エピソード31 王女との対話
「ふふふーん」
私は、鼻歌まじりで出勤の為の身支度をする。
「本当に大丈夫なんですか、お嬢様?」
ミネルヴァ王女とルーベルトの婚約の話を聞いたアンナが、そんな私を見て、心配そうな顔をする。
多くの者が、既に王女とルーベルトの婚約話を知っている。
既に街の噂になっているのだ。
「全然平気よ。なーんにも気にしてないから」
私は、そう言って部屋を出ようとする。
「あいた!」
タンスに足をぶつけて、思わず声を出す。
「気をつけて下さいね、お嬢様」
アンナが、あきれた顔をする。
「ははは、行ってきます」
私は、笑いながら部屋を出た。
店のカウンターで書類に目を通していた私は、従業員の後輩達が、ざわざわとしだしたのを感じた。
顔を上げると、入り口にミネルヴァ王女と、その護衛の者達数人が立っている。
王女は、いつも通りの地味な恰好。
お忍びの来店だろう。
店の空気が凍り付いていくのを感じる。
「いらっしゃいませ!」
私は、笑顔で王女の元に駆け寄る。
顔が少し引きつっていた。
ミネルヴァ王女は、突然私を抱きしめた。
「こんな事になって、ごめんなさい、シャローラさん。あなたとは、早くお話ししたかったの」
王女は、私の耳元で、そう言った。
「いいんです、ミネルヴァ王女殿下。事情は察しております」
私は、そう返した。
ぐっとこらえたが、少し涙目になってしまった。
王女と護衛の方々を、店の奥の応接室に通した。
王女と私は、ソファに向かいあって座り、話を始める。
「まず、これだけは、お話ししておかないと。ルーベルト王子との婚約の件は、両王家が決めた事。私とルーベルト王子が、どうこうなったわけではありません。彼が愛しているのは、あなただけです」
ミネルヴァ王女は、そうはっきりと言ってくれた。
そこで、堪えてきた涙が、溢れ出てしまった。
ルーベルトは、私を裏切っていない。
彼の気持ちは変わっていなかった。
少しでも彼を疑っていた自分を恥じた。
「私は、両国の平和の為に形式的な王妃となるだけです。私は一生、王子との関係を持ちません。あなたと王子の愛を邪魔するつもりは、一切ありません」
王女は、そう言った。
「はい…こんな私の為に、ありがとうございます」
私は、素直に思った通り話した。
「あなたとは、この国の後宮で長い、お付き合いになるでしょう。お友達として、ずっと仲良くしていただきたいの」
王女は、にっこりと笑った。
私は、ルーベルトが心変わりしていない事と、王女の覚悟を聞いて、他の事はどうでもよくなってしまった。
彼女は、女としての幸せを捨てて、両国の平和の礎になろうとしている。
これほど素晴らしい方を恨んだり出来るだろうか?
私には、そんな事は出来ない。
「全て了解いたしました。私は、王女とルーベルト王子の結婚を祝福します」
私は、そう言った。
「私も、あなたとルーベルト王子の結婚を祝福いたします」
王女は、そう言ってくれた。
私は店で、王女が身に付けるドレスや装飾品を選ぶのを手伝う。
「本当に、あなたの作るドレスは素晴らしいわ。こんなドレスを着た方々がいるブロワーヌ王国の社交界は、とても華やかなのでしょうね」
王女は、そう言った。
「王女ほどの美しい方ならば、引けを取る事はないでしょう」
私は、そう返す。
「あなたも、とても美しくなられた。以前とは全然違います」
王女が、私を褒める。
「いいえ、そんな…」
私は、恐縮してしまう。
「まるで、本当の姉妹の様です。今のシャローラ先輩は、王女に引けを取らぬ美しさをお持ちです!」
後輩の一人が、そう言ってくれた。
「これほどの美人達と同時に結婚するルーベルト王子は、世界一の幸せ者です」
私へのフォローのつもりなのだろう。
もう一人の後輩が、私にそう言う。
いいのよ、もう私は気にしてないんだから。
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