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第38話 皇帝は仲間と共に、いざ魔族の本陣へ!

 混戦中の帝都周辺を離れ、目指すは帝都から北東の山中。

 そこにある魔族を召喚しているであろう仕掛けを破壊する使命を担った四人。


 皇帝アーティス・メイギス。

 宰相ボルツ・ラーチン。

 聖女レイラ・ローズ。

 侍女ミグ・パーシィ。


 帝国軍と魔界軍の戦いは拮抗――いや帝国が押し返しているが、彼ら四人が使命を成し遂げなければ勝利はあり得ない。


 たった四人での行軍、祈るような気持ちで進む。

 もし魔族の集団に出会えば、一巻の終わりである。


「頼むぞ……何も出てくるなよ……」


 先頭で剣を構えながら、アーティスはつぶやく。


「陛下がいうと、何か出てきそうですな」


 ボルツが続く。


「お、おい……」


「大丈夫です、何か出てきたら私が戦いますから!」拳を握るレイラ。


「そうそう!」ミグも構える。


 男二人よりも女二人の方が頼もしい。

 実際、二人のパンチとローキックは、アーティスも認めるところである。


 しかし、魔界軍も決して甘くはなかった。

 魔族の本陣がある山付近には、大量の魔族がうろついていた。

 陣形が整っているわけではないが、近づく者があれば襲う気満々というのが伝わってくる。


 アーティスは歯噛みする。


「くそ~、やっぱりがら空きってわけにはいかないか……」


 あの数の魔族に見つかれば、ひとたまりもない。


「仕方ない。ここはいったん出直して――」


 だが、狼のような顔を持つ獣人の魔族が鼻を動かす。


「あそこ! 人間の匂いがするぜ!」


 数百メートルは離れているだろうに、あっさりとバレた。

 しかも魔族は獰猛なので、一度獲物を確定させるとなんのためらいもなく襲い掛かってくる。


「殺せぇ!!!」


 アーティス達は四人で大軍勢を相手するはめになってしまった。


「くそっ、最悪だ! みんな、逃げろ!」


 だが、他の三人は逃げない。


「ここまできて、陛下を置いていけますか」


「そうですよ、アーティス様!」


「そうそう! あたしのローキック見せてやる!」


 自分に殉じてくれる三人に、アーティスは感謝する。しかし、やはり死なせたくはない。

 アーティスは剣を握り締めた。


「来やがれッ!」


 一人でも多くの魔族を倒してやる。アーティスが意識を集中させる。

 突破口を見出すにはそれしか――と悲壮な決意をした瞬間。

 突如、大量の氷柱つららが降ってきて、魔族達に大打撃を与えた。


「!?」


「アーティス様、なんですか今の!?」


「ま、まさか、俺の中に眠れる力が覚醒して……」


「んなわけないでしょう。あそこをご覧下さい!」


 ボルツが指差した方向には――


「イザベラ様だ!」


 レイラが真っ先に叫んだ。

 彼女の言う通り、騎乗したイザベラがそこにいた。魔法兵団を率いてやってきたのだ。会談の時とは違い、戦闘用の装束である。


「メギドアから救難信号を感知してな。少数だが軍を編成して参上した」


 喉から手が出るほど欲しい援軍であったが、ボルツですら驚いている。


「それにしても早い……! まさか、こんなにも早く来て下さるとは……!」


「実は連日メギドア方面に漂う暗雲を見て、不吉な予兆はしていたのだ。なのでいつでも出陣できるようにはしていた。あとは我が魔法兵団ならば、精霊の力を借りて素早く駆けつけるなど造作もないこと」


