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第31話 皇帝たる者、眠っている古代兵器を復活させるべきだ!

 メギドア帝国城、皇帝の間。

 玉座に座り、なにやら考え込むアーティス。


「うーむ……」


「どうしました陛下?」


「このところ色々あっただろう」


「色々では済まされないほど、色々ありましたな」


 メギドア・フェザード・ガイン三国によって結ばれた歴史的な同盟を“色々”で済ませるアーティスに、ボルツは呆れる。


「場合によっては、このメギドア帝国も戦火に晒されてたかもしれん。メギドアももっと軍事力を強化する必要がある!」


「となると、例えばガインやフェザードと軍事演習を? いざという時はお互いに協力し合う盟約を結びましたし」


「それも大事だが、もっといい方法を思いついた」


「ほう?」


「帝都図書館でこんな文献を見つけたんだ」


 アーティスが古い書物を取り出す。


「またよくこんなものを見つけましたな」


 書物の中身は、帝国に眠る古代兵器に関するものだった。


「ほう……不老不死島よりはまだ現実味があるような……」


「だろう。アミューズって古代遺跡には古代兵器が眠ってるかもしれないんだってさ! これを復活させれば帝国軍の戦力はさらに盤石になる!」


 目を細めるボルツ。


「ん、どうした?」


「いえ、思いつきで行動するこの姿、いかに成長してもやはり陛下は陛下なのだな、と。懐かしい気分にすらなりましたよ」


「そう褒めるな」


「褒めてませんって」


 そうと決まれば、アーティスはレイラとミグにも声をかける。


「これから俺は古代兵器を復活させに行く! お前たちも来るよな?」


「もちろんです!」


「古代兵器、楽しみー!」


 やはり付き添うことになったボルツは頭を抱えた。この人が歴史的な同盟を成し遂げたのはきっと奇跡だったんだ。千年に一度ぐらいの奇跡が起こったんだ。そうに違いない。



***



 アミューズ遺跡にたどり着いた一行。

 奇怪な紋様が描かれた石造りの建物で、研究もあまり進んでいないため、どんな遺跡かはほとんど分かっていない。


「Eランク冒険者としての血がうずいてきたぞ!」


 意気揚々と進むアーティスだが、すぐに行き止まりにたどり着いてしまう。


「え、もう終わり?」


「まあ、もっと広大な遺跡だったら、冒険者や考古学者が放っておかないでしょう」


「穴場かと思ったら、こういうことか。ちょっと残念だな……」


 アーティスが引き返そうとすると――


「あなたは……皇帝の血を引く者ですね……」


「え!?」


 謎の声が語りかけてきたと思ったら、壁に穴が開いた。こんな大がかりな仕掛けが施されていたとは。


「お入り下さい……」


 目を丸くするアーティスたち。


「まさか、メギドア帝国皇族でないと先に進めないようになってたのか!」


「この遺跡にどういう歴史があるか分かりませんが、皇帝が遺跡に赴くなどまずない。なので今まで誰も気づかなかったのでしょうな」


 レイラとミグもワクワクしている。


「ということは、この先に古代兵器があるんでしょうか?」


「どんな兵器か、楽しみー!」


 アーティスはうなずくと、先頭に立って奥に進んだ。


「よーし、目指すぞ古代兵器!」


 通路はどんどん地下に潜っていく。どこまで下に行くのかと不安もよぎってきた頃、四人は広い部屋にたどり着いた。


「お待ちしておりました」


 立っていたのは人間――いや、人形だった。

 一見人間の紳士風だが、よく見るとところどころが球体関節になっているのが分かる。

 先ほどまでの声の主もこの人形のようだ。


 最新の魔法科学でもゴーレム開発に苦慮しているというのに、こんな古い遺跡に自律する人形がいるとは驚きである。“ロストテクノロジー”という言葉を思い起こさせる。


「あなたは皇帝陛下、もしくはゆかりのあるお方ですか」


「ああ、俺はメギドア帝国皇帝アーティス・メイギスだ」


「ここに来られたということは遺跡に眠る兵器を復活させに来たのですね?」


「そういうことだ」


「私はこの遺跡を守るガーディアン、あなた方にその資格があるか試させてもらいます!」


「えっ、ちょっ!」


 いきなり戦いが始まった。


