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第37話 帝国の反撃開始だ!

 最前線でこらえる軍団長ゴラン。

 帝国軍の指揮をしつつ、自らも懸命に魔族と戦う。


「はあっ!」


 槍が魔族の胸を貫いた。青紫色の血しぶきが飛ぶ。すでに彼は何十体もの魔族を討ち取っている。


 しかし、魔界軍の勢いは衰えない。

 ついに――


「ぐああっ!」


 魔族からの爪攻撃を肩に浴びてしまい、ゴランも覚悟を決める。


「ここまで、か……!」


 下がろうと思えば下がることもできる。

 しかし、今自分が前線から離れるわけにはいかない。ゴランのおかげで前線は持ちこたえているのだ。


「帝国のために死ねるのなら、本望……!」


 治療はせず、最後まで戦い抜く決心をする。


 その時だった。


「邪滅閃!!!」


 ゴランが相手しようとした魔族達が一瞬で消し飛ぶ。


「大丈夫ですか! あなたが帝国軍の軍団長様ですよね?」


「え……!?」


「我は邪神グモリアと申します。皇帝陛下からあなたをお助けするように言われまして……」


「邪神……!?」


 驚いているゴランをかばうように、レムレムも前に出る。


「ソウデス! ココハワタシタチニ任セテ!」


「ゴーレムまで……!」


 エンペラードラゴンも最前線に出てきた。


「貴様は見た顔だな……ワシらがここは請け負う。貴様は一度下がって治療を受けろ。軍団長が死ねば、帝国軍の士気は半減してしまう」


「エンペラードラゴン……!」


 笑いながらシェンハも登場する。


「その傷で戦おうとするとは、なかなか根性のある人間もいたもんじゃな。あのアーティスの部下なだけのことはある。ここはわらわたちに任せい」


「いや、しかしあなたのような美しい女性に任せるなど……」


「誰が美しい女性じゃ! ほれ、とっとと下がれ!」照れるシェンハ。


 邪神グモリア、魔導兵器レムレム、巨大竜エンペラードラゴン、不老不死女シェンハ。

 この四人はいつの間にかパーティーを組んで、魔族達との戦いに当たっていた。


「ヨーシ、イキマスヨ邪神サマ!」


「ええ、レムレムさん!」


 レムレムとグモリアが突撃して魔族を吹き飛ばす。


「わらわが霧で魔族どもの動きを封じるから、おぬしの炎で焼いてしまえ」


「ワシの炎の範囲だと貴様も巻き添えになるが、いいのか?」


「かまわん。どうせわらわは死なんからのう。にしても……こんなでかい竜がおるとは思わなんだ」


「こっちこそワシ以上に長生きする人間を見るのは初めてだ!」


 エンペラードラゴンとシェンハも、シェンハごと火炎で焼くという無茶なコンビネーションで敵を葬る。


 この光景を見て、アーティスは苦笑いを浮かべる。


「強い……。敵が気の毒になってくるレベルだ」


「これも兄上が築いてきた人脈のなせるワザだよ」


「人脈……。“人”でいいのかなぁ、あいつら」


 すると、遠く離れているシェンハに聞こえていたらしく、


「聞こえとるぞ! わらわは人じゃ!」


 と怒鳴られた。

 アーティスはあわてて口を塞いだ。


 アーティスとイディスは気を取り直して作戦会議をする。

 帝国軍の奮戦、援軍の登場で戦況は持ち直したが、根本的な解決にはなっていない。


「どうすればいいかな、イディス」


「魔族は無尽蔵に湧いてきてるようだ。これを止めるなら、“みなもと”を断つしかない」


「だよなぁ。だけどそれが分からないから、俺らは守りを固めてたんだ。一体どこに奴らの本拠地があるんだろう」


「今までの戦いから、奴らが魔族を呼び出してる場所は特定できてきた。おそらく、帝都から北東の山の中を本陣にしてるんだと思う。あそこはほとんど人も住んでないからね」


「すげえなお前!」


「あとはそこに誰を向かわせるかなんだけど……」


「……」


 難しい判断を迫られる。

 魔族側の戦力増加を断つため、魔界軍の本陣に乗り込む。重要な任務なのは間違いないのだが、魔族の猛攻は凄まじく、戦線を維持しているような猛者を行かせるわけにもいかない。

 そもそも悠長にメンバー選びをしている余裕がないのだ。

 だが、アーティスはちょうどいい人材を思いついた。


「……なら俺が行くか!」


「あ、兄上が!?」


 イディスが驚く。


「ああ、ようするにこっそり奴らの本陣に行って、そこの魔族呼び出しシステムみたいなもんを壊せばいいんだろ? 俺なら強さ的に絶対ここにいなきゃいけないほどでもないし、やるべきことも分かってるし、適任じゃないか」