 それに、と続ける。


「せっかく同盟を組んだのだ。こういう時に力になれなければ意味があるまい!」


 イザベラはそう言うと、部下に命じて魔族を攻撃させる。

 魔法兵団の実力はやはり高く、さまざまな属性の魔法で魔族を打ち倒していく。


凍波魔法アイスウェイブ!」


 冷気による巨大な波。イザベラの魔法で、魔族がまとめて氷漬けになる。彼女自身も“魔女”の異名を持つほど優れた魔法使いである。


「イザベラ女王、本当に助かった!」アーティスが感謝を述べる。


「礼には及ばん。それに……来たのは私だけではないようだ」


「え?」


 イザベラの言う通り、新たな軍勢が現れた。

 地響きを立てながら現れたのは、鉄の鎧に身を包んだ騎士の軍団。メギドアの軍装ではない。


「あれは……ガイン軍!?」


 ガイン王国軍も登場し、魔族に攻撃を加え始める。

 先頭に立っていたのはかつてアーティスと一騎打ちをした“鉄の王”ドグラ・アイヒマンである。


「アーティス殿、助太刀に参った!」


「ドグラ王!」


 イザベラに続き、ドグラまで王自ら援軍に駆け付けた。メギドア帝国、ひいてはアーティスのために。


「これほどの強行軍は初めてのことだ。だが同盟国、まして戦友ともの危機を、放っておくわけにもいくまい」


 ドグラとの決闘は絶望的な戦いだった。だが、あの戦いを乗り越えたからこそ、アーティスは心強い味方を手に入れることができた。

 もしもアーティスが両国の君主に立ち向かうような外交をしなければ、この援軍は得られなかった。


「しかし、数が多いな……ここは我らとフェザード軍が請け負うゆえ、アーティス殿は先を急がれよ! 四人で行軍しているところを見ると隠密に目指すところがあるのだろう!」


