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第35話 帝国軍と魔界軍の戦いの始まりだ!

 帝都メランから北東の人気ひとけのない山中に、“偽聖女エキドナ”がいた。


 といってもすでに彼女は人間の姿をしていない。

 黒髪と赤い瞳は相変わらずだが角を生やし、妖艶な衣装を纏っている。これこそがエキドナの真の姿。


「皇帝を篭絡できなかったのは残念だが、まあいい。この魔法陣から無数に魔族を呼び出せるからな。私たちらしく力ずくであの帝都をいただく」


 彼女の眼前にあるのは巨大な魔法陣。

 魔界と人間界が近づいた影響で、エキドナは一人人間界に来ることができた。そして、二つの世界を本格的に繋ぐことが彼女の使命だった。


「私はこの魔法陣を管理するから帝都獲りはデュボン、お前に任せる。奴らは突然帝都に魔族の軍勢が現れて泡を食うはずだ」


 デュボンと呼ばれた魔族は、家屋ほどの大きさの巨漢だった。全身を鱗に覆われ、禍々しい威圧を放っている。


「任せとけ! 人間どもは皆殺しにしてやる!」


 このデュボンが魔族たちの総司令といっていい。凶暴で荒々しいが、実力は本物である。


「お前が帝都を獲って、私たちの魔都に変える。そして、魔王様を迎えれば……」


「こっちの世界を魔界にする計画の偉大なる第一歩になるってわけだ!」


 デュボンはさっそくすでに召喚されている魔族らに命じる。


「よっしゃ、今から帝都に攻め込むぞ! そこを奪い取って、オレたちの楽園にしてやるんだ!」



***



 帝都を目指す魔界軍。

 魔界軍の長デュボンが目元をピクリと動かす。


「む!?」


 帝都の周辺部では帝国軍が陣形を組んで待ち構えている。魔族がどこから来てもかまわないよう、隙のない布陣である。


「なんだあれは……エキドナの話と違うじゃねえか」


 奇襲をかけ一気に帝都を落とす手筈だったが、当てが外れてしまった。


「まあいい……皆殺しにしろ!」


 しかし、大した問題ではない。敵の態勢が整っていようとやることは変わらない。

 この辺りは人間と違う魔族特有の大雑把さであり、また彼らは緻密な作戦を必要とするようなやわな肉体は持ち合わせてはいない。ハイスペックな肉体で圧倒する。これが彼らの最上の戦略なのだ。


 鋭い爪や牙。鎧のような皮膚。特異な形態。頑強な肉体を武器とする魔族たちが迫る。


 帝国軍もすでに魔族を察知しており、ゴランが吼える。


「来るぞぉ! 奴らを一匹たりとも帝都に入れるなよ!」


 ゴランの補佐にはイディスがつく。


「ゴラン、まずは魔族の実力を見てくれ。そこからだ」


「はい、殿下」


 さて、帝都にある帝国軍本陣にいるアーティスはというと――


「俺も行くか」


「陛下も行くんですか!?」


 ボルツが慌てる。


「ああ、こういう時に俺が出れば『皇帝陛下も戦ってる! すげえ!』ってなって士気爆上がりだろ、多分」


「そうかもしれませんが……」


 イディスが近づいてくる。


「兄上が戦うことで、確かに士気は上がるだろう。士気が高まれば、当然勝利も近づく」


「だろ?」


「だけど当然、兄上が戦死することもありえる。そうなれば帝国としては大ダメージだ。僕としてもどちらが正解とはいえない」


「俺は兵士たちに“命を使ってくれ”って吼えたんだぞ。あいつらだけ戦わせるわけにはいかない。俺の気が済まないんだ」


「兄上って人は……」


 イディスは顔をほころばせる。


「ってわけだ、俺も出る。俺が死んだら、すぐ皇帝になって『兄上の仇は僕が討つ』的なノリで帝国を守ってくれ!」


「縁起でもないこといわないでくれよ……」


「まあ、任せろ。俺も多少は鍛えてるから」


 アーティスもメギドアソードを持ち、馬に乗る。


「アーティス様、お気をつけて!」


「陛下、死んだら許しませんぞ!」


 レイラとボルツからも激励を受け、アーティスは戦場めがけて駆けた。



***



 帝都より北、帝国軍と魔界軍の最前線はまさに死闘が繰り広げられていた。


 肉体的なスペックで押してくる魔族たちを、帝国軍は訓練された連携でどうにかはねのける。

 しかし、犠牲者ゼロというわけにはいかない。


 倒れた兵士たちを見て、アーティスは悔しげな表情になる。だが、今は彼らを悼む時ではない。


「俺も戦いに来たぞ! みんな、ふんばれ!」


 アーティスが剣を掲げると、兵士達は驚きとともに雄叫びを上げる。

 やはり皇帝自ら戦場に出る効果は大きかった。


 軍団長ゴランもまた愛槍を持ち、魔族を打ち倒す。


「はああああああっ!!!」


 ゴランが槍を振り回すと、魔族達が吹き飛ぶ。

 人類の最高峰ならば、魔族とも正面から戦えると身をもって証明する。


「キシャアアアアアッ!」


 魔族の一人がアーティスに飛び掛かってきた。

 やはり今までに見てきた魔物たちとは一線を画す異形であるが、アーティスは恐れず剣を振るう。

 メギドアソードが魔族を切り裂いた。


「あっぶね……」思わず独りごちる。


「陛下、無理はなされぬよう!」


 ゴランにたしなめられ、アーティスはうなずく。


 アーティスが加わったことで士気が上がり、帝国軍は未知の魔族相手に互角以上の戦いを見せている。


 一方、魔界軍も手をこまねいているわけではない。

 総司令のデュボンが、怒号を飛ばす。


「チンタラやってんじゃねえぞ! 人間どもなんざとっとと捻り潰せ!」


 これで魔族たちの勢いも増す。


 ゴランがアーティスに話しかける。


「魔族たちは強いですが、決して戦えない相手ではありません。陛下、イディス殿下にこれを伝えてもらえますか」


 アーティスはうなずく。


「そうだな、イディスなら新しい作戦を立ててくれる!」


 いったん弟のいる陣地に戻ろうとするアーティス。

 だが、ここでやはり魔族は魔族たる恐ろしさを見せる。


 馬のような形態の魔族が、おぞましい鳴き声を上げながらアーティスに襲い掛かってきた。

 あまりのスピードに帝国兵は誰も対処できない。アーティスも反応が遅れる。


「やばっ……!」


 アーティスは死を覚悟した。


 だが――


 轟音と共に、馬のような魔族が吹き飛ぶ。


「グギャアアッ!」


 横合いからなんらかの攻撃を受けたのだ。

 しかし、一体誰が――アーティスは魔族が攻撃を受けた方向を見る。


「皇帝陛下、オ久シブリデス!」


「レムレムぅ!」


 アーティスの危機を救ったのは、魔法科学研究所で作られた兵器、ゴーレム改めレムレムだった。

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