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エピソード16 魔法の罠

 私と公爵夫人は、実家近くの湖まで来ていた。

 二人共、緑と茶色の自然の中で目立たない服を身に付け、スカーフで顔を隠している。

 盗賊にでもなった気分だ。


 目の前には、ルーベルトと私の思い出の美しい湖。

 湖岸にある東屋で、ルーベルトとダニエラが、楽し気に話している。


 私と公爵夫人は、茂みの中からそれを覗き見ていた。

 どうせ断る見合いなのだから、そんなに楽し気に話さなくてもいいのに!

 私の心の中で、嫉妬心が、むくむくと大きくなる。


「あの娘、舐めた事を…」


 公爵夫人が、そう呟いて飛び出そうとする。

 私は、それを何とか止めた。


 ルーベルトとダニエラは、湖岸につないであったボートに乗り込んで湖に繰り出す。

 ああ、私とルーベルトの思い出を汚さないで!

 私は、ぎゅっと自分の胸元を掴んだ。


 湖に出たボートが、少し遠くなった時だ。

 ダニエラの目が、妖しく赤色に光った気がした。

 ルーベルトの体がボートの上で崩れ落ちる。


 私と公爵夫人は、スカーフを取って茂みから立ち上がり、そちらを見る。

 次の瞬間、更に信じられない事が起こった。


 ルーベルトは、むくりと起き上がり、ダニエラを抱きしめたのだ。

 ダニエラは、私の方を向いて、ニタリと笑った気がした。


「そんな…」


 私は、気が動転して、その場にへたり込んでしまった。

 そして、気が遠くなり、動けなくなってしまう。


「しっかりして、シャローラ!」


 公爵夫人が、私の上半身を抱き起して声をかける。

 しかし、私は動けなかった…。




 次の日、私は失意のまま、公爵夫人と共に王都の屋敷に戻った。

 そのまま何日か、店も休んで寝込んでしまう。


 聞くところによると、ルーベルトがダニエラの求婚を受けたそうだ。

 あれは、まぼろしではなかったのだ。

 私は、全ての希望を失ってしまって、ベッドから動けない。


 オーレッド公爵と、公爵夫人が抗議してくれているそうだが、ルーベルトは聞く耳を持たないらしい。

 当然、彼は、この屋敷にもやってこない。


「お嬢様、これは何かの間違いでございます。ルーベルト様は、必ず、お嬢様の元に戻られます」


 食事を寝室に運んできたアンナが、私に声を掛ける。


「アンナ、ごめんなさい。何もいらないわ、下げて頂戴」


 私は、食事を断る。

 ここ何日も、食事をしていない。


 これで、少しは痩せたかしら?

 あのドレスが似合うようになっていたらいいけど。 

 そんな事を考えると、涙が溢れてくる。


「まだ寝込んでいるの?あなたは、そんなに弱虫だったかしら?気丈な、あなたはどこに行ったの!」


 寝室の扉を開け、公爵夫人がベッドに向かって歩いてくる。

 横には、宮廷魔導士のドナシエル様がいる。


「シャローラ様、詳しく、お話しを伺ってもよろしいですか?」


 ドナシエル様は、そう仰られた。

 私は、当日のダニエラとルーベルトの様子を詳しく話した。


「おそらくそれは、精神操作の魔法。禁止されている害悪魔法でしょう。しかし、お嬢様が訴えても嫉妬心からきた捏造と言われかねません。何か、確たる証拠を掴まねば…」


 ドナシエル様は、ダニエラが害悪魔法を使ったと疑う。


「ルーベルト自身が心変わりしたわけではないなら、私は諦めません!」


 私は、力を振り絞ってベッドから上半身を起こした。


「それでこそ、王妃になる女です。一緒に証拠を見つけましょう」


 公爵夫人が、言った。


「アンナ!食事を持ってきて頂戴!」


 私は、扉の外にいるアンナに声をかける。

 そして、持ってきてもらった食事を無理矢理、胃に詰め込んだ。


 今度は、ウイリアム公爵の時の様にはいかない。

 必ず、ルーベルトを取り戻す。

 そう誓った。


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