エピソード24 両親への挨拶
私は、ルーベルトと、オーレッド公爵夫人と共に、馬車で実家の屋敷に向かっていた。
「もう、婚約は周知の事実なので、今更挨拶なんていいのに…」
私は、馬車の中で、言った。
「色々な事が起こって挨拶が遅れてしまった。むしろ遅すぎたくらいだ。君の両親には、謝らねばならない」
ルーベルトが、言う。
確かに一方的な婚約だったが、今考えると、助けられたのは私の方だ。
しかも、私はまだ、ルーベルトに好きだとも愛しているとも言っていない。
それなのに、ちゃんと両親に挨拶をしてくれるというのは嬉しかった。
「私も、後見人として、あなたの両親に御挨拶しなければなりません」
公爵夫人が、続けて言った。
「公爵夫人は、余計な事を言わないで下さいね」
私は、念を押す。
「心配しなくて、何も言いませんよ!私は、大人ですので」
公爵夫人が、答える。
本当に大丈夫だろうか?
「我が娘の為に、わざわざ殿下が来て下さるとは」
応接室に私達を迎え入れ、父が言う。
母も一緒だ。
「ご挨拶が遅れ、誠に申し訳ありません。私が不甲斐ない為に、お嬢様に色々とご迷惑をお掛けしました」
ルーベルトが、深々と頭を下げる。
「いやいや、その様な事を気になさらずとも、とにかく座って下さい」
父が恐縮して言う。
私達は、ソファに座る。
「以前は、お嬢様に交際を断られておきながら、しつこい真似をしてしまい。非常に後悔しております。重ねてお詫びしたい」
ルーベルトは、再び頭を下げる。
「何を、おっしゃりますやら。この娘は、自分の気持ちすら分かっておらぬ馬鹿者なのです。シャローラは、あなたを充分、好いておりました」
父が、言った。
「そうですよ、昔は、いつも殿下の事ばかり楽しそうに話しておりました。毎年、殿下が来る時期になると、そわそわして…。殿下に渡す為に、お菓子を作ったりしていたのですが、恥ずかしがって、毎回渡せずじまいで」
母が、余計な事まで喋る。
子供の頃の話は、勘弁して!
「殿下が来なくなると聞いた時、1カ月は、ふさぎ込んでしまいまして」
父が、続ける。
あー!!誰か助けて。
それは子供の時の話で、しばらくしたら王子の事なんて、すっかり忘れてたのよ。
「あら、まあ、お可愛い事…。そんなチャンスを逃すなんて、なんて勿体ない」
オーレッド公爵夫人の冷たい視線が、私に突き刺さる。
「いいえ、お嬢様に嫌われたのは、全て私の責任と自覚しております。婚約後も、私の不甲斐なさゆえ、彼女に心配をかけてしまいました」
ルーベルトが、言う。
その通りよ!いつも間が悪いの。
どうして、私をちゃんと掴まえておいてくれなかったの?
私は、ぎゅっと目を閉じた。
「これからは、決して彼女を離しません。一生愛し続けます。どうか、お嬢様を私に下さい」
ルーベルトは、はっきり言った。
私は、彼の目を見る。
その目は、真剣そのものだった。
「あー、なんて羨ましい」
公爵夫人が、棒読みするように言う。
「もちろんですとも、最初から娘は、殿下に預けるつもりです」
父は、嬉しそうに言った。
「不服は、ありませんよね、シャローラ」
母が、確認する。
私は、無言で頷いた。
私が、ルーベルトに愛さないと言った事を両親は知らない。
だけど、彼は両親の前で、私を一生愛すると、はっきり言ってくれた。
その事を、両親も喜んでくれている。
それだけで、幸せな気持ちになる。
私は、心の中で、彼に感謝した。
よろしければ、評価とブックマークお願いします。
励みになります。




