エピソード11 開店
私の新しい店が、まず洋服店と美容室としてオープンした。
オーレッド公爵夫人の後押しで、ドレス目当ての客が多かったが、私の悪名が足を引っ張ったのか、売り上げは目標には届かなかった。
「やっぱり高価なドレスは、そんなに数が売れないわね」
店のカウンターで、私は、ちょっと弱音を吐いた。
「美容室の売り上げは、そこそこありました。近くで舞踏会や晩餐会があれば、もっと売り上げが上がると思います店長!」
後輩の販売員の一人が、なぐさめてくれる。
「どうだい調子は?」
店の扉が開き、ルーベルトが入ってくる。
後ろには、若い貴族の娘達がぞろぞろとついてくる。
一目見て分かった。
こいつら全員、王子狙いの娘達だ。
王家の者の場合、婚約者がいても女性人気は変わらない。
第二夫人、第三夫人と、チャンスは残っているからだ。
ルーベルトが、長身イケメンの王子様という事を忘れていた。
「実は、私主催の舞踏会を今夜開く事になってね。彼女達の髪や化粧、身だしなみを整えてもらいたいんだ」
彼は、私に客を紹介する為に舞踏会を開いてくれたのだろう。
しかし、彼女達の態度が私は面白くない。
皆、明らかにルーベルトに色目を使っている。
身を寄せて体を押し付けたり、ドレスをわざと濡らして体のラインを出している娘までいる。
「あら、殿下。どちらが、第二夫人、第三夫人になられるのかしら?」
私は、ちょっとイラつきながらルーベルトに声を掛ける。
「冗談がすぎるぞ、シャーロラ。みなさん、大事なお客様だろう」
ルーベルトが、困った顔をする。
「では、第一夫人にはなれない方々、こちらへどうぞ」
私は、彼女達の視線が刺さるのを感じながら、奥へ案内した。
「何?こんなイモ娘が、噂の婚約者?」
「田舎では美人に入るのかもしれないけど、大した事ないわね」
「田舎貴族の娘は、口も悪いのね」
彼女達は口々に、私への嫌味を呟きながら案内に従う。
「もしかして嫉妬しているのか?それならば、嬉しい限りだが」
ルーベルトが、案内を終えた私に言った。
「違います。貴族の娘に囲まれて鼻の下を伸ばしている殿下に、嫌がらせをしてやっただけです。なんなら第一夫人の座も譲って差し上げます」
私は、プイッと横を向いた。
「それは、困る。私の一番は、君でなければ…」
彼が、本当に困った顔をする。
「今日は、忙しいから、私は行けないじゃない。つまらないわ」
私は、横を向いたまま駄々をこねた。
「すまない。そこまで考えていなかった。こうすれば、客を増やせると思ったんだ。今度は、必ず君を同伴するよ」
彼は、両手を私の肩に置いて言った。
「お久しぶりです、シャローラ様。お元気そうで何より」
貴族の娘が帰った後、宮廷魔導士のドナシエル様が、いらした。
「ルーベルト殿下より、安全で品質の確かな化粧品について調べて選定するように命じられておりました。リストを作りましたので、シャローラ様の商品選びの参考にして下さい」
ドナシエル様が、リストを取り出す。
「素晴らしい!商会にいる時も、安全な化粧品の選定には苦労していたんです」
私は、目を輝かせた。
ルーベルトは、私のやりたい事について、いつも先回りして調べておいてくれる。
昔は、空回りになる事もあったが、今の彼は比べ物にならないほど優秀な大人になっていた。
「化粧品には、粗悪なものや、毒物が使われているものさえあります。薬ほどは、厳しく管理されていませんからね」
ドナシエル様が、言った。
「これで、お客様の喜ぶサービスが提供出来るわ。ありがとう殿下、ドナシエル様」
私は、二人に感謝の気持ちを伝えた。
「いえいえ、私は、殿下の母上の分も、シャローラ様に喜んでいただきたいだけです」
ドナシエル様は、笑って言った。
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