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第27話 皇帝と女王、歴史的な会談だ!

 出席者全員が席につき、本格的に会談がスタートした。

 ピリピリとした緊張感の中、口火を切るのはイザベラ。


「さて、アーティス皇帝」


「なんだろうか」


「このたびの会談はそちらからの要請で行われたものだが、国境での騒動になんらかの回答を持ってきたということでいいんだな?」


 回答とは、フェザードの要求を飲むか、あるいは突っぱねるかの二択である。


「いや、それについては……答えを出せてない」


「は?」


「だってどっちが悪いかよく分からないし、平行線だから」


 アーティスのとぼけた回答にイザベラの顔つきが険しくなる。


「ふざけるな! だったらなぜこんな会談をセッティングした?」


「それは……」


 アーティスは短く息を吸ってから言った。


「貴国と同盟を結ぶためだ」


「な……!?」


 これには隣に座っていたボルツも驚く。


「陛下!?」


「相談しなくて悪かった、ボルツ」


「私に謝られても……! せめて事前に……!」


 あまりにもグダグダな皇帝と宰相のやり取りに呆れるイザベラ。


「同盟だと? いきなり何を言い出すかと思えば……」


「我が帝国とフェザード女王国は長らく敵でも味方でもない状態だった。そんな状況にそろそろ終止符を打とうと思ってさ」


「だからといって、いきなりそんなことできるか」


「そうですよ陛下、まず国境での問題にカタをつけなければ……」


「うむ、そこの宰相の言う通りだ。アーティスとやら、お前は若いから政治を知らんな」


「若いのはお互い様だろ」


「なっ……! 私が若い……」


 動揺するイザベラ。目を見開いている。


「俺は20代、あなたは30代、どっちもまだ若い。だからこそ今までの歴史や慣習に縛られず、新しい関係を築くことができるんじゃなかろうか」


「私が……若い」


 イザベラはまだ「若い」と言われたことを反芻していた。


 レイラも援護射撃をする。


「そうですよ、イザベラ様! 私もイザベラ様と仲良くしたいです!」


 本心からの言葉だった。レイラは初めて出会ったイザベラの美しさに惚れ込み、同じ女でありながら女王としての貫禄を持つ彼女に尊敬の念を抱いていた。

 本心は本心であるがゆえに相手にも通じた。考え込むイザベラ。


「私が若いということは分かったが、しかし同盟などそう簡単に組むわけにはいかん」


 イザベラはあくまで慎重な態度を崩さない。これ以降、同盟の話はなかなか進展しないまま、会談は進行していった。


「では休憩にしましょうか」


 いったん小休止となる。


 会談について、作戦会議をするメギドアの重臣勢。


「女王国はワンマン体制のようだな。他の重臣たちがほぼ会話に参加しなかった」

「だからこそ、イザベラ女王を口説き落とせれば、陛下のいう同盟も夢ではないかもしれんな」

「しかし、さすがに同盟については彼女も消極的だ……」


 同じく休憩中のレイラがイザベラに近づいていく。


「レイラ殿!?」ボルツが気づく。


 イザベラはレイラを睨みつける。が、すぐに警戒を解いた。


「何用か?」


「本当にお美しいですね、イザベラ様!」


「ふん、聖女ならば私の美しさも分かるか」


 国も性格も立場も違えど、女同士で気さくに語り合っている。


 ボルツとアーティスはそれを遠目に見る。


「レイラ殿、落ち着いてますな」


「ああ、聖女と魔女で波長が合うのかな?」


 レイラがこの会談を成功させるキーマンになるかもしれないと思った矢先、それは起きた。


「だけどイザベラ様、ここにシミができてますね」


 レイラがイザベラの顔にケチをつけた。

 これにはボルツも、そしてアーティスもぎょっとする。


「まずいですよ、陛下!」


「レイラ……!」


 しかし、イザベラは意外にも平然としたものだった。


「分かるか。このシミだけはいかなる魔法や薬でも除去できぬのだ」


 怒らないんだ、と不思議に思うアーティス。女友達と愚痴をこぼし合うようなテンションになっているのかもしれない。


「私なら治せるかもしれません!」


「なに?」


「私の癒しの光は大きなことは出来ませんが、こういったお顔のことにはよく効くので……」


「ならば、やってもらおうか」


「女王様、なりません! もしも、女王様を害する狙いがあれば……」フェザードの重臣が止める。


「黙れ。レイラとやら、やってくれ。結果についてとやかくは言わん」


「はいっ!」


 レイラはイザベラの顔に右手をかざし、念じる。

 発せられた淡い光はたちまちイザベラの顔のシミを除去してみせた。肌が美しく輝いている。


「落とせました!」