「ありがたい!」


 アーティスはうなずくと、フェザード軍とガイン軍に魔族の軍団を任せ、戦場を駆け抜ける。

 激しい戦いが繰り広げられるが、アーティスには両国軍が負けるところは想像できなかった。



***



 岩に囲まれ、木が生い茂る山中にて、“偽聖女”エキドナは魔法陣を管理していた。


 魔族を次々に送り出し、一休みする。


「メギドアの連中も粘っているようだが、私たちはいくらでも兵を送り込める。デュボンも暴れ始めたようだ。我らの勝ちは動かない……」


 邪悪な笑みを浮かべ、独りごちる。


「そいつはどうかな!」


 突然飛んできた声に驚き、振り返る。


「貴様は……!」


 声の主はアーティスだった。

 フェザード・ガイン両国のおかげで、アーティスはエキドナの元までたどり着けた。他の三人も一緒である。


「なぜここに……!」


 エキドナとしてもそう簡単に見つかる場所に魔法陣を配置しているわけではなかった。まともに捜索すれば、軍で山狩りをしても見つからなかっただろう。


「山の中に入ってからは簡単だった。レイラがお前の邪悪な気配を感知できたからな」


「くっ!」


「あとはそこの魔法陣をぶっ壊しちまえば、メギドアの勝利がぐっと近づくってわけだ」


 アーティスの言葉にエキドナは歯をむき出して笑う。


「魔法陣を壊す? 笑わせる。貴様ら如きに私を倒せるものか!」


 エキドナの瞳が赤く光る。

 光ったかと思えば、目から光線が発射される。


「うおおおっ!?」


 かろうじてかわすアーティス。

 放たれた光線は、木々を軽々と焼き払ってしまうほどの威力だった。


「アハハハッ! 皇帝が来てくれるとは好都合! こちらこそ、お前を殺れば勝利が近づくというもの!」


 アーティスは自分が死んでもメギドアが滅ぶとは微塵も思っていないが、自分の戦死がどれほどの悪影響を及ぼすかということは理解していた。


「やられてたまるかよ……行くぞ、みんな!」


 エキドナは高笑いしながら赤い瞳から次々に光線や光球を繰り出す。

 四人とも走り回り、どうにかかわし続ける。


 しかし、年配のボルツはスタミナに難があり、フットワークが止まってしまう。


「まずは宰相からだ!」


 赤い瞳から光線が放たれる。


「ボルツッ!」アーティスが叫ぶ。


 しかし、その光線はとっさに盾になったレイラによって阻まれた。


「なにい!?」


「癒しの光を最大限に手から放ったら、防げました」


「くっ……!」


 エキドナが歯を食いしばる。


「エキドナさん、今ので分かったことがあります」


 レイラがいつになく気丈な表情で言う。


「あなたは魔法陣の維持にかなりの力を使っていて、そこまでの力は出せませんね。今の攻撃もあなた本来の力であれば、私は黒焦げになっていたはず!」


「聖女め……!」


 エキドナも図星だったようで、顔面を醜く歪ませる。

 レイラが正面から攻撃を防いだことは、彼女の精神にも大きな打撃を与えた。


 そして、レイラはその隙を見逃さない。


「せいっ!」


 一瞬にして間合いを詰め、エキドナの顎にアッパーカットを浴びせる。


「ぐはぁっ!」


 すかさずボルツも魔法を唱える。


雷網魔法サンダネット!」


 雷の網がエキドナを包み込む。効いてはいるが、エキドナも魔力を放出して対抗する。


「かああっ!!!」


 網は弾き飛ばされた。エキドナの顔が憤怒を帯びる。


「この程度で私を……ぐおっ!?」


 エキドナは脚部に激痛を感じた。

 ミグがローキックを放ったのだ。


「このガキ……!」


「えっへっへー、あたしのローキックは天下一品なんだから!」


 すぐに間合いを空けるミグ。この年齢でヒットアンドアウェーを身につけている恐ろしい少女である。


「おのれぇ……!」


 エキドナの眼がさらに禍々しく光る。

 狙いは――やはりアーティス。

 しかし、今度は光線ではなく、直接殴りかかってきた。パンチとローキックを受けたので、その意趣返しのつもりだ。


「死ねッ!!!」


 エキドナの拳がアーティスの顔面に当たり、鈍い音が響く。


「アーティス様ッ!」


 悲鳴を上げるレイラ。


 しかし、アーティスは死んでいなかった。ギリギリでスウェーして、拳の威力を軽減させていた。日頃からレイラとボクシングをやっていた経験が生きた。


「いてえけど……死んでない、ぞ」


「ちっ!」舌打ちするエキドナ。


 そこへミグが攻め込む。


「えいやっ!」


「またローキックか! 同じ手を食うと思うか!?」


 ところが、蹴り足はしなやかに変化し、ハイキックが炸裂した。


「ぐおおっ……!?」


「ミグ……新しい技覚えやがって!」感心するアーティス。


「では私もとっておきの魔法を披露いたしましょう」


 ボルツは密かに魔力を蓄えていた。


「迸るいかずちよ、竜と成りて悪しき敵に喰らいつけ! 雷竜魔法サンドラゴ!」


 ボルツが自身の魔力を全てつぎ込む大魔法。

 雷が巨大な竜の形状となり、エキドナの全身を貫いた。


「ぐ……は……!」


 上位魔族エキドナが黒焦げになり、一瞬意識が飛ぶほどの威力だった。


「こんなの撃てたのか、ボルツ!」


「一発限りですがね……いつか陛下にお見舞いするためのとっておきでした」


「なるほど、俺に……って、えええええ!?」


 絶好の勝機。アーティスはすぐさまエキドナに斬りかかる。


「終わりだ、聖女エキドナ……いや魔族エキドナ!」


 一閃――

 メギドアソードはエキドナの体を深く切り裂いた。


「がふっ……!」


 しかし、エキドナも上位魔族の意地か、まだ倒れはしなかった。踏みとどまる。


「くそっ! 倒せてない!」


「おのれ……! 貴様らなど、貴様らなど……! 魔王様、魔王様ァ!」


 エキドナが魔法陣に向かって助けを求める。


 すると――


 強大な暗黒の気が辺りを包み込む。

 エキドナを始めとしたこれまで出会った魔族はもちろん、邪神であるグモリアよりも上位の気配が立ち込める。


「魔王……!?」


 アーティスはついに魔界の王と対峙しようとしていた。

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