エピソード40 普通すぎる朝と初めての告白
婚約お披露目舞踏会前日、私の屋敷には両親と親戚が集まっていた。
いつものように店での仕事を終えた私は、そこに戻ってきた。
「主役が戻ってきたね!」
「おひさしぶり、シャローラちゃん」
リビングで夕食を食べている親戚と両親が、私を待ち受ける。
私の親戚は、貴族ではない。
しかし、親族という事で、特別に舞踏会に招かれている。
彼等のドレス等は、私の店からレンタルする予定だ。
私の父の屋敷でも、いつも見られた親戚たちと両親のやり取り。
何の緊張感もない祝い事の前の風景。
おかげで、私もリラックス出来る。
母とアンナが、親戚達の世話で走り回っている。
貴族になったというのに、母は貧乏性だ。
私は、ベッドに潜り込む。
明日は、婚約発表だが、両親に挨拶とかしておくべきなのだろうか?
しかし、婚礼でもないし、うちの家に入るのはルーベルトだ。
私が出て行くわけでもない。
暗い天井を見つめながら、そんな事を考えた。
まあ、特別何もいらないよね。
そう思った私は、眠りについた。
朝、私はすっぴんのままリビングに向かう。
メイクは、向こうでばっちりされる予定だ。
何も今からする理由が無い。
リビングでは、父と親戚が談笑している。
アンナと母は、相変わらず親戚達の世話で忙しそうにしている。
「シャローラ様。ルーベルト卿が迎えにいらしております」
アンナが、私に声をかける。
「じゃあ、いってきまーす」
私は、適当に朝食を済ませると。
まったく緊張感のない挨拶をして、外に向かう。
結局、特別な挨拶も何も無かった。
いつもと同じ調子で、外に待つ馬車に乗り込む。
馬車の中には、ビシッと決めたルーベルトが座っている。
何も、こんなところから頑張らなくても…。
そう思った。
「おはよう、シャローラ」
ルーベルトが、笑顔で言う。
「ふあーい、今日は、よろしくぅ~」
私は大きなあくびをして、適当に返事をした。
何か言わなければいけないと思っていたのだが、完全に忘れてしまっていた。
「今日も、綺麗だよシャローラ」
ルーベルトが、そう言う。
「ありがとー」
こいつは、私の子供の頃からの姿を知っている。
メイクしてようと、してなかろうと同じ事を言うのは昔からだ。
女の努力を何も分かってない奴。
馬車は、ランシール宮殿に向かう。
今頃、リリアンヌ宮殿では、レオドール王太子とミネルヴァ王女の婚約発表が行われているはずだ。
宮殿についた私は、慌ただしく準備を始める。
パニエをつけて、メイド達がドーナツの様に広げたスカートの中に飛び込む。
ここで着るドレスは、古い形の白のドレス。
ロイヤルウェディングは逃したが、清楚なイメージで見られたい。
顔と髪のメイクが、数人の手で同時に仕上げられていく。
ここぞとばかりに。最高級の化粧品が使われている。
髪飾りに大きな青い薔薇の生花が付けられる。
とても高価なものだ。
支度の終わった私は、スカートを踏まない様に少し前に蹴り上げながら、ルーベルトの元に向かう。
モーニングコートを着たルーベルトが、私を待っている。
「なんと美しい。君と今日、婚約発表が出来る僕は世界一の幸せ者だ」
ルーベルトは、私にそう言った。
どんなもんだい!と心の中で思ったが、それを表情には出さない。
私は、少し微笑みながら、彼のエスコートで宮殿のバルコニーに出た。
宮殿の庭には、沢山の人が集まっており、私達に祝福の拍手を送る。
ルーベルトが、彼等に手を振る。
私も、控えめに手を振った。
見回してみると、私の店の従業員達も、来てくれている。
私は、そちらに視線を送りながら手を振る。
中に下がった私達は、用意された会見室で赤いソファに座り、記者達の質問を受けた。
二人で成長していきたいだとか月並みな事を言ったのだが、何も思い出せない。
記者が最後に、ルーベルトに私を愛しているか?と聞く。
「愛しています。それを彼女が望まなくても、私が彼女を離す事はありません」
実にルーベルトらしい返事をした。
私は、つっこみを入れたかったが、この席でだけは許してやる事にする。
次に、記者が私にルーベルトを愛しているか聞く。
しまった!
事前にルーベルトに気持ちを伝えるつもりだったのに、最初がこんな席になってしまった。
「あーあ―あー…」
私は慌てて、なかなか言葉が出ない。
「あいちゅています。しゅきです」
やっと、そう言った。
私は、思いっきり噛んだ。
しかも、子供みたいな事を言い方で。
やってしまったあ!ルーベルトに最初に思いを伝えるつもりが、変な事になってしまった。
記者達が、無言で私を見つめる。
穴が、あったら入りたい!
「はっはっは!!実に君らしい。初めて言ってくれたね!とても嬉しいよシャローラ」
ルーベルトが、大笑いしながら言う。
初めてとか、ばらすんじゃないわよ!
もう、一生言ってやらないんだから!!
ここで怒ったら負けだ。
私は、精一杯の笑顔で誤魔化した。
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