エピソード22 ダンスレッスン
「これは、どういう事か説明していただけるかしら」
オーレッド公爵夫人が、私に言う。
私は、自分の屋敷の応接室で、婚約お披露目の舞踏会で着る白いドレスを着ていた。
相変わらず、少しきつい。
むしろ、前よりも太ってしまったかもしれない。
「最近、気苦労が多くて痩せていたはずなのに、どういう事なの?」
公爵夫人が、私を責める。
「すいません。安心したら、急に食欲が湧いちゃって」
私は、すまなさそうに言った。
「彼女は、このくらいの方が可愛いじゃないか」
公爵夫人の横にいた、ルーベルトがフォローしてくれる。
「駄目です!あなたの好みの問題じゃありません。私は、後見人として彼女を完璧な状態にする責任があるのです」
公爵夫人が、ルーベルトを、たしなめる。
「ドレスの方を直すというのは…」
私は、公爵夫人に提案する。
「シャローラさん…いやシャローラ姫。一国の王子の夫人となる自覚はあるのかしら?何なら変わって差し上げてもいいのよ」
公爵夫人の視線が、私に突き刺さる。
ぬぬぬ…。
私は、黙った。
「とにかく、無理のないようにな。女性の事は、女性同士で」
ルーベルトは、そう言うと部屋を出ていく。
あっ、逃げたし!
公爵夫人を袖にした事を気にしているのか、彼女相手では頼りにならない。
「これから、舞踏会まで、お茶の時の菓子は禁止。油物、甘い物は、控えていただきます」
公爵夫人!私の楽しみを全て奪うつもりなの?
彼女の言葉に、ショックを受ける私。
「はい、シャローラさん!もっと首を伸ばして!ホールドが緩まないように!」
公爵夫人の檄が飛ぶ。
屋敷の広間で、私とルーベルトはダンスの練習をしている。
もう、小一時間は踊り続けていて、私はふらふらだ。
ルーベルトは、額に汗しながらも、まだまだ余裕がある様に見える。
「やあ!頑張ってるみたいだね、兄さん、シャローラ」
部屋に入ってきたのは、レオドール辺境伯だった。
私とルーベルトは、足を止める。
「おい、私の婚約者を呼び捨てとは、気安すすぎないか?」
ルーベルトが、ちょっと嫌そうな顔をする。
「あら、いいのよレオドール辺境伯。あなたは、私の可愛い弟になるのだから。何なら姉さんと呼んでもいいのよ」
私は、レオドール辺境伯の手を取り、歓迎する。
「そうさせてもらうよ、シャローラ姉さん」
辺境伯は、屈託のない笑顔を見せる。
「シャローラ姫。それは、逆に失礼というものですよ」
公爵夫人が、私をたしなめる。
「いいんですよ、オーレッド公爵夫人。私達は、死線を乗り越えた仲なのですから」
レオドール辺境伯が、言った。
「そうですか、仕方ありませんわね。では、ルーベルト王子は休んで下さい」
公爵夫人が、言う。
「では、私も…」
私は、ルーベルトと一緒にソファに座ろうとする。
「何やってるの!あなたは、休んではいけません。次は、レオドール辺境伯と踊るのです!」
公爵夫人が、怒る。
「ひぃいい」
私は、悲鳴を上げた。
「可愛い婚約者が、弟と踊ってもいいのかしら?」
ルーベルトに助けを求める。
「いや、特に問題無いが…」
彼は、公爵夫人の方をチラッと見て、そう言った。
日和ったわね!この、裏切者!
「では、お相手しましょう!」
元気なレオドール辺境伯に、ダンスで必死についていく。
段々と、ついていけなくなって。腰砕けになってくる。
「大きなお尻を出すんじゃありません!もっと背筋を伸ばしなさい!」
公爵夫人が、扇子で私のお尻をペシンと叩く。
「はいぃ!すいません!」
私は、半べそかきながら、練習を続けた。
練習後、私達は、一緒に食事をする事になった。
私の前に置かれた料理だけ、明らかに少なかった。
これも、素晴らしい婚約お披露目にする為には仕方ない。
「ははは、子供の頃の宣言通りに、シャローラ姉さんとの婚約を決めて、何よりです兄さん」
レオドール辺境伯が、ワインを片手に言った。
「余計な事を言うな、レオドール」
ルーベルトが、ちょっと嫌そうに言った。
「聞いて下さい姉さん。兄さんは、子供の頃、シャローラさんと自分は交際している。将来は結婚すると言っていたんです」
レオドール辺境伯は、そう言った。
「お前、ちょっと酔ってるだろう?」
ルーベルトが、困った顔になる。
「ほう、私達、いつから、お付き合いしていたでしょうか?ルーベルト殿下」
私は、ルーベルトを、じっと見る。
「い、いや、それは子供の頃の話で…。ちょっと、かっこつけて言ってしまったというか」
ルーベルトが、私を見て言い訳する。
「愛を誓い合ったとか、二人で夜を共にしたとか…」
レオドール辺境伯が、面白がって続ける。
「それは、遭難しかかった時の話を少し大げさにだな」
ルーベルトが、慌てる。
「後で、二人でお話ししましょうね、殿下」
私は、ルーベルトに冷たい視線を送った。
「私とは、そんな話は何も無かったというのに、羨ましいですわ」
オーレッド公爵夫人が、ハンカチを噛んで悔しがっている。
「まあ、ルーベルト殿下だから仕方ないですわね」
私は、そう言って、溜息をついた。
「すまない」
ルーベルトは、少し小さくなった。
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