないものは、親戚や従業員に、おっそわけしよう」


 ルーベルトが、包み紙をまとめながら言う。


 私達はオーレッド公爵夫人のアドバイスで、婚約後に休暇を取っていたのだが、正解だった。

 こんな状態では、いつもの仕事は出来ない。

 数日、この作業に追われた。




「うひょー!凄い綺麗な海!!」


 馬車の中から、外の景色を見て私は叫んだ。

 休暇の後半、私達は海のあるイリディア王国のリゾート地、シテリア島に婚前旅行に来ていた。

 ブロワーヌ王国からも近く、人気のリゾート地だ。

 眼前には、青い海と白い砂浜が広がっている。


「王太子との結婚だったら、こんな事出来ないからねー!ある意味良かったわ!」


 私は、言った。

 しかし、疲れは全然とれていない。




「きゃー!夢にまで見た新鮮な生牡蠣とシテリア名産のレモンよ!」


 その日の昼食に、生牡蠣のレモン添えがテーブルに並ぶ。

 私は、それを白ワインで次々と流し込んむ。

 他にも生のマグロやウニ、リコッタチーズを使ったスイーツなどを楽しんだ。


 しかし、その日の晩、私は強烈な脱水症状に見舞われた。

 やはり疲れがとれていなかったのだ。

 暴飲暴食に体がついていかない。


「きぼち悪いぃいい」


 ホテルのベッドで、うつぶせになったまま動けない。


「注射してもよろしいですかな?」


 ルーベルトが連れてきた医者が、大きな注射器を持って、横に立つ。


「構いません、お願いします」


 ルーベルトが言う。

 きゃー!やめてー!


 医者が、私のスカートをまくり上げて、お尻に注射針を刺す。


「ぎゃー!いたーい!」


 私は、悲鳴を上げた。


 こんな事で、初めてルーベルトに下着姿を見せるとは情けなさすぎる。

 しかし、背に腹は変えられない。


「そんな、大袈裟な…」


 ルーベルトが、ぼそりと言う。


「素直に痛いって言った方が、楽なのよ!その態度、優しくなーい!」


 私は、ルーベルトに抗議した。




 うつぶせになったまま、朝まで過ごした私は、まだ体調が優れない。


「もう帰るか?」


 ルーベルトが、私に聞く。


「嫌よ!絶対海に行く!」


 私は、なんとか立ち上がる。




「はぁー、湖もいいけど、海は最高ね!」


 二人で白いボートを使って海に出た。

 海の透明度が高く、海底が透けて見える。

 まるで空を飛んでいるようだ。


 日差しは強いが、風は爽やかだ。

 私は、飛ばされないように白いストローハットを押さえる。


「ああそうだな。来てよかった。君が喜んでくれて嬉しいよ」


 ボートを漕ぎながらルーベルトが、言う。




 この後私は、チーズたっぷりのピッツァを食べすぎて、また動けなくなる…。

 そんなこんなで、私とルーベルトの婚前旅行は終わった。

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