 ガーディアンは右手を拳にすると、その拳を発射してきた。


「うわっ!」


 アーティスはこれを紙一重でかわす。幾多の修羅場を乗り越え、不意打ちにも対応できるようになっている。


「やりますね。しかしまだまだ!」


 目から次々に光球を発射する。


「うわわわっ! いきなり試すなって! せめてやるかやらないか聞けよ!」


「試練とはこういうものですから」


 攻撃をやめようとしないガーディアンに、アーティスは剣を構える。


「無茶苦茶な奴だ……こうなったらやるしかない!」


 アーティスが猛然と斬りかかる。


「ガインの“鉄の王”ドグラをも下した俺の剣技を見よおおお!!!」


 調子に乗っている時のアーティスは、だいたいろくなことにならない。

 剣はあっさりかわされる。


「せいっ!」


 しかし、かわしたガーディアンにレイラの拳が炸裂する。おなじみの皇帝聖女コンビネーション。


「ぐうっ!?」


 さらに――


「だあっ!」


「うぐ……! なんというローキック……!」


 ミグのローキックがガーディアンの足を止めた。


「いい連撃ですな。いっそ体全体を止めてしまいましょう。雷網魔法サンダネット!」


 ボルツが魔法を唱える。電撃で作られた網がガーディアンを包み込む。


「ぐぬああああっ!」


 絶叫し、ガーディアンは仰向けに倒れた。


「参りました……降参です」


 得意げに剣を掲げるアーティス。


「見たか、メギドアソードの威力!」


「あなたは一撃も与えてませんけどね」


 ボルツの指摘に、アーティスはバツが悪そうな顔になった。



***



 敗れたガーディアンは四人を認め、さらに奥へと案内する。


「この先に……兵器が眠っています」


 ガーディアンの戦力を考えると、彼が守る“兵器”への期待は否が応でも高まる。

 どんな破壊兵器が眠っているのだろうか。


「さあ、こちらへどうぞ!」


 遺跡の最奥で眠っていたのは――


「……え?」


 巨大な木造の投石器だった。

 確かにサイズは従来の物に比べだいぶ大きいが、今の時代投石器など珍しくもなんともない。


「どうです! すごいでしょ!?」


 誇らしげなガーディアン。試練を与えはしたが、本当は兵器を見せたかったという思いがにじみ出ている。


「いや……」冷めた目のアーティス。


「すごく遠くに石を飛ばせるんですよ!」


「これならお前の方がよっぽど古代兵器のような……」


「ぜひ! この兵器で敵を倒して下さい! 帝国を救って下さい!」


「……帰る」


 引き返そうとするアーティス。


「ああっ、待って! 帰らないで!」


 ガーディアンから事情を聞くと、まだ投石器が珍しかった古の時代、この巨大投石器は作られたという。

 しかし、当時のメギドア皇帝は平和を愛する人物で、この兵器は危険すぎるとアミューズ遺跡に封印することに決めた。

 皇帝の一族しか入れないようにし、なおかつガーディアンを置いて固く封印した。

 ちなみに一連の作業は全て当時天才と言われた魔術師が行い、彼は後進への指導等をしなかったので、“失われた技術”になってしまったのだ。


「そういうことだったのか」


「そうだったんです。いやー、まさか投石器が今や古い兵器になってしまっているとは……」


 時代遅れの兵器をずっと一人で守り続けていたガーディアンの境遇に、レイラやミグも同情している。


 アーティスはガーディアンにこんな提案をする。


「なぁ、もしよかったら俺の城に来て、城のガーディアンでもやらないか?」


 アーティスなりの優しさであり、ガーディアンの強さは衛兵としても申し分ない。

 ところが、ガーディアンがゆっくりと首を振った。


「せっかくのお誘いですが、私はこの兵器を守り続けたいと思います。それが当時の皇帝陛下とのお約束ですから」


「そっか……」


 アーティスも無理強いはしない。

 四人はしばらくガーディアンと談笑した後、アミューズ遺跡を後にした。


「これからも古代兵器を守り続けてくれよな、ガーディアン!」


「ええ、もちろんです。皆さんもお元気で」


 現代の皇帝アーティスに改めて兵器死守を命じられたガーディアンは、どこか幸せそうだった。

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