「……まぁ!」


 手鏡で成果を確認する。あれだけ貫禄のあったイザベラの顔がまるで少女のようなあどけなさを宿す。


「レイラ……ありがとう!」


「どういたしまして!」


 やり取りを見ていたアーティスたち。


「よく分からないが、なんだか上手くいったみたいだな」


「ええ、あのイザベラ女王が子供のようにはしゃいでますよ」


 このことが同盟結成への追い風となるかどうか――

 まもなく会談が再開される。


 再開されるや否や、イザベラはこんな申し出をしてきた。


「同盟の件、考えてもよいぞ」


「本当か!?」


 これにはアーティス始めメギドア陣営は驚いた。

 たった数十分の休憩で考えが変わるとは。これもレイラのおかげかもしれないとアーティスは心の中で感謝する。


「ただし、条件がある」


「なんだろうか?」


「そちらの聖女レイラを我が国に渡して欲しい。そうすれば同盟を前向きに検討してもよい」


 イザベラの要求はレイラだった。

 レイラを渡せば諸々のいざこざは全て水に流し、しかも同盟を検討するという。

 イザベラとて誇り高き女王、レイラを渡したのに同盟のことはとぼけるなどという真似はすまい。あまりにも破格な条件だった。


 重臣たちはもちろん、ボルツですら「レイラ一人で歴史的な同盟が成るならば」という考えが頭をよぎってしまう。


「断る」


 アーティスは即答した。


「なに……!?」


「アーティス様!?」レイラも驚いている。


 アーティスは言葉を続ける。


「レイラは……俺の聖女だ。あなたには渡せない」


「ほう、我が国との同盟より女を取るというのか? 皇帝としてはずいぶん浅慮な判断だ」


「あなたこそ、同盟のためにホイホイ女を差し出すような皇帝と同盟を組みたいのか?」


 この切り返しに、イザベラは不快感をあらわにする。


「ふん。レイラさえ差し出せば善処してやったものを。もういい、この会談は終わりだ」


 会談は最悪の空気になってしまった。

 ボルツがアーティスを見るが、アーティスも悔いはないといった表情。この亀裂を修復するのはもはや不可能だろう。


「待って下さい!」


 突如レイラが叫んだ。


「私、イザベラ様のところに行きます! だから同盟して下さい! お願いします!」


 イザベラが微笑む。彼女とてレイラの力が欲しいのは変わらない。魔法大国ですら除去できなかった自身のシミを消せた逸材なのだから。


「ほう、殊勝な心がけ――」


「待て!」


 だが、これを止めたのはアーティスだった。


「なんですか!?」


「嘘つくなよ。本当はもっとメギドアにいたいはずだろ」


「そんなことはありません。イザベラ様は素敵な方ですし、あの方のためならたとえ火の中炎の中です!」


「どっちも火じゃないか。とにかく、お前がこんな簡単に国を捨てられるはずがないんだ。考え直してくれ」


「ですからそんなことはありません! 私はもうあちらの国に心が移ってます!」


 君主同士の会談のはずが、皇帝と聖女で口論が始まってしまった。

 両者凄まじい剣幕なので誰にも止められない。


「私だって……もっとアーティス様のそばにいたいです。だけど、同盟のためなら……」


「無理する必要はないんだ。なんならレイラの代わりに俺がフェザードに行くという手もある」


「陛下が行ってどうするんですか。なんの役にも立てないでしょう」


「うぐ」


 ボルツのツッコミにアーティスは歯噛みする。


 だいぶ会談が乱れてしまったので、たまらずイザベラが仕切る。


「待て待て待て! お前たち、我々はメギドアの内輪揉めを見に来たのではないぞ! まったく安いメロドラマを見せおって……」


 照れ臭そうにするアーティス、ボルツ、レイラ。


「先ほども言ったように、会談は終わりだ」


「いや、ちょっと待ってくれ!」


 アーティスが引き止めようとするが――


「同盟は前向きに考えよう。私の恩人レイラの顔を立ててな」


「え……」


「それに聖女を差し出そうとしないところも不覚にも気に入った。では、失礼する」


 必要なことだけ言い、イザベラは颯爽と去っていく。女傑という言葉が相応しい風格だった。

 こうして会談は終わった。

 およそ君主同士の会談とはいえない内容だったが、そんなドタバタ劇がかえってイザベラの心を開き、その深層意識に訴えるものがあったのかもしれない。


 以後も、アーティスはイザベラと会談を交わし、同盟の内容を具体的に詰めていく。

 歩み自体はゆっくりだが、両国とも前向きな姿に、ボルツは近い将来同盟が現実のものになるかもしれないと予感する。

 しかし、このことが新たな外交問題を生むこととなるのである。

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