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エピソード30 婚約の知らせ

 ルーベルトの身柄を、ミネルヴァ王女に預けて数日後。

 彼がインぺリア王国にいる事が、正式に発表された。

 負傷の治療の為の滞在であり、半年後には必ず戻ると国民に知らされた。


 私とルーベルトは、レオドール辺境伯とミネルヴァ王女を通じて、何度か手紙のやりとりをした。

 待つ日々は長かったが、行方不明の時に比べれば気は楽になっている。


 私の名は、不運のプリンセスとして通っている。

 そんな柄ではないのだが、有名になるのは商売にとっては好都合だった。

 私の店とブランドは、どんどん有名になり、貴族の娘の間で大流行になりつつある。


 ある日、いつもより少し暗い顔をしたオーレッド公爵夫人が、店に現れた。


「シャローラさん。大事な話があります」


 公爵夫人は真剣そうな顔で、私を見つめてくる。


「何ですか?そんな顔して」


 公爵夫人と、すっかり仲良しになっていた私は、気楽に返す。


「ちょっといいから、こっちに来なさい」


 公爵夫人は、私をスタッフルームに引っ張り込む。


「大事な話だから、ちゃんと聞きなさい」


 公爵夫人は、そう言った。


「はい?」


 私は、少し背筋を正して聞く。


「ルーベルト王子が、もうすぐ、この国に戻られます。ミネルヴァ王女の半年間の献身的な看病と、聖女の力で足も無事に治ったとの事」


 公爵夫人は、真剣な目で私に言う。


「本当ですか!?」


 その言葉を聞いて、私は急に足元がフワフワしてくるのを感じる。

 なんとも幸せな気分になった。


「もう一つ大事な話が」


 公爵夫人が、私の幸せそうな様子を見ても、顔色一つ変えずに続けた。


「ブロワーヌ王国とインぺリア王国は正式な停戦条約を結び、ルーベルト王子とミネルヴァ王女の結婚を発表します。これを持って、両王家の血の結びつきは更に強くなり、平和がもたらされるだろうとの事です」


 公爵夫人は言い終わると、私の目をじっと見つめて反応を伺ってきた。


「はあ…まあ、そうですよね。王女様が半年も看病してくれたら、そういう関係になりますよね。おめでたい話ですわ」


 私は、何故か悲しいとか怒るとかいう感情は出てこず、素直にそう返してしまった。


「もちろん、王家が一度約束した、あなたと王子の婚約を破棄する事はありません。ミネルヴァ王女は、王太子妃に。あなたは、第二夫人として迎えられます」


 公爵夫人が、淡々と説明を続ける。


「あー、良かった。これで、私の家も面子を失わずにすみますわ。お金で子爵の地位を買った家の娘ですもの。王太子妃は、身分に合いません。第二夫人でも、勿体ないくらいです」


 私は、すらすらと答える。


 そうなのだ。

 この半年、こんな事が起きるのでは?と、心の中で思っていた。

 その時の返事まで考えてしまっていた。


 今は、ルーベルトが元気で帰ってきてくれれば、それでいい。


 もう、心の準備は出来ている。

 だから、私は平気。


「あなた、本当に分かってるの!?」


 公爵夫人は、怒って言った。


「分かってますとも。第二夫人なら、面倒な王家の儀式や行事に出なくていいだろうし、商売も続けやすいかも。むしろ、私にとって好都合ですわ」


 私は、笑顔で返す。


「バカヤロー!」


 公爵夫人は、急に私を引っぱたいた。


「なっ!」


 私は、驚いて公爵夫人の顔を見る。


「ルーベルトの思い人が、こんな腰抜けだったなんて!あなたは悔しくないの!?私は、悔しい!まさか、政略結婚で彼を持っていかれるなんて!ルーベルトが、あなたを愛しているのは知っている。だから、あなたは許すわ。でも、知らない王女と政略結婚なんて…。私が、どれほど長い間、彼を思ってきたか知ってるの?」


 公爵夫人は、泣き出した。


「でも、仕方ないじゃないですか。両国の平和の為には必要な事。それに半年間の看病で、きっとルーベルトと王子は愛し合うようになっているはず。だって、命の恩人ですよ?もう、私には、何も言えません。だって、王女の方が私より魅力的で、素晴らしい方なんですもの…」


 不安も悲しみも、半年のうちに充分味わってきた。

 私は、もう納得してしまっていた。


「例えそうだとしても、あなたには貴族の娘、それも子爵の娘としてのプライドはないの?」


 公爵夫人が、言う。


「元は平民の出ですし、一国の王女相手に何も無いです」


 私は、うなだれて言った。


「…」


 それを聞くと、公爵夫人は、黙って店を去っていった。




 数日後、両親が私の屋敷に尋ねてきた。

 応接間で、これからの事を話す。


「たとえ第二夫人でも、栄誉な事だ」


 両親は、そう言ってくれる。


「我が家は、この国の貴族の中でも豊かな家だ。必ず王女に負けない婚礼道具と祝いの品を用意するぞ。お前に恥をかかせる事はない」


 父は、そう言って私を元気づけてくれた。


「そうよ、第二夫人は公妾と違って跡継ぎを産めば、子供には王位継承権が認められます。ルーベルト王子の、あなたへの愛は本物。一番の寵愛を受けるに違いありません。まだ負けたわけではありませんよ」


 母が、言う。


「ちょっと今から恥ずかしい事言わないでよ、母さん」


 私は、少し嫌そうな顔をした。


 それも、きっと駄目よ。


 私と似た顔をしたミネルヴァ王女。

 ルーベルトが私を気にいった理由は、先代の王妃様に似ていた事。

 王女は、その姪。


 きっと王女は、もっと先代の王妃様に似ているに違いない。

 それは姿だけでなく、王家の者としての高貴さや所作にも表れているはず。

 とても私では、かなわない。


 きっと今ではミネルヴァ王女の方を、より愛しているはず。


 でも、両親が私を気遣ってくれているのが分かって嬉しかった。

 大丈夫、私はもう納得しているから。

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