「そうかもしれないけど……皇帝自ら行くなんて……!」


「それに俺は数々の冒険を経験してきてる。下手な兵士よりこういう任務は得意だと思う」


「……」


 イディスは難色を示すが、他に適任者も思いつかない。


「分かった……兄上、よろしく頼む!」


「おう!」


「ただ当然兄上一人で、というわけにはいかない。他に誰か護衛を……」


「だとしたら、もう決まってる。なぁ、レイラ!」


 アーティスに呼ばれ、レイラは快く返事する。


「はいっ! 負傷者の皆さんの治療は大司教様たちが当たってますし、私がアーティス様に付き添います!」


「それと……ボルツ!」


 ボルツはため息をついた。


「やはりこんな時も私を指名するんですな」


「嫌か?」


「嫌とはいってませんよ。私がいなければ始まらないでしょう」


 ボルツはニヤリと笑う。

 イディスとレイラはやはりこの二人の間には実の弟でも聖女でも敵わない特別な絆があるな、と感じた。


 さらにそこへ――


「アーティスさまー!」


 なんとミグが駆けつけてきた。


「ミグ……!」


「ミグちゃん!」


 ミグは手にパンを持っていた。


「アーティスさま、はいこれ!」


「これは?」


「えーとね、アンさんって人がもしアーティスさまのところに行くならってパンをくれたの!」


「アン……あの子か!」


 かつて世界征服ならぬ町内征服を目論んだアーティスが、チンピラから救ったパン屋の娘である。


「他にも、町の人たち、みんな“アーティスさま頑張れ”って伝えてくれって……」


 寄せ書きされた紙を手渡す。

 みんなアーティスとどこかで縁があり、救われた市民たちばかりであった。

 これを見ると、アーティスの中に闘志が湧いてきた。


 ミグはさらに言いたいことがあるようだ。


「それとね、アーティスさま、あたし……」


「よし、ついてこいミグ」


「ええっ!?」


「嫌なのか?」


「いや、そうじゃなくって……むしろそれを頼みに来たんだけど、普通こういう時って『ミグ、お前は子供なんだから帰れ』っていうもんじゃない?」


 アーティスは笑った。


「そうかもしれないけど、今は人手が欲しいからな。それに今の俺は、ミグも立派な戦士だと思ってるから。あのローキックはヤバイ」


「あたしは戦士じゃなくて侍女!」


「悪い悪い」


 レイラは二人の会話に微笑む。


「じゃあ、この四人で魔族の増援を食い止めましょう!」


 ボルツも笑う。


「いつも通りのメンバーになりましたな」


「なにしろ皇帝、宰相、聖女、侍女とバランスがいいからな。完璧だ!」


「なにをもってして完璧なのかよく分からないですが」


「いいんだよ! こういうのはノリだ、ノリ!」


「なんだかアーティス様らしさが戻ってきましたね!」


「ああ、俺は本来こういう奴だった。思いつきで行動して、俺は帝国を救ってみせるぞ!」


 景気づけに、アーティスはミグからもらったパンをうまそうに平らげた。



***



 一方、最前線でも動きが起こる。

 エンペラードラゴンが一撃で殴り倒されたのだ。


「うぐ、ぐ……!」


「ガハハッ! オレよりでけえのがいると思ったら、この程度かよ!」


 魔界軍を率いる魔族デュボンがついに動いた。

 その顔を踏みつけようとするデュボンにレムレムがパンチを喰らわす。

 しかし、まるで微動だにしない。


「今のがパンチのつもりかァ!?」


 デュボンの拳でレムレムが軽々と吹き飛ばされる。


「グアッ!」


 グモリアも邪気をまとった攻撃を繰り出すが、


「ぬるいなオイ!」


「効いてない!?」


「大した邪気だが、オレ様ほどの魔族からすりゃ屁みてえなもんだぜ!」


 強烈な蹴りでグモリアもダウンする。魔界最上位の魔族からすると、人間界の邪神ですら子供扱いだ。


 シェンハも霧の狼で攻撃するが――


「うっとうしいんだよ!」


 拳で狼ごと叩き潰される。


「シェンハさん!」グモリアが叫ぶ。


「心配するな。が、かなり痛いのう。あやつ……恐ろしい強さじゃ」


 シェンハが体を修復しつつ、立ち上がる。


 レムレムもうなずく。


「エエ、他ノ魔族トハ比ベ物ニナリマセン」


 昏倒していたエンペラードラゴンが起き上がる。


「こいつを暴れさせれば、人間たちに甚大な被害が出るだろう。こいつはワシら四人でなんとしても倒すのだ!」


 魔界軍最強といえるデュボンに挑むのは、エンペラードラゴン、シェンハ、グモリア、レムレムの人外パーティーに決まった。


「ゴミどもが……まとめて叩き潰してやるよォ!」デュボンも猛る。


 アーティスら四人の戦いと同時に、彼ら四人も決死の戦いに挑もうとしていた。

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