エピソード32 シャローラ、お前は何を言っているんだ?
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遂に、待ちに待った日がやってきた。
ルーベルトが、帰ってくる。
王子の帰還を出迎えようと、大通りには沢山の人が集まっていた。
私も、その中に入る。
やがて、王都の入り口から城に向かって、沢山の護衛に守られたオープントップの白い馬車がやってくる。
赤い立派な席に座るルーベルトとミネルヴァ王女が、街の人々に手を振る。
美男美女のカップルに、通りの人々から溜息と歓声が起きる。
「何という美しいカップルだ!」
「このような、お似合いの二人を見た事が無い!」
人々は、口々に二人を称える。
私は、精一杯、ルーベルトに手を振る。
彼が私に気がついて、少し長くこちらに手を振ってくれた…気がする。
どうしてだろう?
彼が帰ってきたというのに、少し寂しい気持ちになってしまった。
その日の晩、いきなりルーベルト王子が一人で屋敷にやってきた。
もっと後になるだろうと思っていたので、びっくりする。
「シャローラ!!」
屋敷の入り口の扉を開けたルーベルトは、いきなり私を抱きしめた。
私は、なんともいえない懐かしいような幸せな気分になった。
「色々話す事があるが、とにかく安心してくれ。私が全て何とかする!」
彼は、私を離すと、肩を掴んで言った。
「ルーベルト殿下、ミネルヴァ王女との婚約おめでとうございます。心から祝福いたします」
彼の言葉に被せるようなタイミングで、私は準備していた言葉を口にする。
「はあ?シャローラ、お前は何を言っている?いや、これは仕方ないのか?どこから話せばいいのやら…。とにかく、そんなものは破棄だ!」
彼は早口で、まくしたてた。
どうやら、話す事が、うまくまとまっていないらしい。
「何を言っているんです?両国の平和の為に覚悟を決めてきた王女の気持ちを、ないがしろにするつもりですか!?」
私は、彼の剣幕に何故か少し怒ってしまった。
「大丈夫だ。当然、彼女の気持ちは尊重する。全て王女の希望通りにするつもりだ」
ルーベルトは、そう言う。
「何言ってるの?だったら、婚約破棄なんて出来ないじゃない。意味が分からないわ!ばっかじゃないの!?」
私は、完全に頭に血が上る。
「話す事が多いな!だから、俺は王女とは結婚しないし、王女は王妃として迎えるし、君だけが俺の妻になる。前にも約束した通り、君は商売を続けられる。誰も不幸せにはしない!」
彼は、それに応えて大きな声で言った。
「何、馬鹿言ってるの!?無茶苦茶言わないで!」
私は、矛盾だらけの彼の話に納得がいかない。
「だから…こういう事だ」
彼は、私の耳元で、ひそひそと説明する。
「は?」
その、突飛も無い計画に、私の目は点になる。
「本当に、そんな事が出来るの?」
私は、呟いた。
「大丈夫だ。私が誰だと思っている」
ルーベルトが、胸を張る。
「見た目と行動力だけが取り柄のストーカー」
私は、素直に答えた。
「くう、まだ、そんな風に思われていたとは」
彼が、手で頭を押さえる。
「だって実際そうだし、余計な事をして事態を悪くしそう」
私は、視線をそらして言った。
「さすがに言いすぎです、お嬢様。何だかんだいって、王子に助けてもらっているのでは?」
後ろにいたアンナが、私に苦言を言う。
私は、修道院での出来事から今まで、ルーベルトに助けてもらった事の数々を思い出した。
「確かに…本当に出来るの?」
私は、考えを改めた。
「大丈夫だ。任せておけ。必ず、君の希望通りになる。大体、我儘な君が、本当に第二夫人でいいのか?」
ルーベルトが、言った。
「は?私の事、我儘だって思ってたの!?」
私は、ちょっと怒った。
「いや、大事なのはそこじゃなくて…」
ルーベルトが、たじたじになる。
「第二夫人なんて嫌よ!両親やオーレッド公爵夫人、店の従業員のみんなには、最高に喜んでもらいたい!それに、ルーベルトは、私だけのものよ!でも、王女の覚悟を聞いたら、尊重しないわけにいかないじゃない!」
私は、自分の気持ちをぶちまけた。
「ルーベルトは、誰のものだって?」
ルーベルトが、ニヤリと笑った。
「知らないわよ」
失言に気付いた私は、そう言って誤魔化した。
「だったら、俺に任せてくれ。必ず君だけと結婚する」
彼は、もう一度、私の両肩を掴んで言う。
「分かりました。もう、好きなようにして下さい」
私は、彼の自信満々の態度に負けた。




