エピソード20 魔女の洞窟
次話は、16時にアップします。
私達は、ザッカーニ公爵の屋敷に到着し、彼に会う事になった。
ダニエラとルーベルトは出かけていて不在だったが、いきなり顔を合わせるよりマシだったかもしれない。
「この屋敷からは、害悪魔法の闇の気配を感じます。言い逃れは出来ませんよ」
ミネルヴァ王女は、屋敷が害悪魔法の闇の気で侵されている事にいち早く気がついて、公爵を問い詰めた。
この国にも、聖女の名声は届いている。
その彼女に反論する事は出来ない。
「娘を救っていただきたい」
公爵は、重苦しい空気の中、口を開いた。
疲労の色が濃く、疲れ果てた表情をしている。
王国でも1,2位を争う権勢を誇る彼だ、昔はもっと堂々としていたと思う。
「ダニエラの為だと思い、あらゆる我儘を許してきたが、最近は怪しい魔法使い達とも付き合うようになって…。あなた方が、おっしゃる通り、王子を精神操作魔法で篭絡していたとなれば、死罪でしょう。それだけは、なんとか許していただきたい」
公爵は頭を下げる。
娘に我儘放題させておいて、なんて勝手な話だろう。
とても許しておけないと言いたくなった。
しかし、元は可愛い後輩、死罪にまで追い込むのは心が痛む。
「娘さんが身を引いて下されば、害悪魔法の告発まではしません。ダニエラとルーベルトの居場所を教えて下さい」
私は、そう公爵に言った。
「構わないんですね?」
ミネルヴァ王女が、私に確認する。
「はい」
私は、答える。
「いいですか、公爵。なるべく穏便に済ませましょう。しかし、彼女と争いになれば身の保証は出来ません。覚悟はしておいて下さい」
ミネルヴァ王女が、公爵に念を押す。
「分かりました、王女殿下。娘とルーベルト王子殿下は、近くの山に散策に出かけると言っていました。ここのところ連日、同じです」
公爵が、ダニエラと王子の行き先を告げる。
「分かりました。お任せ下さい」
ミネルヴァ王女が、言った。
「あの子は、小さな頃から魔法の才能があり、なおかつ公爵令嬢としての強い誇りを持っていた。しかし、ここまで増長するとは…。あんな、我儘な娘にしてしまったのは私の責任です」
公爵は、深々と頭を下げた。
ザッカーニ公爵の言った山のふもとまで、やってきた。
私には、特に何も感じられない。
ただの里山の風景だ。
「危ない!」
レオドール辺境伯が、私の腰を抱えて引き寄せる。
「きゃあ!」
私は、思わず悲鳴を上げた。
「ドス!ドス!」
私のいた場所に、数本の矢が突き刺さる。
「刺客か!」
辺境伯と護衛の騎士達が、細身の剣であるレイピアを抜いた。
山の茂みの中から、20人ほどの顔をローブで隠した男達が現れる。
「下がっていて下さい。あなたは、私が守ります」
辺境伯が、言った。
「はい!」
私は、言われた通り後ろに下がる。
「あなたを傷つけたら、兄上に叱られます」
彼は、私を笑顔で一瞥する。
「…」
ミネルヴァ王女が、指を畳んで両手を合わせる。
すると、彼女の体から光が発せられ、矢を弾く。
王女と辺境伯の活躍は凄まじかった。
辺境伯の華麗な剣捌きと、王女の魔法で、刺客達は、瞬く間に倒されていく。
残った刺客は、這う這うの体で逃げ出した。
私達は、彼等の後を追った。
彼等が逃げ込んだ先は、山の中にある洞窟だった。
中は、暗くて見えない。
「この中から、魔法の気配を感じます。おそらく、この中にダニエラがいると思います」
ミネルヴァ王女は、言った。
私にも、洞窟から発せられる不気味な気配が感じられた。
背筋が、ぞっとする。
「参りましょう。あなたは、私が守ります。兄を助けましょう」
辺境伯が、そう言う。
「分かりました」
私も、決意を固める。
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