エピソード13 婚約指輪
次話は、12時にアップします。
私のお店は、順調に売り上げを伸ばしていた。
最初は私の悪名と商品不足で伸び悩んでいたが、オーレッド公爵夫人とドナシエル様の協力で品不足も少しづつ解消していた。
そして、嬉しい事に、私のデザインしたドレスや化粧品が、少しづつ入荷されるようになり、好評を得ている。
私自身の評判も、オリジナル商品の良さと夫人の口添えで、少しづつ良くなってきた気がする。
自信を得た私は、店の名前を変更する事にする。
店の名前は”大通り美容室&洋服店”となっていたのだが、”セレクトショップ・シャローラ”に変更した。
私のお店は、新しい門出を迎えていた。
そんな、ある日、私に嬉しい知らせが舞い込んだ。
ルーベルトから、婚約のお披露目を行う舞踏会で着るドレスの仮縫いが完成したと連絡があったのだ。
ドレスは、公爵夫人と仕立て屋のアドバイスを受けながら、私がデザインしたものだ。
公爵夫人の紹介で選んだ最高の仕立て屋で作られたドレス。
否が応にも心が躍る。
例え愛の無い婚約でも、私の晴れ舞台に変わりはない。
家の誇りでもある。
最高のドレスを着たい。
ルーベルトと公爵夫人と一緒に仕立て屋に到着した私は、丁寧に仮縫いされたドレスを試着した。
「思った通り、素晴らしい仕上がりですわ。シャローラ様の健康的な魅力を最大限引き出す大胆なカット。美しい体のラインを見せつけるタイトなマーメイドスタイル。白をベースに、グレーと黒のレースと銀糸の装飾。普通は舞踏会で使われないモノトーンの配色が新しい。それでいて、なんと華やかな事か!」
公爵夫人は、私のドレス姿を見て、絶賛する。
「しかし、これは、思ったより胸が開きすぎでは…。背中も、お尻が見えそうなくらいに開いているし」
指定よりも大胆なカットに、私は、もじもじしてしまう。
「何を言っているんです!これが一番、あなたの魅力を引き出すデザイン。私には無い魅力、これがルーベルト殿下が好きになった理由です!」
公爵夫人が、断言する。
「いや、私も、これはやりすぎだと思うが…」
ルーベルトが、少し嫌そうな顔をする。
「減るものじゃなし!他の男には見せたくないって言うんですか?相変わらず、あなたは子供ね。さあ、もっと彼女の姿を見てあげなさい」
公爵夫人に促されて、じっと私のドレス姿を見るルーベルト。
「…綺麗だよ、シャローラ」
ルーベルトは、そう言った。
私は嬉しさと恥ずかしさで、顔を赤くする。
「あの、ちょっと胸とウエストが細すぎて、そのせいで開いちゃってるんじゃないかと」
私は、公爵夫人に耳打ちする。
「舞踏会まで、まだ時間があります。細いと言っても2インチくらい。私が指導しますから、ダイエットして下さい」
公爵夫人は、そう私に耳打ちした。
彼女は、全て察している。
とほほ。
しばらくは、美味しいものは、おあずけだ。
「もう一つ、見せたいものがあるのだが…」
ルーベルトは、立派な木箱を取り出す。
その中には、ダイヤが沢山ちばめられたティアラが入っていた。
「デザインは王家のしきたりがあるので希望は聞けなかったのだが、君のティアラだ。お披露目の場で、母の代理のアデールより君に贈られる事になっている」
ルーベルトが説明する。
「こんな私の為に…」
私は、息を飲んだ。
子爵家の田舎娘が、本当に王家の一員となる。
嬉しくて泣きそうになったが、同時に責任感で身が引き締まり、涙は落ちなかった。
「それと、遅くなったが、これは私財で買ったものだ」
彼は、もう一つ木箱を取り出す。
中には立派なダイヤの指輪が入っていた。
「これは、私から贈る婚約指輪だ。どうか受け取ってほしい」
彼は、予想通りの事を言う。
「…」
私は、一瞬躊躇した。
覚悟は決まっているはずだ。
しかし、偽りの婚約者である私が、これを受け取ってしまっていいのだろうか?
罪悪感が、私の心を支配する。
「羨ましいったらありませんね。いらないなら、私が貰って差し上げますよ」
固まっている私を見て、公爵夫人が、横から手を出す。
「あー、貰います!貰いますったら!」
私は、ルーベルトから木箱を奪った。
そしてそれを、ぎゅっと抱きしめる。
「あらあら、そんなに欲しかったの?素直じゃありませんわね」
公爵夫人は、ため息をついた。
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